2015-08-27 日本の財政基盤が盤石な理由
ギリシャなど他国で財政危機が発生するたび、対GDPの借金比率などを日本と比較し「日本もめちゃ危ない!」的なことを言う人がいます。
オオカミ少年みたいに、何年も前から繰り返し「このままでは日本国債は暴落する。円も無価値になる」と脅し続けてる人もたくさんいます。
まっ、そういうこと言ってる人の大半は、
「だから消費税を上げないとダメ」「だから福祉レベルを落とすのは仕方ない」 と言いたい官僚か、
「だから新興国の投信や通貨に投資しましょう」と勧めたい金融機関だったりするわけですが、
一般の人でも「日本の借金は過大すぎて危ないのでは?」と思ってる人はいますよね。
もちろん私も、規律も際限もなく財政赤字が拡大してもいいとは思わないし、グローバルな金融市場には悪意をもって特定の通貨や債券を狙ってくるファンドもあるので、国債の暴落がありえないとは言いません。
んが、
イザという時、日本ほど金融的にも財政的にも安心な国は他にないとも思っているので、今日はその理由について書いておきます。
★★★
まず、財政赤字を解消する方法としてベストなのは、経済成長して歳入が増えることですが、これが簡単にできればどの国も困りません。
なのでここでは「低成長時代に、多額の財政赤字を解消する方法は?」という前提で考えます。
よく言われるのは「輪転機を回してお札を刷る」という方法です。独自通貨を持たないギリシャには不可能ですが、日本など独自通貨を持つ国ならこの方法もあり得るように見えます。
が、これも現実的じゃないんだよね。
ここ数年、黒田日銀総裁は最大限のお金を市場に供給してるにも拘わらず、インフレターゲットの 2%さえ実現できてないんですよ。
こんな状態の国で、財政赤字をチャラにするほどの高率なインフレなんて、どーやって起こすの??って感じです。
でもいいんです。財政赤字を解決するにはもうひとつ、とても有力な方法があり、日本はそれが簡単にできる国だから。
その方法?
徴税強化です。
★★★
財政赤字は、「税収を上げる」か「支出を減らす」ことで改善します。
支出側は、バラマキ大好きな公明党と、農村と高齢者の票に支えられた自民党が政権をとっている限り減らせません。
でも、
税収を増やすための徴税強化が、日本は他国と比べて圧倒的にやりやすいんです。
なぜだって?
だって日本は、世界でもっとも住みやすい国のひとつだからです。
アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本、と言ってもいいし、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ベルリンやフランクフルト、東京、と言ってもいいのですが、これらの国&都市は、他の国に比べて突出して住みやすいです。
理由は下記
↓
・民主主義かつ法治国家で、
・戦争状態になく
・治安がよく
・衛生状態が良くて空気も水もキレイな上、
・教育や医療などの社会インフラのレベルが世界最高レベルで、
・食や文化の幅広さと奥深さが圧倒的
刺激的でありながら安定が享受でき、多様でありながら秩序だっている。便利でありながら、ものすごく尖ったモノにもアクセスできる・・・
これらの国&都市は、住みやすさという点で他国の都市とは比べものにならないくらい高い水準にあります。
特にこれらの国で生まれ育った“ネイティブ国民”にとっては、他国に住むのと自分の国に住むのは、決定的に快適さが違います。
また大都市は、お金がある人にとってはパラダイスと言えるほど住みやすいため、富裕層ほど東京の住みやすさ、楽しさ、奥深さ、快適さ、を理解しています。
だから彼らは、少々税金が高くなっても日本を出て行こうとはしません。
日本の大金持ちで、「資産だけ税金の安い他国に移したい」と思っている人はたくさんいますが、「人生の大半を外国で暮らしてでも、払う税金を安くしたい」と思っている人は、非常に少ないんです。
ところが、たとえばギリシャのお金持ちの中には、アテネに住むよりパリに住む方が楽しい、南仏の別荘で暮らしてもなんの問題もない、ニューヨークの方が快適だ、と本気で考えている人がたくさんいます。
だから徴税強化をすると、富裕層の資産がすぐに逃げ出してしまいます。
海外にネットワークを張り巡らせている大金持ちの華僑も同じです。めちゃな税制改正があったら、すぐに拠点を動かしてしまう。
ところが、資産をテクニカルに海外に移すことはできても、「金持ちが実質的な意味で他国に逃げ出す」みたいなことは、日本では起こりません。
しかも「テクニカルな資産の海外移転」は、法律を変えることで大幅に抑止できます。実際、最近はその動きがとても顕著です。
だからホントに税金を払いたくないなら、ホントに日本を出て行くしかなくなる。
でも、日本の金持ちでそんな覚悟のある人はほぼいない。
「死ぬ前の 10年間だけ海外に在住してたら相続税がゼロになります」と言われても、死ぬ間際の 10年間、自分の国である日本以外の国で過ごしたいお金持ちなんていないんです。
そのもうひとつの理由が、日本人は「他国に移るための障壁が極めて高い」ってことです。
ニューヨークやロンドンで生まれ育った人は、英語ができるので他国に住むことが日本人に比べて圧倒的に容易です。
フランス人やドイツ人は、英米人に比べれば動きにくいけど、それでも最近はユーロ圏内のモノ、人、お金の移動は非常に容易くなってます。
また、欧米のエリート&富裕層は(母国語がなんであれ)非常に高い確率で英語も堪能です。
これに比べ、日本人の場合は、
・日本語は他国では通じない。富裕層の英語力も決して高くない。
・社会慣行も商取引慣行も、食事も文化もまったく他国と異なる
ため、めちゃくちゃ他国に逃げにくい。
これは企業も個人も同じです。
経団連は「法人税が高いと国際競争力が弱まる」と言いますが、イザ、日本が財政破綻するかもという段になって、政府が法人税を 60%に上げたら、これらの企業はすぐさま本社を海外に移せるでしょうか?
