九州電力川内原発(鹿児島県)の制御棒を引き抜いて、脱原発依存のたがを外したとでもいうのだろうか。政府の方針に思惑がにじんでいるようにも見える。国民の多くは、それを望んでいない。
川内原発の再稼働をきっかけに、原発回帰への地ならしが始まったとでもいうのだろうか。
経済産業省は、停止中の原発に対する交付金の額を引き下げることにしたという。
原発施設を受け入れる自治体には、電源三法に基づく交付金が支払われることになっている。一九七三年の第一次石油危機のあと、火力発電への依存を抜け出すためにできた制度である。
水力や地熱などにも支払われるが、事実上、原発立地を後押しするための仕組みになっている。
そのうち最も多額な電源立地地域対策交付金は、例えば原発の稼働率に応じて交付額が増える。
ところが、3・11後の特例として、安全のために運転を停止させた原発は、すべて稼働率81%、すなわち定期点検期間を除いてフルに稼働できたと見なされた。
経産省はこれを改め、3・11前の稼働実績を踏まえて、各原発それぞれに、みなしの稼働率を定めることにするという。
一見、公平なようにも見える。だが、81%は上限だ。原発を稼働させない限り、交付額は今より必ず下がる。従って立地自治体は、再稼働を急がざるを得なくなる。
立地自治体の中には、歳入の八割を原発に頼る村もある。
原発依存の根っこには、交付金への依存がある。老朽化した原発の延命を望む声も高まるだろう。
しかし政府は、昨年四月に閣議決定した第四次エネルギー基本計画に、原発依存を「省エネルギー・再生可能エネルギーの導入や火力発電所の効率化などにより、低減させる」と明記した。
原発依存を本気で見直すつもりなら、再生エネへの転換が加速するように、交付金制度を見直すのが筋ではないか。
また、温室効果ガス削減の新たなルールを決めるパリの国際会議(COP21)を年末に控え、多量の排出源として石炭火力に逆風が吹いている。排出削減に知恵を絞るのは当然だ。
だがそれを、発電段階では二酸化炭素(CO2)を出さないという原発回帰の口実にしてはならない。原発も地球環境に対する巨大な脅威をはらむ。
再生エネの普及は、CO2削減の王道でもあるのだし。
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