[東京 28日] - 8月半ばから「中国への懸念」に対し金融市場は激しく動揺し、世界的な株価急落に見舞われた。米国と新興国の株式は年初の水準を下回るマイナスリターンとなり、欧州株・日本株はほぼ年初の水準に戻った。ドル円相場も一時1ドル=116円台まで下落。クレジットや新興国通貨・債券などリスク資産全般が売られ、金融市場の様相は一変した。
世界的な株価急落は、8月11日の人民元切り下げが引き金になったようにみえる。2013年5月に米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長(当時)が量的緩和縮小の可能性に言及したことで市場の混乱を招いた「バーナンキショック」のように、今回は「人民元切り下げショック」と呼ばれるのだろうか。人民元切り下げは事前に予想されておらず、人民元高が続く期待を抱いていた市場参加者は「中国経済はそこまで深刻なのか」という疑念を抱いたのかもしれない。
ただ、ドル高と連動して人民元が実効ベースでかなり増価していたことが、2014年末から中国人民銀行が金融緩和を繰り返しても景気刺激効果が表れていない大きな要因となっていた。国際通貨基金(IMF)も人民元切り下げそのものについては妥当な政策と見なしている。インフレ率が2%を下回り成長率も停滞している中では、通貨安を含めて金融緩和強化が必要であり、いずれ人民元切り下げは避けられない政策だったのではないか。
<アジア通貨危機再来説に疑問>
問題を1つ挙げるとすれば、中国当局の政策転換に踏み出すタイミングが悪かったことだろう。景気減速が続く中で、株式市場のブーム的な上昇と崩壊が発生、政治闘争が続いていることが漏れ伝わり、さらに天津港での爆発事故など、悪材料が重なり過ぎた。何が起きているか分からないという疑念がくすぶる中で、人民元切り下げ政策はネガティブに受け止められた。
また、対症療法的な為替市場への介入だけでは、効果がある景気刺激策として信認されにくいことが、人民元安政策への不信を高めているという問題もある。かつての日本において単発的な為替介入を実施しても、2012年半ばまで超円高とデフレの問題を全く改善できなかったのが一例だが、市場の疑念を和らげるには、中国当局によるレジーム転換と見なされるアグレッシブな金融緩和や財政政策発動が必要だろう。
ちなみに、原油安と米国の株安がスパイラル的に始まったのは8月19日であり、11日の人民元切り下げが市場混乱の明確なきっかけになったと決めつけるのは無理がある。確かな理屈があったというより、「下げが下げを呼ぶ」という市場の値動きそのものが不安心理を増幅させ、自己実現的に株価急落が起きた側面が大きいのではないか。
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