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焦点:中国市場の混乱、背後に規制当局の「頭脳流出」

ロイター 8月28日(金)15時26分配信

[上海 27日 ロイター] - 2008年の金融危機の真っただ中、欧米の金融機関は大幅な人員削減を進めていた。一方、中国政府はそのころ、自国の株式市場の改革を進めるべく、混乱する金融業界から中国系の優秀な人材の「引き抜き」を進めていた。

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1年にわたって高騰が続いた中国株が数週間で急落し、政府が対策に躍起になった今年の夏、そうした人材は中国証券監督管理委員会(CSRC)にとって、これまで以上に必要な存在だった。

しかし海外から中国に戻り、「海亀族」と呼ばれたエリート専門家たちはすでに、当局の仕事に幻滅したり失望したりし、民間企業に戻っていた。

帰国した「精鋭」20人のうちの1人は、CSRCが当時「祖国のため犠牲になる」ことを訴えていたと振り返る。「われわれは力になりたかったので、家族も中国に戻して高額な仕事もあきらめた」のだという。

しかし、理想はほどなくして不信に変わる。収入は民間企業で得られる額に比べると微々たるものであり、CSRCに重用されているようにも見えなかったのが理由だ。

「数年経っても誰1人として昇進せず、一部の人は確たるポジションさえなかった」という。

オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の中国エコノミスト、Liu Li-Gang氏は「当時CSRCは国内外の両方の経験を必要としていたが、国際経験が最も豊富な人たちが追いやられた」と語った。

CSRCにもコメントを求めたが、回答は得られなかった。

<頭脳の流出>

CSRCを去った人の中には、ABNアムロでエキゾチック・クレジット・デリバティブの責任者だったTang Xiaodong氏や、JPモルガン・チェースにいたLi Bingtao氏、ノーベル経済学賞受賞者ロバート・シラー氏に学んでいたLuo Dengpan氏もいる。彼らのいずれからもコメントは得られなかった。

ロイターの取材に応じた複数の内部関係者によると、過去1年で規制当局内の退職者が急増している。

上海証券取引所の当局者の1人は「ほぼ毎週のように退職届を出す人がいる。退職する人のペースは加速しているように見える」と語った。

中国のファンドマネジャーらは、そうした専門家の「集団脱出」によって市場が素人の手に委ねられてしまったと嘆く。

香港で外資系銀行に勤めるトレーダーは「過去数年と同じレベルの専門知識が保たれていない」とし、それゆえに、「悪意ある」空売りの規制など見当違いの政策につながったと指摘する。

CSRCと定期的にやり取りする大手ファンドの幹部は「彼らが賢くないというわけではない。金融の専門知識がないのだ」と語った。

現在もCSRCに残っている人物によれば、規制当局は、信用取引向け融資残高の急増が意味するところを十分に把握できていなかった。

<不信の連鎖>

こうした失態は、中国政府の信用を失墜させた。

中国政府は株価の下支え策に9000億元(約16兆8000億円)をつぎ込んだが、主要株価指数は急落が一服した後、再び下げ基調に戻っている。株式時価総額はドイツの国内総生産(GDP)を上回る4.5兆ドル(540兆円)以上が吹き飛んだ格好だ。

株式市場への当局の強引な介入は、中国が公約した金融改革に対する信頼も傷つけた。

中国に帰ってきた金融機関の「精鋭」たちは、自分たちが政策に影響を与えられないことへの不満や、昇進の機会が制限されていること、薄給を理由に規制当局を去って行った。同僚からの恨み節も聞こえていたという。

上海にある国際ビジネススクール、中欧国際工商学院(CEIBS)のオリバー・ルイ氏は「彼らは外に出れば、よりローリスク・ハイリターンで高い収入を得られる。(出て行くのは)無理もない」と語った。

(原文:Samuel Shen and Engen Tham、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)

*本文を修正して再送します。

最終更新:8月28日(金)16時34分

ロイター

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