逢坂大河
好きだったはずの両親が離婚した。幼い大河がどれだけ泣き叫ぼうと、どうしようもないことだった。母親は出て行き、大河は父親である陸郎の元に取り残された。陸郎が女を作り、新しい母親として家庭に迎え入れると、親子関係は一気に険悪になった。大河は精神的にボロボロになり、素行不良を起こすようになる。
家庭は毎日が修羅場だった。ある時、大河が「こんな家出て行きたい」と言ったところ、陸郎はそりゃ好都合とばかりにマンションをあてがい、邪魔な娘を追い出した。たった一人で寂しくマンションに住むことになった大河は、家事すらできず途方に暮れた。
大河はたくさん泣いて馬鹿みたいに色んなことを考えた。この世の中で許せるものは本当に少ししかなかった。望んだものは壊れた。幸せだった日々は帰ってこない。誰も自分をわかってくれないし、誰も愛してくれない。
「なんでこうなっちゃったんだろう?どうすればこうならないで済んだんだろう?」
大河は自分を責め、自己否定し続けた。
手乗りタイガー
大河は大橋高校に入学する。人形のように可憐な容姿は注目の的だったが、相変わらずの素行の悪さで、“手乗りタイガー”と呼ばれ恐れられるようになった。
ある日、屋上で大河は告白される。
「逢坂! お前のその怒りを隠さないストレートな性格がいい!惚れた!」
誉めてるのか貶してるのかわからない変な告白だった。大河は驚いて断ってしまうが、それからその告白してくれた男、北村祐作のことを意識するようになる。そのままの自分を必要としてくれる、そんな人が居ると思い、大河は嬉しかった。
友達の少ない大河だったが、櫛枝実乃梨と仲良くなった。家事が得意な実乃梨は、大河のマンションに行って身の回りの世話をしてあげていた。
秋になり、文化祭が近づいた頃、大河の前に陸郎が現れる。
「夕とは別れるつもりだ。大河とまた一緒に暮らしたい」
陸郎は言った。大河は喜び、大河の事情を知っている実乃梨も、親子一緒に暮らせることを喜んだ。しかし、一緒に住む計画は突然白紙になる。
陸郎は後妻と仲直りし、大河を捨てたのだ。実乃梨はそのことに激怒する。
大河は実乃梨が陸郎を恨むのを望まなかった。自分を捨てた父でも他人に悪く思われたくなかったのだ。困っているとSOSを出せば、実乃梨が陸郎を怒ると考えた大河は、実乃梨の支援を拒み、家族のことを何も話さないようになった。こうして、実乃梨が大河のマンションに行くことはなくなった。
虎と竜
そして、高校2年の春。とらドラ!の1話はここから始まる。逢坂大河は、同じクラスになった北村祐作にラブレターを書く。放課後、誰もいない教室で、大河は北村の鞄に手紙を入れようか迷っていた。その時、誰かがやってくるのを感じ、気が動転した大河は、手紙を鞄の中に放り込んでしまう。
掃除ロッカーに隠れた大河だったが、勢い余ってロッカーを倒してしまい、教室に入ってきた高須竜児に見つかる。竜児が鞄を持つのを見て、大河は北村の席を勘違いしていたことに気付く。あろうことか、竜児の鞄に手紙を放り込んでしまったのだ。大河は慌てて手紙を奪い返そうとするが失敗する。
大河の気持ちは、北村以外の誰にも知られないはずだった。本人に直接言うのはおろか、手紙を渡す勇気もなかったので、本来、胸に秘めたまま終わるはずの初恋だったかもしれない。それなのに、よく知らないクラスメートの男にラブレターの存在を知られてしまったのだ。みんなに言いふらされてバカにされると思うと、大河は死にたくなるくらい恥ずかしかった。
その夜、大河は凶行を起こす。竜児の家に忍び込み、木刀で竜児を襲撃したのだ。そこで大河が知ったのは、手紙の中身が空っぽだったという事実だった。
竜児が実乃梨のことを好きだと知った大河だったが、そんなことはどうでもよかった。
大河は、どうしてもこの恋を成功させたかった。しかし、大河にはたくさんのコンプレックスがあり、自分に自信がなく、告白する勇気を持てずにいた。 「今度、ゆっくり相談に乗ってやるから!何でも協力するから」
竜児は泰子が帰ってくる前に大河を帰らせようとする。竜児は厄介払いしたかっただけだが、一人で悩んでいた大河には救いの言葉だった。 翌朝(襲撃からほんの数時間後)、大河は電話で竜児を家に呼び出す。
