エジプト:スエズ運河拡張工事完了 厳戒下で記念式典
毎日新聞 2015年08月06日 19時50分(最終更新 08月07日 01時15分)
【イスマイリア(エジプト北東部)八田浩輔】エジプト政府が進めてきた国際海運の要衝スエズ運河の拡張工事が完了し、6日、北東部イスマイリアで記念式典が開かれた。シシ政権が威信をかけた事業で、主要な外貨収入源である通航料の増収や雇用対策が目的。運河が通るシナイ半島ではイスラム過激派などが活動を続けており、オランド仏大統領ら各国要人を招いた式典は厳戒態勢の下で行われた。
工事が行われたのは、全長193キロの運河のうち中部以南の72キロ。双方向の同時通航を可能にするため35キロを複線化し、残り37キロの深さと幅を広げた。政府は利用船舶の増加により、現在の年約50億ドル(約6240億円)の通航料収入が、8年後には約130億ドルに膨らむと見積もる。
運河周辺の再開発事業などで100万人の新規雇用も掲げている。
2011年のムバラク政権崩壊後、エジプトでは主要産業である観光の冷え込みなどを受け、経済の低迷が続いてきた。
シシ大統領は昨年6月の就任から2カ月後に今回の事業計画を発表。事業資金85億ドルは年利12%の債券を発行して国内から調達し、大統領の出身母体である軍の監督の下で工事を行った。3年の予定だった工期を1年に短縮するなど、内外に指導力をアピールするための材料となっている。
◇通航料増収は不透明
アジアと欧州を最短航路で結ぶスエズ運河の拡張について、シシ大統領は「エジプトから世界への贈り物」と強調してきた。だが、シンクタンク「日本海事センター」の松田琢磨研究員は「国際物流をどれだけ促進するかは疑問だ。雇用対策など国内向けの色合いが強いのではないか」と話し、物流への影響は限定的とみる。
スエズ運河と競合関係にある中米・パナマ運河でも、商船の大型化に対応する拡張工事が続く。スエズ運河は既に大型船が通航できるため、松田氏は「今回の拡張では劇的に状況は変わらない」と分析する。また、スエズ運河経由でアジアから欧州へ向かうコンテナ輸送量は頭打ちの状況で、エジプト政府の想定通りに通航料の増収を達成できるかは不透明だ。
治安も成否の鍵を握る。式典が迫った7月、シナイ半島北部の沿岸ではエジプト海軍の巡視艇が砲撃を受けて炎上し、過激派組織「イスラム国」(IS)の分派が犯行声明を出した。運河がテロの標的になり利用船舶が減れば、今回の事業費が財政への重しになりかねない。