門倉紫麻 漫画家になるための戦略教室

熱意はある。努力もしている。「才能あるよ」とも言われた。
でも、なぜか漫画家になれない——。
そんな漫画家志望者のあなた。
熱意はあって当たり前。努力も言わずもがな。
才能は、確かにあったほうがいい。
でも、漫画家になるためには、それでは足りない
「戦略」が、必要なのです!
漫画ライター・門倉紫麻が、作家陣へのインタビュー、モーニング編集部への
潜入取材を敢行して探った、その戦略とは!?
どこよりも実践的な漫画教室、開校!!

【2限目】 『東村アキコのクロッキー教室』密着レポート [後編] (2/2)(2015/02/19)

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かつて自身の故郷・宮崎の絵画教室で、美大受験生たちに絵の指導を行った経験を持つ、東村アキコさん。 そんな東村さんが講師となり、モーニングの新人漫画家たちに「クロッキー」を直接指導するという、夢のような教室が開催されているという。

「クロッキー」とは、モデルなどを素早く描写する「速写」のこと。「スケッチ(写生)」とは異なり、10分程度の短時間で描く。人物の全体像を瞬時に正確に捉え、1本の線で一気に描き上げるための訓練ともいえる。

2014年10月某日、都内にて8時間以上に及び行われた、そのクロッキー教室へ潜入!  そこには漫画の「線」を描くための、実践的戦略があふれていた……!!

あなたの線はもっとうまく、もっと早く、そしてもっとかっこよくなる!!!!

※前編はこちらで公開中です!

東村さんの作品。かっこよさにシビれる!
東村さんの1分クロッキー。同時にいくつもの連載作品を手がけられるのは(月産100ページ超が基本!)、きっとこんなふうにかっこいい線を、「1本で、一発で」当たり前のように描けるから!


続いて受講者も、自分の描いた絵を見せながら順番に報告。

以下では、受講者がクロッキー教室の最初のほうで描いた作品を【before】、終わり頃の作品を【after】として並べてお見せします。
なきぼくろさんの【before】。
なきぼくろさんの【after】。



なきぼくろ 最初は鉛筆で描いてたんで、おもしろくなくて。チャコペンに替えて、時間が短くなっていくうちに、ちゃんと描けるようになりました。普段、線を消せることに甘えているな、と思いました。これからは、1回1回を大事にして描きたいです。


東村 最初の頃と最後では、全然違うね。すごくうまくなっていると思います。
青野寧々さんの【before】。
青野寧々さんの【after】。



青野寧々 体の曲線美っていいな、1本の線で描けたらかっこいいだろうな、と思うようになりました。短い時間になると、余計なことを考えなくなるのでよかったです。今まで見せゴマ以外は、描き飛ばしていたところもあったんですが、もったいないことをしていたなと思いました。これからは、じっくり描きたいです。


東村 もともと絵がすごくうまいんだよね。デッサンとか、かなり完璧。最初は生のモデルに気圧された感じの線ですね。最後のほうは線の数も減って、すっきりしたいい線になった。ヌードの絵のほうが、気持ちがのっている感じがします。
河部真道さんの【before】。
河部真道さんの【after】。



河部真道 初めて漫画を投稿した時、「自分ってヘタだな」と思ったんですが、今日またそれを思いました。明るいところで女の人の裸を見ることがあんまりなかったので……きれいなものだなあと思いました。こういう肉のつき方をしているんだ、と。苦手だと思っていましたが、これからは裸の女の人も描いてみようと思います。


東村 誠実な絵だと思います。すごくうまくなった。最初はモデルさんに対する緊張があるよね。でも1分だとドキドキしている暇もなくなって、いい絵になってくる。ラスト、すごく線がいいです。
谷口千昂さんの【before】。
谷口千昂さんの【after】。



谷口千昂 クロッキーは初めてだったので、最初は戸惑いもあって……。失敗した線を消したい気持ちと闘いながら描いていました。漫画では、つい顔ばかり描いていたんですが、これからは引きの絵で全身をしっかり描いていきたいです。


東村 1枚目からいきなり強い線が描けていて、「いいな」と思っていたんです。人物と空間を切り裂くような、迷いのない線が描けている。急にうまくなる瞬間がありましたね。モデルさんに対する感動が、線にのっている感じがするんですよ。これからどんどんうまくなる人だと思う。
さとう柏花さんの【before】。
さとう柏花さんの【after】。



さとう柏花 自分はヘタなんだ、という自覚が芽生えました。でもそれは悪いことじゃなくて、いっぱい恥をかけてよかった。一人ではわからなかったことです。たくさん描けばのびしろがあるんだと思えた。形を早く取れるようになったと思うし、モデルさんには、感情ってポーズで表せるんだ、ということも教わりました。


東村 最初はひとかたまり感がなかったけど、途中からのってきて、線ものびのびしてきた。「決まった!」っていう絵が描けてたよね。弘兼憲史先生の絵に通じるような、いい絵もありました。