大河が二度寝から目覚めると、キッチンは見違えるように綺麗になっていて、温かい朝食が用意されていた。実乃梨が来なくなってから半年間貯まり続けたゴミを、竜児が片付けてくれたのだ。優しくされることに慣れていない大河は、ついぶっきらぼうな態度を取ってしまうが、本当は嬉しかった。
竜児と大河
大河は、いつのまにか竜児の家で食事を取るようになっていた。竜児の母、泰子は大河が一人暮らししている事情を知って快く受け入れた。大河にとって高須家は居心地がよかった。誰もいない高級マンションより、家族のいるボロ家アパートのほうが大河には良いものに思えた。望んだものがここにある気がしたからだ。 竜児は大河の恋に協力した。しかし、よく一緒にいたせいで「2人が付き合ってるんじゃないか?」と噂が流れ始める。噂は北村や実乃梨の耳にも入り、誤解されてしまう。「悪かったわね。私があんたん家に押しかけたせいで、みのりんに誤解されちゃった」
夜のファミレスで大河は竜児に謝り、内に秘めた気持ちや境遇を打ち明けた。互いに気持ちを吐き出す中で、大河は北村に告白する決意を固める。そして、竜児との協力関係も解消することにする。竜児が本当に優しい奴だとわかって、もう迷惑をかけたくなかったのだ。
次の日の朝、大河は北村を校舎裏に呼び出した。告白するつもりの大河だったが、北村を前にして緊張して声が出なくなってしまう。それでも竜児がいてくれたから、励ましてくれたから、大河は勇気を振り絞って告白する。
大河の告白を聞いた北村は言う。
「おまえの気持ちは、たぶん正しく伝わったと思う。覚えてるか?逢坂。1年前のことを。お前はあの頃よりずっと、面白い顔をするようになった。高須といる時のお前は本当に面白い顔をしていた。高須はすごくいい奴だ。そして、あいつをさっきみたいに思える逢坂は本当に素敵な女子だと思う。俺たち、きっとすごく良い友達になれる」 それは大河の望んだ関係ではなかった。北村は去り、大河はその場に立ちつくす。ストレートに告白したはずなのに、北村に受け入れてもらえなかった。誰も自分をわかってくれない。誰も愛してくれない。大河は独りぼっちだった。 そこに竜児が現れる。竜児は全て見ていて、慰めに来てくれたのだ。
「大河!虎と並び立つものは昔から竜と決まってる。俺は竜になる。そんでもって、竜として大河の傍らに居続ける」
竜児は宣言する。大河は竜児が「傍らに居続ける」と言って励ましてくれたことが涙が出るほど嬉しかった。こうして、大河と竜児の不思議な関係は続いていくことになる。
花火
夏休みのある日、大河は犬になった竜児と結婚して犬の子を産んで暮らす夢を見る。これを警告夢だと考えた大河は、未来を変えるため、亜美の別荘で過ごす間、一方が一方を全力でサポートすべきだと提案する。そうして、バドミントン対決で負けた大河は、竜児と実乃梨がうまくいくようにサポートすることになった。亜美の別荘に着いた大河達は、海ではしゃいだり、おいしいカレーを食べたり、好きな相手と2人っきりになったり、毎日の学校生活とは違う非日常を楽しむ。
その夜、大河は竜児に言う。
「それにしても疲れたわ。北村君と一日中ずーっと一緒なんて、どれだけ幸せなんだろうって思ったけど、緊張しすぎて早死にしそう。あんたと一緒でも全然平気なのに。ばっかみたい。こんな広い部屋なのに、せせこましくくっついて。狭いアパート根性が染み付いちゃったみたい。」竜児と結婚して暮らす未来。それも意外とアリなのかもしれないと大河は思う。
「竜児、私思ったんだけどさ、あの夢って意外と・・・」
しかし2日目の夜、花火に夢中になる実乃梨の背中を竜児は見つめていて、大河は気付くのだ。この物語の結末に。竜児と実乃梨が結ばれれば、竜児の隣にいられなくなることに。 竜児と過ごす日常こそが、花火のように消えるうたかたの夢であることに。
10話ラスト、家路につく大河は竜児に寄り添う。こうして日常(=大河の夢)へと帰っていく。
大橋高校文化祭
夏休みが終わり、文化祭が近づいた頃、大河の前にまた陸郎が現れる。恨んでいる父親を邪険にする大河だったが、竜児に諭され、もう1度陸郎を信じることにする。大河は陸郎の気持ちに一生懸命応えた。文化祭の準備で忙しく過ごす中でも、大河の表情は明るかった。 文化祭に来ると約束してくれた陸郎のために、大河はクラスの出し物であるプロレスショーの練習に励む。父親に良いところを見せたいと、亜美に1度だけ役を交代してほしいと頼んだりもした。
