【社説】南北合意めぐる金正恩氏の決断こそ北が生き残る道

 今月22日から板門店で行われていた韓国と北朝鮮による高官協議が25日午前1時、劇的合意に至った。最初の協議は22日午後から始まり、翌日未明まで夜を徹して10時間近く行われ、続く2回目の協議は23日午後から24日を経て25日未明まで続いた。南北間の交渉は、過去にも北朝鮮の詭弁(きべん)や同じ言葉の繰り返しなどでいたずらに長くなるケースが多かったが、今回のようにほぼ徹夜で交渉が続けられるのは異例のことだ。つまり、今回はそれだけ交渉自体が最初から困難なものだったということだ。

 合意を困難にした最も大きな障害は、今月4日に発生した木箱地雷爆発の責任を北朝鮮が最後まで認めようとしないことにあった。北朝鮮は明らかに自分たちの犯行であるこの事件について「(韓国側による)捏造(ねつぞう)」などと言い張り、これがきっかけで始まった韓国側による拡声器を使った宣伝の無条件中断ばかりを強く求めたという。協議では南北間によるさまざまな形の和解や協力の再開に向けた方策も話し合われたが、そもそも交渉のきっかけとなった地雷問題とその責任の所在が話題になると、北朝鮮は的外れのことばかり言い出し、協議そのものが進まなかったという。

 その一方で北朝鮮は、今回の交渉を決裂させる考えもなかったようだ。これまでなら少しでも気に入らないことがあれば、すぐにいすを蹴飛ばして会場から飛び出し、韓国に対してさまざまな誹謗(ひぼう)中傷を繰り返してきたが、今回は会場から出ようとする素振りは見せなかった。ちなみに実際の交渉に当たったのは、韓国からは金寛鎮(キム・グァンジン)大統領府国家安保室長(閣僚級)、北朝鮮からは実質的なナンバー2とみられる黄炳誓(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長だったが、現場では2人が何かを話し合う時間よりも、黄氏が平壌からの指示を待つ時間の方が長かったという。つまり、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が容易に決断を下すことができなかったということだ。

 北朝鮮は今回の交渉に合わせ、普段の10倍も多い50隻の潜水艦を出動させ、また西海(黄海)には特殊部隊の兵士を運ぶホーバークラフト約20隻を前線に配備した。さらにミサイル部隊の動きも非常に慌ただしくなっているという。これらの動きは言うまでもなく、武力を使った一種のデモンストレーションだ。このような脅しによって韓国側が北朝鮮の謝罪と責任者の処罰、再発防止の約束といった要求を取り下げると考えたのなら、それは完全な考え違いだ。韓国側では「今回こそ北朝鮮による軍事挑発の悪循環を断ち切らなければならない」という国民の意識が高まっていた。朴槿恵(パク・クンヘ)大統領も24日「北朝鮮が謝罪に応じなければ、拡声器による宣伝を中断することはない」と明言していたが、これも国内でのこのような事情が背景にある。

 北朝鮮が最後まで自分たちの犯行に対する謝罪を拒否し、軍事衝突を起こすとなれば、これは北朝鮮にとって間違いなく自滅を早める行為になる。中国は9月3日の戦勝節記念日(抗日戦争勝利記念日)を前に、北朝鮮に対していかなる冒険主義的行動も容認しない構えであり、さらに今後も北朝鮮の軍事行動を後押しすることはないだろう。米国も必要ならB52戦略爆撃機の出動を含む軍事面での備えを大幅に拡充する計画だ。韓国軍と韓国国民も、今回は少しばかりの犠牲を甘受する覚悟ができている。今回の交渉で地雷を使った挑発行為に対して北朝鮮が謝罪し、再発防止を約束しさえすれば、南北経済協力の道が一気に開かれ、それによって北朝鮮も大きな恩恵が受けられるはずだ。今こそ金正恩氏の大きな決断を期待したい。

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