タグマ!メディアを、携帯する。新世代のメディア、タグマ!

松沢呉一のビバノン・ライフ

志摩市の海女キャラクター公認撤回署名のどこがまずいのか(松沢呉一)2,832文字-

2015年08月28日17時57分 カテゴリ:連載セクシュアルマイノリティ連載差別表現連載表現規制


署名に協力できないと即時判断

vivanon_sentence

以下の署名はFacebookにも回ってきていたのですが、しばらく放置。他で忙しかったものですから。
スクリーンショット 2015-08-28 11.58.35

 

1週間ほど前に、OoAの柳橋未詩緒が、Facebookでこの署名を取り上げて賛同できない旨を投稿してました。そこでは理由は述べられていなかったのですが、これを契機に私も署名の呼びかけをチェック、一読して「これは私も賛同できない」と判断しました。

このキャラクターの撤回を求める署名において、私が納得できる論理もあり得るとは思うのですが、この署名の論理は到底同意できません。

これは「オタク表現を守れ」「この絵をバカにするな」なんて理由ではまったくない。もちろん、好き嫌いでもない。実際、全然興味がなく、誰が描いた、どういうキャラなのかも調べる気になれません。

 

セクハラを何だと思っているのか?

vivanon_sentence具体的に私がひっかかったのは、たとえば以下の部分。

 

今回の市長の対応は、市を潤すためならば、女性を性的なイメージとして搾取し、それを広報に使ってもよいというメッセージを発信していることに他なりません。

公的機関のPRは、多くの場所で市民が目にすることを余儀なくされることから、これは深刻なセクシャルハラスメントであると考えられます。

また、市のキャラクターは未成年者はおろか子どもの目にも触れるものです。

 

この論理展開がまったく理解できません。市民が広く目にすると深刻なセクハラ? 加害者は誰? 市当局? 被害者は見た人ってこと? セクハラの要件を読んだことも考えたこともないのか?

おそらく環境型セクハラというものの範囲をなんの制限もなく拡大したのでしょうけど、もしこれがセクハラであるなら、ある市民が不快と思えばセクハラということになります。私企業によるキャンペーンであれ、コンビニに置かれる雑誌の表紙であれ、性的な要素が少しでもあればすべてセクハラ。

ダメでしょ、これ。

撤回自体に賛同できるとしても、この署名はダメです。これを認めると他の表現物に簡単に拡大されてしまいます。

公然とわいせつな表現をすればわいせつ物陳列罪ですから、ほっといてはいけません。しかし、これでは該当するはずがない。

そこは攻められないと思ってセクハラを出したのでしょうが、それによってこの署名は無効になりました。こんなもんにセクハラなんて適用できるはずがなく、適用されたら恐ろしいことになります。

 

二丁目の看板も深刻なセクハラ?

vivanon_sentence柳橋未詩緒に指摘されて思い出しましたが、新宿二丁目でHIV啓発の看板に対して、新宿区役所から指導が入ったことがあります。こちらを参照のこと。

スクリーンショット 2015-08-28 13.10.18

下着が見えているのが不快だというクレームが住民からあったため、イラストレーターは描き直すことに。しかし、それも認められず、イラストレーターではない人が修正。

下着の見えている看板なんて他にいくらでもあって、んなこと言われたら下着メーカーはどうしたらいいのか。テレビのコマーシャルもアウトです。

つまりは、クレームを入れた人の本音は「ゲイをイメージさせるのがけしからん」ということだろうと推測ができるわけですけど、もし上の「セクハラ」定義を応用すれば、不快と感じる個人がいる以上は修正、あるいは撤去が相応しい。

新宿二丁目にはマンションもあり、会社もあり、四谷や新宿一丁目から新宿方面に抜ける道でもあり、この看板が出された交差点の近くには新宿公園があります。子どもを含めて多くの人が目にしますから、セクハラになるらしいですよ。

あんな署名をしてしまった人たちは、この下着のイラストさえ許せない社会の到来を歓迎し、HIV啓発活動の妨害を容認するような連中です(下に書いているように、実際には署名趣旨に賛同したわけではない人たちが多数含まれています)。

 

志摩市への提案

vivanon_sentence志摩市にお願いをしたい。

このキャラクターの公認を撤回するのだとしても、この署名を考慮しないで欲しい。もしこの署名を根拠として撤回をすると、各自治体への安易なクレームが続くことになります。その悪しき前例にならないで欲しい。

公認を撤回するなら「志摩市で海女を職業にしている人たちは特定できる存在であり、描かれたイラストはその特定の人びとを正しく表現しておらず、誤解を生じさせる可能性がある」などの理由で撤回して欲しい。

実際には現在でも千人もの海女が志摩市にはいますから、「特定できる存在」と言えるかどうかなど、さらに検討が必要ではありますが、この理由だったら私は容認できそうに思います。これとて拡大する要素はありますが、その当事者の海女の意見のみを有効とすれば無闇に拡大はしないでしょう。

また、現実にはあの署名をした人たちの中には自分の考えとは違うにもかかわらず、署名をしてしまった人たちがいて、その中には「あの絵は現実と違う」という点で署名をした人が現にいます。

つまり、あの署名は「公認撤回を求める」という点のみに合意した人たちが多数含まれていて、数字はその趣旨に合意したものではないのです。したがって、その内容にまでいちいちつきあう意味はなく、ただ「撤回すべきか否か」を検討すればよかろうかと思います。

next_vivanon

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

前の記事«
ぐろぐろ (ちくま文庫)


クズが世界を豊かにする─YouTubeから見るインターネット論
ポルノグラフィ防衛論 アメリカのセクハラ攻撃・ポルノ規制の危険性
デモいこ!---声をあげれば世界が変わる 街を歩けば社会が見える
「オカマ」は差別か 『週刊金曜日』の「差別表現」事件—反差別論の再構築へ〈VOL.1〉 (反差別論の再構築へ (Vol.1))
エロ街道をゆく—横丁の性科学 (ちくま文庫)

ページの先頭へ