しかし、文化祭当日、プロレスショーにも、その後のミスコンにも、陸郎が現れることはなかった。また大河は裏切られたのだ。
『自分が望んだものは決して手に入らない』
そんな世界の法則がわかって、大河はどうしようもなく立ち尽す。
ミスコンで優勝し、黄色い声援に囲まれても、大河は独りぼっちだった。 傷心の大河を慰めるために、竜児と実乃梨は校内サバイバルレースを走り、優勝する。
大河にティアラを贈呈する竜児と実乃梨。大河は2人の顔を両目に刻み込みながら、2人が結ばれることを願いながら、心の中で思う。そんなに心配しなくても大丈夫。私は一人で立ちあがれるから。一人で生きていけるからと。
北村は大河にダンスを申し込む。北村の優しさに大河は笑顔で応える。
キャンプファイヤーを囲み、みんなで輪になって騒ぐ。大河は思う。笑うたびに走る痛みも、この辛い夜を乗り越えれば、きっと大丈夫になっていくはずだと。
踏み出す一歩
大河が望んだものは、自分をありのまま愛してくれる人の存在だった。北村は自分をありのまま愛してくれるかもしれないと思っていた。優しく手を差し伸べてくれる北村は、誰からも愛されない大河の最後の救いだった。しかし、北村が望んだのは狩野すみれだった。 狩野すみれは告白の返答を避け、北村を衆人の笑い者にした。北村の告白は、大河の失恋を意味していた。望まれていないとわかって、北村の傍にいることはできなかった。それでも、大切な友達のためにできることはしたかった。
大河はすみれに殴りこむ。 感情を剥き出しにして殴りあう大河とすみれ。
「あんたはただの臆病者だぁっ!傷つくのも、傷つけるのもあんたは怖いんだ!その臆病さが、卑怯さが、北村君を傷つけたんだ!許さない!ぜっっっったい、許さない! 臆病者っ!卑怯者っ!自分の心に向き合えない弱虫っ!」
大河になじられたすみれは、ずっと内面に押し殺していた気持ちを暴露する。
「テメェに私の何がわかる!テメェみたいな単純バカになれるんだったらなりたいよ!真っ直ぐ突っ走るだけのバカになれたらって思うよ! 好きなんて言ったら、あのバカは私について来ようとするじゃねぇか!私がそうしてほしいってわかったら、私のためにそうするだろうが! いろんなモンを犠牲にして・・・。あいつはそういう奴だ。だから・・・だから私はバカになれない!!」すみれの気持ちを聞いて、大河はもう何も言えなかった。
北村も、すみれの言葉を聞いていた。涙を流し、感謝の気持ちを伝える北村。
大河はただ呆然と座り込んだ。
後日、狩野すみれのホームステイ先に大河から葉書が届く。その葉書には「バカ。」とだけ書いてあった。「私はバカになれない」と言ったすみれへの返信で、大河なりにすみれを認めた言葉だった。
長くなってしまったので、記事を分けます。
あらすじばかりですが、どう書こうか悩みました。大河の気持ちについては原作7巻の独白を参考にしています。大河の知らない事情については省きました。
感心したのは10話です。原作を読んでから改めてアニメを見直すと、大河の表情の意味がわかって、違った印象になりました。好きなのは13話。大河の笑顔が本当に愛おしいです。
ストーリーは16話を境にして、ここから終わりにかけて綺麗に畳み掛けていきます。竜児、大河、実乃梨、亜美、それぞれの思いが交錯し、怒涛の展開を見せます。
では、また次回『とらドラ! 逢坂大河の物語(後編)』で。
コメント
コメント一覧
質問があるのですが、一年生の時の文化祭らへんの陸郎と大河とみのりんのお話はそこまで詳しくやってましたっけ?アニメ版では放送していないのでしょうか。
どこで見ればそのお話が見れますか?
コメントありがとうございます。とらドラ!は基本的に竜児視点で物語が進むので、1年前のことはキャラクターの台詞からわかるのみです。
13話後半、実乃梨と竜児が話すシーンで、1年前に同じように陸朗が現れ大河と一緒に暮らすことになったのに陸朗が突然いなくなってしまったこと、それで実乃梨が陸朗に激怒したこと、そういうことがあって、大河が家の事情を話してくれなくなったことが語られています。
(原作だと同じシーンでそのあたりの事情がもっと詳しく書かれています。)
今DVD見て全部見たんですけど、ここの記事と照らし合わせてみると本当に数倍楽しく見れます!
ありがとうございます!>_<