「生きる価値のない人間」は臓器を売り払ってサヨウナラ『ギフト±』 命は大事に使わないとね

マンガHONZ編集部2015年08月28日 印刷向け表示
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寝屋川の事件についてニュースで聞きながらすごく憂鬱な気分になっている。容疑者は性犯罪の前科もあり、小学校時代の同級生などからも、その暴力的なふるまいなどの過去について、証言が多数でてきてもいる。

こうした暴力や性犯罪などの罪をなんども犯す人間について、テストステロンの関係がとりざたされている。テストステロンとは男性ホルモンの一種で、アメリカの心理学者が調べたところによると、暴力性の強い犯罪をおかした人間ほど、テストステロンが多量に分泌されていたという。つまりこうした犯罪者というのは、ある種の「病気」であり、その「病気」を直さない限り、再犯し続ける。

なんでこんな人間が野放しになってしまうのかという理不尽な状況は、道徳や倫理や改悛の情とは関係なく、このような「病気」をもった犯罪者に、社会として対処する手段を、我々が持っていないから起こっているのである。そして、こうした「理不尽」に対する過激な解答を示しているのが、今回紹介する『ギフト±(プラスマイナス)』という作品だ。

『ギフト±』は臓器の密買というかなりギリギリのテーマをあつかっている。その臓器を獲得する手段が、主人公たちが「生きる価値がない」と判断した犯罪者たちである。幼児性愛者やネグレクトで乳児を死亡させてしまう女性など、主人公は「道徳的な悪」を断罪する。その断罪された悪人たち、言い換えれば「生きながらにして死んでいる」ものたちから臓器をとりあげ、「死んでしまっても(臓器として)生きている」状態へと変換するのがこの物語の核である。

生きる価値の無い人間から、命を必要としている人に再分配する。臓器だけが新しい身体で生きつづける。『ギフト±』ではこれから臓器をいただくターゲットのことを「クジラ」という。

 (ギフト± 第1巻 ナガテユカ) 

とにかく無駄な所がない

昔からクジラは全身を資源として活用されてきた。歯は靴べら、印材、すじはラケットのネット、骨や皮は口紅、クレヨン、石鹸などの製品の原料として様々な製品に姿を変えてきた。食用のくじらベーコンやくじらの刺身はその一部であることがわかる。少し恐ろしい話ではあるが、クジラとリンクさせて作中で次のように語っている。

 

 (ギフト± 第1巻 ナガテユカ) 

主人公の少女は「クジラ」を選ぶのにこだわりを持っている。対象は「生きる価値の無い人間」である。 誰も気がつかない匂いを嗅ぎつけ、犯罪の現場で獲物を確保する。少女に感情の起伏はない。冷酷かつ淡々と仕事をする。

「命の大切さ」と「命の使い方」

少女は「命の大切さ」をわかっていない人間には「もっと命を大事にしないと」と諭す。一方で「命の使い方」を間違えている人間には自分から出向いて獲物にする。命を粗末にする人間よりも、いま命を待っている人間(臓器移植待ち)がいるからだ。

 

 

 

 

 (ギフト± 第1巻 ナガテユカ) 

この臓器売買のストーリーができる背景には臓器移植の現状が大きく関わっている。日本臓器移植ネットワークによると現在移植希望登録者は13837人。内訳は腎臓が12572人、心臓423人、肝臓380人、肺258人、膵臓198名、小腸6名(7月31日時点)となっている。移植希望者の90%は腎臓を待つ人工透析患者である。驚くべきことに2014年度の全体の移植件数は253件であり、需要の2%にも満たない。移植を待っても、自分に合う臓器が見つかる確率は極めて低く、いつになるかわからない待機を余儀なくされる。この日本の現状が、『ギフト±』の背景にある。この作品は、そうした現状に対する過激な解答でもある。

寝屋川の事件のことを考えると、社会的に「生きる価値のない人間」が存在し、そういう人間とどう共生していくのかについて、もっと深く考える必要があるのかもしれない。日常は、ほとんど考えることのない、このような問いについて、この作品を読むと考えさせられる。この作品のような、ギリギリのテーマをあつかったフィクションが存在する意味というのは、こういうところにあるのかもしれない。

(マンガHONZ編集部 佐藤樹里)

ギフト±(1) (ニチブンコミックス)
作者:ナガテ ユカ
出版社:日本文芸社
発売日:2015-07-18
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