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「孤独のグルメ」、ヒットの鍵は「非トレンド」 原作者、久住昌之さんに聞く

2015/8/25 12:00
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 松重豊主演の人気ドラマシリーズ『孤独のグルメ』(テレビ東京系列)の「Season5」が、10月から放映される。原作漫画(久住昌之原作、谷口ジロー作画、扶桑社刊)も18年ぶりとなる2巻が9月末に刊行予定で、この秋は「孤独のグルメブーム」の到来もささやかれる。中年男性が食事を楽しむだけの淡々としたストーリーが人気を集める理由とは。原作者の久住さんに聞いた。

久住昌之/くすみ・まさゆき 1958年生まれ、東京都出身。漫画原作者、漫画家、エッセイスト。「孤独のグルメ」(谷口ジロー作画)、「花のズボラ飯」(水沢悦子作画)などのヒット漫画の原作を手掛ける。デザインや装丁、音楽など幅広いフィールドでも活躍
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久住昌之/くすみ・まさゆき 1958年生まれ、東京都出身。漫画原作者、漫画家、エッセイスト。「孤独のグルメ」(谷口ジロー作画)、「花のズボラ飯」(水沢悦子作画)などのヒット漫画の原作を手掛ける。デザインや装丁、音楽など幅広いフィールドでも活躍

 ――18年ぶりの2巻刊行、そしてドラマの「Season5」の放映と話題が続きます。『孤独のグルメ』人気の高まりをどう捉えていますか?

 「ファンの裾野の広がりを感じる。当初は30~40代の男性読者ばかりだったが、10年たった頃から若い世代や女性の読者が増えた。きっかけはインターネット。作品に出てくる店を食べ歩く人のブログやホームページが出てきて、そのうち(主人公の井之頭五郎が)『五郎ちゃん』と呼ばれるようになった。そういうキャラとして描いたつもりはなかったので、驚きました」

 ――1997年に刊行された1巻に文庫版、新装版などを加えたシリーズ累計部数は58万部に達しました。長く読み続けられる理由は。

 「デビューしたときから、すごく新しいとか、今っぽいものではなく、『古くならないもの』をつくりたいと思っていた。(漫画『孤独のグルメ』が)長く読み継がれているということは、谷口(ジロー)さんの絵が何度も読まれるのに耐えうるものだということ。時間をかけて緻密に描いてくださるので、普通の店が漫画の中ではすばらしい店になり、食べるという日常の行為が特別なものに見える」

 ――2012年にスタートしたドラマシリーズも好評です。

 「漫画は20年かけてだんだん売れてきて、ドラマもseason1からスタートしてだんだん認知度が上がってきた。漫画の原作をつくっているときはドラマのことは考えていなかったし、漫画は漫画の世界観があるから、それをただなぞると失敗すると思った。ドラマはドラマで、ゼロからつくっています」

 ――漫画に登場する店と、ドラマに登場する店は違いますね。

 「漫画の原作を描くときの僕の店選びのポイントは、『漫画になる店』。おいしいとか、味にこだわっているということではなく、おもしろい漫画が描けそうな店を選んでいます。ドラマに登場する店は、漫画を熟読したスタッフたちが選んできてくれる。雰囲気をつかんでくれているので、ドラマの店選びについて、僕から注文することは特にないですね」

「知らない街で食事をする店を選ぶ際は、一人で街を歩いて迷いながら決める。ネットも見ない。店の前を通りながら、ひとり迷う」
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「知らない街で食事をする店を選ぶ際は、一人で街を歩いて迷いながら決める。ネットも見ない。店の前を通りながら、ひとり迷う」

 ――主人公のセリフにだけは、赤字を入れると聞きました。

 「自分が関わっている意味がないと申し訳ないので(笑)、五郎のセリフはしっかり見ます。『なんてジューシーなんだろう』はバツ!『甘味がある』もバツ!その代わりとなる言葉は、松重さんの顔を思い出しながら、なんて言ったら面白いだろう、と考えています」

 ――ご自身は、知らない街に行った際、食事をする店をどのように選びますか?

 「一人で街を歩いて、迷いながら決めます。地方に行っても、ホテルの人や地元の人には聞かないし、ネットも見ない。店の前を通りながら、ひとり迷う。何の情報もないと、真剣に迷うじゃないですか。『絶対にはずしたくない』って」

 「毎回本気でいい店を探していると、直感が鍛えられてくる。そして、自分の好みが分かってくる。自分が本来好きなものが分かってくると、人の価値観に左右されなくなる。誰かがいいという店が、自分の好みかどうかは分からない。でも、常に何かを見たり、何かを聞いたりしながら店を選んでいると、自分の感覚が鍛えられなくなる」

 ――店選びで失敗することはないのですか?

 「それはありますよ。でも、人に言われて行った店で後悔するより、自分で選んで失敗したほうがいい。しかも失敗したほうが、漫画になる(笑)。『すごい人のよさそうなおじいさんとおばあさんがやっている昭和な感じの店でさ。でも、出てきた料理、これがとんでもなくまずいんだよ!』っていったほうが、『おいしかった』って言うより面白いでしょう? 失敗したくないけれど、失敗したほうが漫画になる。残酷な仕事ですね(苦笑)」

「今のテレビは、ものすごくはしゃぎすぎだと感じる。(孤独のグルメは)それと全然違う世界」
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「今のテレビは、ものすごくはしゃぎすぎだと感じる。(孤独のグルメは)それと全然違う世界」

――『孤独のグルメ』が生まれて20年、作品のつくり方に変化はありますか?

 「何も変わらないですね。トレンドは考えないし、奇をてらいもしない。オーソドックスな形が好きです。オーソドックスだけどちょっと変、みたいな(笑)。松重さんもオーソドックスな正統派の役者。そういう人がちょっと変なことをする。変なことを言う。それが面白い」

 「今のテレビって、ものすごくはしゃぎすぎだと感じています。すぐにクイズを入れたり有名な女優出したり、とにかく間を持たせようと必死で。(孤独のグルメは)それと全然違う世界。松重さんがうどん食って、横で店のおやじが新聞読んでいるだけで3分ぐらい過ぎちゃう。普通のテレビの人なら、我慢できないんじゃないかな」

 ――一人の男性がひたすら食事を楽しむ、というシンプルなストーリーに今、多くの人がひかれる理由は。

 「一つのことに集中して、それを静かに見つめる、ということ自体が今、あまりないですよね。それに、食べるって誰でもする行為で、失敗したくないけど失敗するのもみんな同じ。井之頭五郎は、ひとりで食べることをただ楽しむ。漫画やドラマを通じて、おいしそう、楽しそうということがちゃんと伝わっているということじゃないかな、と思います」

(聞き手は女性面副編集長 佐藤珠希)

 ▼「孤独のグルメ」 輸入雑貨商を個人で営む主人公・井之頭五郎が、仕事で訪れた街で飲食店に入り、食事を楽しむ様子を描く。1997年に1巻が出て以降、インターネット上の口コミやドラマ化でファン層を広げ、シリーズ累計58万部を突破。9月29日に18年ぶりとなる2巻が刊行予定と、異例のロングヒットになっている。2012年にスタートしたドラマシリーズも好評で、10月2日から「Season5」がテレビ東京系列で放映される。

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谷口ジロー、松重豊、孤独のグルメ、久住昌之、ドラマ、Season、インターネット、非トレンド

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