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 経団連が近く「日本型移民制度」の検討を始める。榊原定征会長(東レ相談役最高顧問)が主導し、日本に定住したい外国人とその家族を迎え入れられないか、道筋を探るという。

 政府の推計では、2060年の総人口は、現在の3分の2の8700万人まで減り、とりわけ労働力人口の落ち込みが深刻になる。地域共同体の存亡や社会保障制度のゆらぎ、国や自治体の財政難など、深刻な課題の根っこに共通するのが少子高齢化に伴う急速な人口減である。

 経団連の検討は将来の日本の姿への危機感がきっかけだが、内部では移民受け入れへの慎重・反対論もあるようだ。ただ、世界規模での人の移動と移住が加速するなかで、その是非を検討することは不可避だろう。

 一方、政府は「いわゆる移民の受け入れは考えない」の一点張りだ。女性や高齢者の就業を促しつつ、少子化対策の充実で足元は1・4台の合計特殊出生率を2030~40年に2強へ回復させ、総人口は1億人を保てるとはじく。しかし、そのめどは全く立っていない。

 海外への技術移転を名目に単純労働者を一定期間に限って受け入れる技能実習制度をなし崩しに広げるなど、目先の対策に終始しているのが実情だ。

 そんな政府の姿勢に異を唱え、正面から問題提起することが経団連の狙いなら、試みを歓迎する。そして、移民問題を国民全体で議論していきたい。

 欠かせないのは、「生活者」の視点を徹底することだろう。

 日本型移民制度が、技能実習制度や、研究開発などに携わる「高度外国人材」受け入れ制度の隙間を埋め、人件費の抑制をはじめ経営の利便を高めるだけの内容にとどまるなら、国民からの批判は免れまい。

 定住外国人の受け入れで、社会保障や税・財政を通じた給付と負担のバランスはどう変わるのか。国民に懸念が根強い治安問題への対策や、住民の対立を防ぐ手立てを工夫できるか。

 検討の幅を広げるためにも、経団連は議論を公開してはどうか。移民問題は賛否が分かれるテーマだけに、その検討過程と議論を尽くす姿勢が大切になる。官庁や大学、民間研究機関を巻き込み、国民の関心と議論を高めていきたい。

 日本を訪れる外国人が急増し、訪日外国人なしには成り立たない地域や産業も増えている。コンビニや外食チェーンでは、外国人の従業員が当たり前になった。

 まずは検討を始める。その一歩を踏み出すことが重要だ。