週刊東洋経済の書評から

右も左も「脱近代」に魅せられている不思議

いま日本と中国で起きていること

著者は、日中「公共圏」の必要性を説く(写真: iroha / PIXTA)

安易な近代批判を戒め日中「公共圏」を提唱

著者は気鋭の中国経済研究者だが、本書ではあえて専門分野の外にまで踏み出した。現代中国に関する多くの書籍が見落としている視点を掘り下げ、類書のない著作に仕上がっている。

中国の不動産問題について報道されたり議論されたりする際には、「バブルが崩壊するか」だけが焦点となりがちだ。薄熙来事件のような政治スキャンダルがあれば、もっぱら「共産党の権力闘争の行方は」といった関心で扱われる。また、日本の安全保障にとっての中国の「脅威」が議論される場合には、共産党によるナショナリズムの発揚などが焦点となる。

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本書では、こうした問題に通底するのは何かを探り出すための問いが繰り返し提起される。いずれの課題も経済格差の拡大やモラルの低下と密接に関係しており、こうした社会の歪みをもたらすものは「内部」の民間思潮にあるというのが著者の問題意識だ。その構造は日本にも見られるものであり、著者は、日中の知識人による国を超えた「公共圏」づくりに現状打開の可能性を見いだす。

同時に著者は、西洋近代に対する疑義を呈したいわゆる「アジア主義」が日本で再び台頭していることに懸念を示す。グローバル資本主義批判など「脱近代」を志向する言説には、非合理的な体制の安易な肯定に陥りかねない危うさがあるからだ。

その代表格として批判されているのが、近著『帝国の構造』で現在の中国を王朝に見立て、「帝国」としての中国の現状を肯定的に描いた柄谷行人氏だ。一方で日本には「八紘一宇」のような超国家主義的理念に共感する国会議員もいる。左右両極の人々が、「脱近代」に突破口を期待するという点で奇妙な一致を見せるのはなぜか。近代的価値観の重要性にこだわりつつ、時代の難問に挑んだ意欲作だ。

著者
梶谷 懐(かじたに・かい)
神戸大学大学院経済学研究科教授。1970年大阪府生まれ。同大学院経済学研究科博士課程修了。専門は現代中国経済論。著書に、単著として『現代中国の財政金融システム』『「壁と卵」の現代中国論』、共著として『経済大国化の軋みとインパクト』など。

 

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