英国の有力経済紙、フィナンシャル・タイムズ(FT)が日本経済新聞(日経)に買収されるというニュースが先月23日に報じられた。このニュースはいろいろな意味で意外だった。まず驚いたのは、それまでFTの買収に力を入れていた欧州最大のメディアグループ、ドイツのアクセル・シュプリンガーによる買収ではなかったことだ。次に驚いたのは、その買収額だ。有料購読者数わずか73万人のFTの価格がなんと1600億円(8億4400万ポンド)だというのだ。韓国ウォンでいえば1兆5000億ウォンをはるかに超える金額だ。これはFTの昨年の営業利益の35年分以上で、日経の年間の純利益で考えても16年分に相当する。テクノロジー企業を除けば、このような高額での買収はほとんど見当たらない。「(発行部数)約300万部で世界最大の経済紙である日経が、よりによってこの円安の時代になぜ?」という疑問が当然沸いてくる。これについては「日経のアジア圏および世界への野望」「2013年から多面的にパートナーシップを締結してきたFTとのコンテンツ・取材面でのシナジー効果への期待」など、さまざまな答えが浮かんだ。
しかし、日経がFTから学ぶべき点は別にある。それは、FTの精密なユーザーデータ分析と応用能力だ。FTの全有料購読者のうちデジタル版の読者は70%に達する。FTは07年にウェブサイトを有料化して以来、データ分析に膨大な努力を傾けてきた。その結果、12年にはデジタル版の購読者数が紙の新聞の購読者数を上回り、今年の上半期もデジタル版購読者数は14%伸びた。FTはこのデータ分析力を生かした結果、今や全世界の大手印刷メディアの中でデジタル紙面への転換に成功した数少ないメディアとなった。アクセル・シュプリンガー社が目を付けたのも、まさにFTのデジタルメディアとしての経験という部分だった。一方で、日経のデジタル版の有料購読者数は40万人にすぎない。主なターゲットが1億3000万人の日本人であり、いまだ印刷文化が強いという特殊性を考慮したとしても、デジタルへの転換は初歩段階だ。
FTのデータ分析チームは40人だ。頻繁かつ長期的に読まれるコンテンツを把握し、編集の方向性を決める。こうした基本に加え、マーケティングや広告にもデータ分析結果を反映させる。どのメディアもペイウォール(有料化という壁)を低くすることに必死になっている一方で、FTの場合は月8件の無料記事を読むためにメールアドレス、郵便番号、役職、職業分野、所得規模など細かな個人情報を提供しなければならない。こうして集められたユーザー情報は500万人分に達する。昨年、FTのジョン・リディングCEO(最高経営責任者)は「無料ユーザーらが有料購読を最終的に決定する前に、主にどのような記事をどのぐらい頻繁に読むのかを分析し、マップ化したところ、ユーザーらは予想通りの動きをした」と述べた。読者を利用頻度によって6-7グループに分け、顧客サービスを展開する。読者がそれぞれどのようなコンテンツを読むのか細かく把握し、その情報を基に、読者をつなぎとめる努力をする。もちろん、同じFTのウェブサイトにアクセスしても、画面に出ている広告は読者の職業やコンテンツの好みによって異なってくる。昨年2月に米紙ニューヨーク・タイムズがコロンビア大の応用数学の教授をデータ科学者として採用し、データ分析チームの統率を任せたのも、同じ動機からだった。
1989年にソニーがコロンビア映画社を買収して以降、日本企業による海外企業買収は失敗するケースが少なくなかった。しかし日経が「データは能力の要」と主張するFTからデータ応用学を十分に学ぶことができれば、今回の買収にはもう一つの価値が加わることになるだろう。これは韓国メディアが日経・FTの買収劇で最も注目すべき分野ともいえる。