やばい雰囲気のそのお店。
もう何年も前の話だが、ふと思い出したので書いてみる。
その日は、会社が休みだったので、前々から気になっていたお店でランチを食べることに決めていた。その店は「ガンコ亭」という名の食堂だった。
ガンコ亭は、とにかく安さがウリのお店で、ラーメン・カレー・スパゲティが各250円という、まさにデフレ時代を象徴するようなお店だった。
入ってみると、静まり返った活気のないお店だった。店員のお姉さんも絵に描いたようなやる気のない接客で、正直注文をする前から「ここは入るべきお店ではなかったのかもしれない」と、後悔し始めていた。
そして、注文したラーメンとライスのセットが出てきた。
一口スープを飲む。驚く程コクが無い。まるで、醤油をそのままお湯で溶かしたかのようなコクの無さ。麺は普通の出来だったが、正直この味ならチキンラーメンを何も手を加えずに食べたほうが美味しいと思える様なラーメンだった。
そして、一緒に出てきたご飯がまた酷い。恐ろしくベチョっとした、水分多すぎのライス。これをラーメンのお共にするにはかなり厳しい。だが、頼んでしまった以上食べない訳にはいかない。どうにか麺だけは片付けて、ご飯は少し残した。
だが、このお店のエピソードはここでは終わらない。
会計の時に、お店のレジでお金を払おうとしたのだが、その時に「今日のランチ」的なもののサンプルが置いてあるのに気がついた。その「サンプル」がまた変わっていて、ラーメンの器に縄が入っていて、「ナルト」とか「チャーシュー」とか、文字で書いてある紙が、その縄の上に置いてあったのである。おそらく、縄はラーメンだと言いたいのだろう。はじめにこの「サンプル」を見ていれば、注文せずに帰っていたかもしれない。
代金は、350円(ラーメン250円+ライス100円税込み)だったので、1000円札を出したところ、店員のお姉さんは「あっ!」という声を上げて、店の外に走っていった。そして、自動販売機の鍵を開けて、中から小銭を持ってきたのだ。どうやらレジに小銭がなかったらしい。マジかよ。
というわけで、自分は、ガンコ亭にはもう二度と行くまいと心に誓った。
悪夢再び。
で、そのガンコ亭の看板が、しばらくすると「よっちゃん食堂」という名前に変わっていた。
お店の外装は変わってなかったが、看板には「ラーメン付き定食850円」などと書いてあり、ちょっと気になっていたのだ。ガンコ亭はいらない子だったけど、よっちゃん食堂はやれば出来る子になってるかも知れない!という事で、特攻してしまった次第である。
店を一歩入ると、店員の声はしても誰も出てこない。水はセルフサービスである。
とりあえず唐揚げ(+ラーメン)セットを頼もうと店員を呼ぶと、なにやら見覚えのあるお姉さんが注文を取りに来た。
この時点で察するべきだったのだが、自分に迫りつつある恐ろしい現実を受け入れたくなかったのかもしれない。
数分後、唐揚げセットが登場。恐る恐るラーメンを一口… むぅ、前よりは美味しくなってる…。といっても、スーパーのラーメン売り場で売ってるインスタントの味と大差がない。チキンラーメンとまでは行かないが、このラーメンと「行列のできる店のラーメン」とどちらが美味いかと言われると、迷わず後者を選ぶレベルだ。
特筆すべきは唐揚げの方だ。ビックリするほど味がないのである。これは、明らかに下味をつけていない。何も下処理をしていない鶏肉に、ただ粉を付けて揚げただけの代物だ。これが4つもあるのである。正直、完食するには醤油をかけて自分で味をつけるしか無かった。
そして、相変わらずベチョっとしたライスが、絶妙なハーモニー…というか不協和音をかき鳴らしてくれる。仕事疲れの身体にはかなり堪える組み合わせだ。
さらには、何故かカレー味を付けられたスパゲティサラダが、更なる高みへと食べる者をいざなう。間違いない、ここは来てはいけない店だったのだ…!
どこかの新聞社の、味にうるさいぐうたら社員や、美食家で有名な陶芸家なら「なんだこの料理は! これが唐揚げか!? 責任者を呼べ!」とでもなるところだが、自分は一介の会社員なので、素直にお金を払って帰って来た。もう二度と、同じ過ちは犯すまいと心に決めて…
何があっても二度とあの場所には近づかないと決めた。
その後、そのお店はあっさり潰れた。
今は、二郎系を謳うラーメン屋に変わっているが、自分はもう二度とあの場所に出来たお店には行くまいと決めたので、そのラーメン屋には行っていない。本当に二郎系と言える程の盛りがあるのかどうか不明だが、最近本家の二郎が我が町にやってきたので、正直そっちに行けば満足だと思っている。
というわけで、万が一サンプルに縄を使っているお店を見かけたら、とっとと立ち去るようにしましょうという、ありがたいお話でした。