P&G と花王では、本社を他国に移せる機動力や決断力は、全く異なっています。トヨタ自動車だって、相当のことが無い限り、中京圏から本社を移すことはできないでしょう。
てか、トヨタ自動車なんて「名古屋より東京の方が法人税が安い」みたいになっても三河から動きそうにない。
だからいざという時(=日本が本気でデフォルトを心配する必要がでてきた時)には、政府には法人税を一気に倍にする、みたいな選択肢があるんです。
もちろん企業の場合、テクニカルな節税方法は今でもたくさんあるし、税率が上がればそういった動きは一層加速します。
でもそれらは、個人が「日本に住みながら、相続税がゼロの国に土地を買う」のと同様、テクニカルな節税方法ばかりです。
さきほども書きましたが、テクニカルな節税は法律改正があれば一気に難しくなります。
結局は、日本国内に本社や研究所を構え、そこでたくさんの人を雇っている限り、政府は企業からいくらでも税金を徴収することが可能なんです。
だからといって、テクニカルな節税が難しくなった時、「だったらホントに本社を海外に移します」と言える日本企業って、どれだけあるんだろう?
★★★
さらに日本は、もっとも回避しにくい消費税の上げ余地が大きい。
企業や富裕層と比べても、国を逃げ出しにくいのが普通の人です。英語もできず、専属の国際税理士もいない。外国なんて住んだこともないという人にとっては、どんだけ所得税や消費税が上がっても・・・海外に引っ越したりできないでしょ?
もし消費税がヨーロッパ並の 25%になったとしましょう。今の 8%の 3倍ですから、消費税収は 17兆円から 51兆円へと 34兆円ほど増加します。
年間の借金は 37兆円だから、これだけで財政の基礎収支はほぼトントンにできる。他税を合わせれば「日本はいざとなればいつでも、財政収支をバランスさせられる」んです。
※参考サイト 平成27年度一般会計の概要
みなさん、消費税が 25% になったら日本を出て行きます?
どこの国に行く? 家はどーすんの? 仕事は?
もちろんそんなことしたら最初は消費も落ち込みます。
でもね、実際に今ヨーロッパではみんなそういう消費税率の中で生活してるわけで、25%って決してあり得ない税率でもないんです。
国債暴落の危機とかに直面したら、当然やるべき増税のひとつに過ぎません。
てかさ、固定資産税が倍になったらと考えてみて。
分譲マンションに住んでる人、持ち家の一戸建てに住んでる人、そうなったら家を売りますか? 売って、賃貸住宅に住み替える?
アパート経営してる人、そのアパート売ります? ローンの残高が、売却代金より多かったりしない?
私の予想では、大半の人は黙って粛々と倍になった固定資産税を払い続けると思います。だから固定資産税の収入を倍にするのも日本では全く難しくない。
自国内での分譲マンションから賃貸アパートへの引っ越しさえしたくない人に、海外移住なんて無理でしょ。
このように、日本という国は世界の他の国とは大きく異なる特徴をもっており、それが、日本が止めどなく借金を増やせる(ようにみえる)理由です。
だから借金の大きさ(対経済規模比)の国際比較なんてしても、意味はありません。
比べるべきは「徴税強化の容易さ」です。だってそれこそが、日本と他国の決定的な違いなんだから。
必要になれば、消費税も所得税も法人税も固定資産税も相続税も、いくらでも上げられる。
万が一の時、日本ほど財政的に踏ん張りのきく国は他にはなく、日本の財政破綻なんて、まったくもって非現実的な話なのです。
ほんまかいな?
そんじゃーね!