北朝鮮は昨年6月、朝鮮労働党の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が東海岸にある潜水艦基地を視察し、戦闘訓練を直接指導する様子を公開した。当時、金正恩氏は潜水艦の中に入って潜望鏡をのぞき、また魚雷発射訓練にも立ち会ったという。この様子について労働新聞は「(金正恩氏は)現場で進路を定め、航海の妙術について指導するなど、偉大な攻撃精神を強調された」と報じた上で「党中央は潜水艦部隊を非常に重視している」などと伝えた。それから1年が過ぎた今春、北朝鮮は潜水艦から弾道ミサイルを発射する実験を行ったが、金正恩氏はその場にも立ち会っていた。
相手に気づかれない状態で攻撃し、敵に致命的な打撃を加えることは、歴史が始まって以来、戦争に臨む全ての軍隊が夢見てきたことだ。潜水艦が戦争に登場し、その威力を発揮し始めたのは第1次世界大戦でのドイツ軍が最初だった。1914年にドイツ軍の潜水艦はわずか1時間で英国海軍の巡洋艦3隻を沈没させ、これによって乗組員2200人のうち1459人が犠牲になった。当時世界最強を誇っていた英国海軍の参謀総長は「ネルソン提督が戦闘で生涯かけて倒してきた敵の数よりも多くの兵士を失った」と嘆いたという。
現在、韓国と北朝鮮の軍事力を比較すると、空軍と海軍では韓国が上回っている。海軍の場合、韓国が保有する艦艇の総トン数は20万トンに達するが、これに対して北朝鮮はおよそ6万トンだ。しかし潜水艦に限ると、事情は異なる。北朝鮮は78隻の潜水艦を保有しているが、これは数だけで見れば米国の72隻、中国の69隻、イランの31隻をも上回る世界一だ。ちなみに韓国が保有する潜水艦はわずか14隻。
ただし北朝鮮の潜水艦については、これを「水中耕運機」などと低く評価する見方もある。北朝鮮の一部潜水艦は非常に老朽化し、耕運機のように大きな騒音を出すからだ。しかし、北朝鮮は潜水艦について、今なお韓国に対して相対的優位にある非対称戦力と考えている。北朝鮮はひそかに作戦を遂行できる潜水艦の特性を生かし、これに新たな兵器を搭載することで、韓国への軍事挑発を効果的に行える兵器として活用している。2010年に西海(黄海)で作戦中だった韓国海軍の哨戒艦「天安」を魚雷攻撃で沈没させたのはその典型例だ。天安の沈没で韓国海軍所属の乗組員46人が犠牲になっている。
今回、南北高官協議が行われている中で、北朝鮮は東海(日本海)と西海で潜水艦50隻余りを出動させたことが報じられた。これは北朝鮮が保有する潜水艦の70パーセントに相当するという。このように北朝鮮が一度に多くの潜水艦を作戦に投入するのは前例がなく、また軍事作戦の常識から考えても異例のことだ。そのため、これは韓国側に心理的なプレッシャーを与えるためだと考えられる。しかし、われわれはこのような北朝鮮の思惑に乗ってはならない。もし北朝鮮が潜水艦を使い、かつての天安のようにわれわれに攻撃を加えてくれば、それに相応する代価を支払わせる決意がわれわれに必要だ。潜水艦が寄港する母港を失い、海を漂流するようになれば、それは北朝鮮が最も恐れるシナリオになるだろう。