水俣病救済 やはり広域調査が必要だ
水俣病被害者救済法に基づく未認定被害者への救済策で、一時金支給認定者のうち、救済対象外地域の住民が全体の16%に上ったことが熊本県の発表で分かった。
花田昌宣(まさのり)・熊本学園大水俣学研究センター長は「水俣病の被害が不知火海沿岸全体に及んだことがあらためて裏付けられた」と指摘する。まさにその通りであろう。
国はこの結果を真摯(しんし)に受け止めて、水俣病被害の実態を明らかにするべきだ。そのためにも、幅広い住民の健康調査が欠かせない。
被害者救済法は公害健康被害補償法(公健法)に基づく水俣病患者に認定されない被害者を救済するため、2009年に議員立法で成立した。公的検診で感覚障害などが認められれば、一時金210万円などが支給される。
対象地域や年代で「線引き」され、熊本県では患者が多発した同県水俣市と芦北町の沿岸部などに1968年12月以前に1年以上住んでいたことが要件になる。
対象地域外からの申請には、当時水俣湾や周辺海域で取れた魚を大量に食べたことを証明する書類などが求められた。
熊本、鹿児島両県で6万2728人が、12年7月の締め切りまでに申請した。昨年8月に両県で3万433人を一時金の対象とする最終結果が発表されている。
このうち熊本県では、一時金の支給が認められた1万9306人の中で救済対象外の隣接地域などに住んでいた人が3076人にも及んだ。対象地域外で一時金を申請した人は5858人で、53%が支給を認められたことになる。
他に685人が療養費のみの支給対象となり、残る2097人が救済から漏れた。救済策の対象外となった被害者らは、国などを相手に損害賠償請求訴訟を起こしており、原告数は千人を超える。
水俣病は来年で公式確認から60年になる。解決が長引く背景にはどんな症状があり、どの地域や年代まで及んでいるのか、被害の全体像がつかめていないという根本問題が横たわる。そこを直視しない限り、水俣病は終わらない。
=2015/08/28付 西日本新聞朝刊=