安倍首相が「計画を白紙に戻す」と宣言してから6週間、見直された新国立競技場の計画概要が28日に示された。

 建設費の上限は1550億円、工期は東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年の4月末とする。観客席の数は国際オリンピック委員会(IOC)の求めに応じて6万8千とし、屋根は観客席に限られた。一方、構想にあった冷暖房設備や、コンサートを想定した開閉式屋根の設置は見送られた。

 新計画は、一時は最大約3462億円まで膨らんでいた旧計画の内容を見直すとともに、過去の五輪競技場の建設費と比べながら必要なコストを積み上げて算定していったという。

 政府は、最終的に2651億円となった旧計画から約1100億円を圧縮したと強調。遠藤五輪担当相は「妥当な、皆さんにご理解いただける数字」と言う。

 しかし、1550億円が妥当なのかは、判然としない。比較対象の2651億円が適正な額だったのか極めて怪しい。差額だけ強調されても評価は難しい。加えて、IOCが求める20年1月に完成を早めれば、費用は増える見通しだという。それでは、差額も縮んでしまう。

 旧計画の問題点や責任の所在などについて、文科省の第三者委員会で検証が続けられている。検証を急いで具体的な反省材料を示し、それを新計画にどう生かしたのか示さない限り、判断のしようがなく、国民の信頼は得られまい。

 本来は、検証結果を踏まえて計画を見直すのが筋だ。しかし、残された時間を考えれば、新計画を示して早く作業に着手する必要性は理解できる。

 それでも、時間がないからといって、なし崩しで計画を進めてよいはずがない。計画や作業に関する情報を公開し、必要があれば修正を加える柔軟さが必要になる。

 新計画では、サッカーのワールドカップを想定して大会後に観客席数を8万に増やす方針も示された。一方で、財源の確保や開催後の維持管理、その後の活用方法も依然、具体的には明かされていない。

 旧計画の見直しを先送りしたツケも回って一層、難事業となってしまった。スポーツ関係者の意向を反映させるだけでは済まない。安全性を確保しながらコストも見なければならない。

 旧計画と同じ失敗を繰り返さないためには、走りながら考えることが必要だ。カギは、国民の信頼を得ることにある。その点を肝に銘じてほしい。