経済の死角

70年間、「近親憎悪」の繰り返し
〜中・韓・日、なぜこんなに憎しみ合うのか

【徹底討論】津上俊哉×浅羽祐樹

2015年08月28日(金) 週刊現代
週刊現代
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〔photo〕Getty Images

中国は「日本に勝った」つもり

—戦後70年の「安倍談話」や安保法制などで、日本と中国、韓国の間で火種が燻っています。最近の日本の政治的な動きを、中韓はどう受け止めているのでしょうか。

津上俊哉 習近平政権は、安保については抑制的な態度です。内心では懸念を持っていますが、騒ぎ立てても、逆に日米の結束を強めるだけに終わるおそれがありますしね。

もちろん、日本の動きに強い不快感を覚える勢力もいます。とくに7月末に参議院で安保法制の審議が始まってから、安倍総理は法案の念頭には中国があることを隠さなくなった。そう言われると中国も反応せざるを得ない。

浅羽祐樹 韓国の世論は、「軍国主義化だ」と否定的な反応です。しかし、政府はホンネでは「韓日米」の安保連携を歓迎していて、いざという時は自衛隊派遣を「同意」「要請」します。

安保法制が通れば、朝鮮半島で有事が起こった場合に、韓国軍と在韓米軍、在日米軍、そして自衛隊の4者が事実上共同で作戦することになる。切れ目なき連携は韓国の安保にとってもプラスです。

—なるほど。中韓ともに、日本を警戒はするけれども、その一方で現実も見据えている、と。

津上 つい10年ほど前まで、中国にとって日本は、圧倒的な格差を感じさせる先進国であると同時に、中国を侵略した「特別な国」でした。侵略を受けたトラウマと、中国人も触れることをためらうタブー意識が常に付きまとう相手だったのです。

しかし、最近このトラウマが軽くなりつつあります。背景にあるのは、日本と中国の国力の逆転です。GDPの差が2倍以上に広がるなかで、中国人はもう日本を「仰ぎ見る目線」で見なくなりつつあります。日本にかなわない点はまだ残るが、国の総合力や格の競争では勝負がついたという意識が、心の余裕を生んでいる感じです。

浅羽 中国の変化を表すニュースとして、つい先日も、三菱マテリアルが中国人徴用工と和解を模索しているという報道がありましたね。

津上 それを受けて中国のタカ派メディア『環球時報』(7月24日付)は〈中国は発展を続ける過程で、日本を赦す社会心理条件を蓄積してきた。中国は今、過去のいずれの時代よりも、70年前の悲劇について日本と徹底した和解を行える可能性がある〉という驚くべき社説を掲載したんです。10年前だったら、こんな社説を書いた主筆は八つ裂きにされたはずです。

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