駆け魂編
ちひろは自分が平凡な人間であることを知っている。勉強も運動もできず、見た目もぱっとしない。叶えたい夢があるわけでもなく、だから大した努力もしてこなかった。輝いている人に憧れ、自分も輝きたいと思っているちひろだったが、自分の平凡さに絶望し、何事にも真剣になれずにいたところ、駆け魂に憑依されることになった。自分は輝けないと悟ったちひろは、適当に恋でもして生きようとしていた。しかし、どこかでまだ「輝きたい」という気持ちがあって、恋にも真剣になれなかった。失恋してもすぐ立ち直ることができたのは、それが本当の恋ではなかったからだ。
アニメは原作とは違い、ちひろの視点を加えて、より深くちひろの気持ちを掘り下げている。雨の中で練習している歩美をちひろが目撃するシーンは、夢に向かって頑張っている歩美を羨ましく思う気持ちや、歩美と自分を比べて落胆する気持ちがよく伝わってくるシーンだ。特に窓の外からちひろを映したカットは、ちひろの孤独な気持ちが強く伝わってくる。
そんな憂鬱な日々が少しだけ楽しく思えるようになったのは、桂馬がいてくれたからだった。
桂馬は、ちひろがイケメンと恋仲になれるように手伝ってくれた。イケメンのことが好きだと言うちひろだったが、本当に気になっていたのは桂馬だった。だからこの数日で桂馬と仲良くなれた気がして、ちひろは嬉しかった。
「雨も、いいもんだよね、たまにはさ」
雨空を見上げながら呟く。恋をして生きるのも悪くないと思ったのかもしれない。輝けなくてもいいと思ったのかもしれない。 告白予定日、桂馬のことを夢に見たちひろは、傘を持って出かける。
この登校シーンは、ちひろの鼻唄が切なく響き、印象深い。
風船、缶ジュース、鉄柵、スコップなど、赤色のものがたくさん映されているが、これは色の演出だ。連鎖した赤色は信号機によって「止まれ」の意味になる。このシーンは自分に自信がなくて前に踏み出せないちひろの止まった気持ちが表現されているのだと思う。 そんなちひろの気持ちを知った桂馬は「ちひろが望めば何でもできる」と勇気付けた。桂馬が心のスキマを埋めたことで、駆け魂はちひろの中から出ていき、ちひろは自信を取り戻す。
その後、ちひろは自分が輝くためにバンドを始めた。
「私も歌下手だけどさ、自分の人生いつでも私がボーカルだ。下手でも私が歌わないとね」
止まっていた心は再び動き出し、ちひろは前に向かって走り出す。
自分の可能性を信じて頑張ることに決めたちひろは、小鳥達を見上げて微笑むのだった。
女神編 ちひろの恋
女神編は駆け魂編から半年後の出来事だ。駆け魂が出された時に桂馬と恋をした記憶は消えたが、ちひろはそれ以前から桂馬を好きだったので、桂馬を好きな気持ちは消えなかった。そのため、女神候補の一人として疑われ、再攻略対象にされることになる。
女神編のちひろは何度も輝ける女の子として描かれている。
ちひろは軽音部を作り、少ない時間を有効に活用して、真剣にバンド練習に取り組んだ。
夢中になれるものを見つけた彼女は、昔とは見違えるくらい魅力的な女の子になっていた。
しかし、ちひろには女神がいなかった。そのせいで、ちひろは桂馬に振られる。
「なんで前夜祭、私とデートしたの?桂木がなんの理由もなく、デートなんかしないよね?
もしかして、私の中にも何か、何かあったのかな?」
全てが終わった後、ちひろは桂馬に尋ねる。何かあったなら、桂馬とまだ縁があるかもしれなかった。しかし、桂馬からの答えは「ちひろは関係ない」だった。
「あー、よかった。これで関係あったら最悪だし。これでもうあんたと話しなくて済むわ」
ちひろの心を繋ぎとめていたわずかな希望は消え、恋は完全に終焉し、もう桂馬の傍には居られなかった。本当は何かあってほしかった、桂馬と話をしたかった、関係を持っていたかったんだと思う。桂馬が秘密にしていることを話してほしかったんだと思う。しかし、ちひろにはどうすることもできなかった。
「それじゃ、桂木。バイバイ」
ちひろは桂馬に別れを告げる。そんなちひろを朝日が照らす。 そうして、学園祭ライブが始まる。
ライブの最中、ちひろは女神を見る。女神を見た瞬間、ちひろは桂馬が必死で戦った意味を理解し、それと同時に、自分が彼女達のような羽根を持っていないことを知る。
ちひろは自分が平凡な人間であることを知っていた。勉強も運動もできず、見た目もぱっとしない。叶えたい夢があるわけでもなく、だから大した努力もしてこなかった。しかし、ちひろは変わった。自ら輝くために、少ない時間を有効に活用して真剣にバンド活動に励んだ。自分の可能性を信じて必死で努力した。
そしてやっと歩美達と同じステージに立てたのに。 自分だけ違うという孤独、桂馬の特別になれない悔しさ、まだ好きだという気持ち、女神達への嫉妬、様々な感情が入り混じって、ちひろは唇を噛みしめる。
それでも、ちひろは負けたくなくて、ギターをかき鳴らして歌う。
叶わなかった初恋を思い出し、涙を流しながらも、歌い続ける。
演奏を無事に終え、ギターを抱えて泣くちひろ。ステージに喝采が響いた。
ちひろの物語は、失恋の物語であり、ちひろの成長の物語だ。輝くことに憧れていただけだった少女は、自ら輝ける少女へと成長した。涙を流しながらも最後まで歌い切ったちひろ。本当にかっこよかった。女神達に負けないくらい輝いていた。心揺さぶられた。
神のみぞ知るセカイの中で一番好きなキャラクターだ。
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