みんな、それぞれに何かをつかみ、新たな目標を得た様子。東村さんからは、受講者の報告を聞きながら、こんなコメントが。


東村 1分とか2分の短い時間が描きやすかった、楽しかった、というコメントが多く聞かれたんですが、そう感じるのは最初に長い時間で描いているから。いきなり2分で描いても、慌てているうちに終わっちゃう。でも、一度20分でしつこくやっておくと、自分の問題点に直面するでしょう。「あ、私はこれもできないんだ」って気づいて、描きながら自分と向き合っていって、2分で描く時にはふっ切れる——そういう訓練をしているようなもの。

だから家でしばらくぶりにやってみようと思った時、いきなり2分で始めても意味がないんです。今日と同じように、最初は20分を2、3ポーズ、長い時間をかけて、それから10分、5分……と縮めていってください。

今日は、だいぶ追い詰めるように、余裕のない状態で描いてもらいました。なぜクロッキーでは、そんなに追い詰めて描くかというと、本能で、感覚的に描く瞬間を迎えてもらうためです。時間を区切って、しんどい状況で、大人数で、閉鎖空間で、休憩も5分くらいで。しかもお金で雇ったプロのモデルさんがいて……そうやって追い込まれた時に、わっと本能で描く瞬間がくる。

みんな、覚醒したな、みたいな瞬間があったのでは? たとえ完璧に描けなくても、ヘタでも、そういう瞬間があれば、いいんです。


受講者の報告が終わると、「私はもう言いたいことはすべて言ったので、あとは編集長、お願いします!」と東村さん。

そして編集長から受講者へ、エールが送られた。


モーニング編集長 本当にお疲れさまでした。あらためてみんな、絵がうまい! と実感しました。「現実を見ながら物を作る」ことを、もう一回意識していただきたかった、というのが今回東村さんにクロッキー教室をお願いした最大の目的です。

あとはキャラクターの描き分けですね。これからは、キャラのバリエーションが、「多い」ではなく「無限に描ける」でないとだめだと思います。人間って、無限にいるわけだから。デビュー前だと、モンタージュ写真みたいなキャラを創ってしまう人が多いんです。テレビ、雑誌に出ている人でもいい。いろんな人を、実際に見て、漫画を描いてほしいです。

みなさんの絵を見ていたら、「あ、このモデルさんが好きなんだな」というのが伝わってきた。好きなものを描くのは楽しいし、見ているほうも、それを見るのは楽しいんですよね。

みなさん、お疲れさまでした! そして東村さん、本当にありがとうございます!


ここで東村さんが、「みなさん、こんなこと……こんなおかしなことを新人にしてくれるのは、モーニングだけだと思うよ!」と言うと、「いや、もっと変なことしたいです!」と編集長。

全員で東村さんに、「ありがとうございました!!」とお礼を言って、クロッキー教室は終了した。

この時点で22時30分過ぎ。ようやく今夜泊まる部屋に荷物を置きに行くが、すぐロビーに集合し、懇親会のため夜の街へ! 「泥酔して、もうひと勝負描きたい、って人は付き合います!」と東村さん。長い1日はまだまだ終わらない……(宴は朝まで続いた!)。



おわりに

まったく素人の筆者でも、1枚目と後半とでは線が変わり、終盤の2分、1分の時には、「これか!」という楽しい瞬間がやってきました。「量」をこなしながら「線」を鍛える「クロッキー教室」は、「絵画教室」とはまったくの別物であり、漫画においていかに実践的で役立つかも体感。

日頃から漫画を描いている新人作家であれば、その上達ぶりはいかほどか……。クロッキーの画像を見てもわかるように、どの受講者も、まさに「短い時間で、迷わず、1本の線で、一発で」見事に描けるようになっている! これから先、漫画の絵のクオリティと下描きにかかる時間に、きっと大きな変化が表れるはず。

美術畑の知識と経験を、漫画のテクニックに落とし込み、絶妙のタイミングでアドバイスを繰り出す東村さんのすごみも感じました。描き上げたクロッキーの美しさにも感動! 受講者も、どよめいていました。

  • ※本記事と併せて、東村さんが絵の師匠との日々をつづった自伝『かくかくしかじか』を読むことを強くおすすめします!! 東村さんの「描くこと」への思いが深く、胸に沁みます。

なかなか「希望者全員参加!」というわけにはいきませんが、もっとうまく、早く、かっこよく線を引きたいという人は、本記事の東村さんのコメントを意識しながら、自宅でトライ(20分、10分、7分……2分、そして1分!)してみてはいかがでしょう。
素人の進歩を参考までに……。筆者の【before】です。
そしてこちらが、筆者の【after】。弱々しくて「シャカシャカと何本も線を引いて描いた」典型的なダメな絵が、終盤の1分では一応1本線に。ヘタなりの「覚醒」の気持ちよさが味わえます!




モーニング編集部では、今後も新人賞受賞者を対象に、クロッキー教室を開催する予定です。

東村さんの教えを直に受けたい! という熱意のある方は、ぜひともモーニングの新人賞にご応募ください!

モーニングの新人賞についてのインフォメーションは、こちらのリンク先よりご確認ください。

【2限目】 『東村アキコのクロッキー教室』密着レポート [後編] 全2ページ中2ページ目

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プロフィール

門倉紫麻(かどくらしま)
漫画ライター。
1970年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業。Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。

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