「学校に行くのがつらければ、まずは休んでください」。子どもの自殺が増える夏休み明けに合わせ、不登校を経験した若者たちがこんなメッセージを発信している。教育評論家の尾木直樹さんや社会学者の上野千鶴子さんらも賛同の声を寄せた。悩む子どもの助けになればと願っている。

 「あなたのつらさを一緒に考えてくれる大人がいることを知ってほしいのです。私たちはあなたに生きていてほしいと願っています」。NPO法人「全国不登校新聞社」(東京都北区)が、18日に公開した緊急メッセージの一節だ。

 同紙は不登校経験者やフリースクール主宰者らが1998年に創刊。月2回、紙版とウェブ版の新聞を発行している。きっかけは97年8月、2学期を前に自殺した子どもがいたことだった。同時期に別の子どもが「学校が燃えれば行かなくて済むと思った」と学校に放火する事件も発生。「学校に行くか死ぬかしかないという状況を変えたい」と考えた。

 夏休みや春休みの終わり頃に子どもの自殺が増えるのは、子ども支援に関わる人たちの長年の実感だ。6月、内閣府が「自殺対策白書」で過去42年分のデータ分析を公表。9月1日は突出して子どもの自殺が多いことが裏付けられた。

 「ここまで多いのか」。編集長の石井志昂(しこう)さん(33)は驚いた。石井さん自身も中学2年で不登校になり自殺を考えたこともあった。遺書を書こうとしたが、親が話を聴いてくれたことが救いになった。

 ウェブ版の号外を作り「生きてほしい」と呼びかけることにした。号外には過去に取材したことがある俳優の樹木希林さんや東ちづるさん、脳科学者の茂木健一郎さんらもメッセージを寄せた。不登校経験者の体験談や相談先も載せた。

 石井さんは「つらい思いを受け止めてくれる人は必ずいる。いま学校から逃げても、その先があると信じてほしい」と話す。

 号外は不登校新聞のウェブサイト(http://futoko.publishers.fm/別ウインドウで開きます)で。問い合わせは同社(03・5963・5526)へ。(太田泉生)

■不登校新聞社の緊急メッセージ「明日、学校に行きたくないあなたへ」

 このたび、内閣府の発表により、「18歳以下の子どもの自殺がもっとも多かった日」が明らかになりました。9月1日、多くの学校で新学期が始まる日です。

 夏休みのあいだは、「学校に行かなきゃ」との思いから少しだけ解放される、つかの間の休息期間です。

 しかし、もうすぐ新学期が始まります。学校のことを考えるたび、つらい気持ちになっていませんか。そのつらさを誰にも打ち明けられず、一人で悩んでいませんか。

 明日、学校に行きたくないと思っているあなたへ、一つだけお願いがあります。「学校に行けない自分はもう死ぬしかない」と、自分で自分を追い詰めないでください。身も心もボロボロになるまで頑張り続けたあなたに必要なことは「休むこと」です。

 誰かと比べる必要はありません。あなた自身がつらいと感じたら、無理して学校に行こうとせずに、まずは休んでください。学校から逃げることは恥ずかしいことではありません。生きるために逃げるんです。

 全国不登校新聞社は今日、緊急号外を発行しました。「学校に行くかどうかで悩み、葛藤しているのはあなただけじゃない」ということを知ってほしいと思い、不登校経験者の体験談が載っています。そして、今思っていることを聴いてくれる相談先も載っています。

 あなたのつらさを、あなたと一緒に考えてくれる大人がいることを、この号外を通じて知ってほしいのです。だから、もうこれ以上、あなたが一人でつらい気持ちを抱え込む必要はありません。

 私たちはあなたに、生きていてほしいと願っています。

 学校に行くのがつらければ、まずは休んでください。

      NPO法人全国不登校新聞社

※ウェブサイト(http://futoko.publishers.fm/別ウインドウで開きます)から

■子どもたちへのメッセージ

 脳科学者・茂木健一郎さん つらいと思ったら、そこから離れるのがいい。世界は広いのです。無理をしてはいけません。君がもっと元気になれる場所が、必ずあります。悩んだ経験を、逆に前向きの力に変える。そんな脳の魔法を働かせるには、リラックスがいちばん。

 社会学者・上野千鶴子さん 学校が子どもを生かすところでなくて、殺すところになるなんてあんまりだ。学校なんて、命とひきかえにするほどのところじゃない。いやなところからは、逃げよう、逃げて生き延びよう。

 俳優・東ちづるさん 逃げていい!行かなくていい!やめていい!続けなくていい! それも自分の人生に責任を持つ選択なんだ。強くなるため、優しくなるためなんだ。これを否定する大人には、私たちが説明する。

 教育評論家・尾木直樹さん いじめられてまで、担任の先生の管理主義嫌いなのに無理してまで学校に行かなくてもいいんだよ。自分の心の安全を確保するのは「子どもの生きる権利」なんだよ。安心して休んでいいんだよ。「長い夏休み」なんだよ。

 俳優・樹木希林さん 9月1日がイヤだなって思ったら、もうちょっとだけ待っていてほしいの。世の中をじっと見ててほしい。あなたを必要としてくれる人や物が見つかるから。世の中に必要のない人間なんていないんだから。私も全身にガンを患ったけれど、大丈夫。私みたいに歳をとれば、ガンとか脳卒中とか死ぬ理由はいっぱいあるから。いま死ななくていいじゃない。それまでずっと居てよ、フラフラとさ。

 漫画家・田房永子さん 一日5秒くらいでいいから、自分だけは自分の味方をする、っていうのを一生懸命がんばってみてください。

 起業家・家入一真さん 張りつめていた気持ちが、夏休みでふっと抜けて、新学期でまた学校へ行かなきゃいけなくなったとき、心が折れてしまうんだと思う。もう十分頑張ったじゃん。親や先生を気にして、無理に行かなくていいんじゃないかな。

 NPO法人ライフリンク代表・清水康之さん どうにもキツくて、もう消えてしまいたいと思ったときは、まずは少しでも安心できる所に逃げて。部屋に閉じこもったり心を閉ざしてもいい。それで私に連絡して。HPに電話とメルアドが載ってます。待ってるからさ。(http://www.lifelink.or.jp別ウインドウで開きます

 作家・雨宮処凛さん いじめられてる頃、夏休みが終わるのが怖くて仕方なかった。月曜日も怖かった。「逃げるな」「強くなれ」なんて言葉は大嘘(おおうそ)だ。今、私はあの頃の自分に「すぐに逃げろ!」と言いたい。あなたを大切にしてくれない場所にいてはいけない。

 NPO法人フリースペースたまりば理事長・西野博之さん たった一つの受精卵が細胞分裂を繰り返し、いま、あなたのからだは、60兆個の細胞でできている。この世に生まれたこと、いま生きていることの”奇跡” 生きているだけですごいんだ。学校はいのちを削ってまで行かなければならないところではない。疲れたときは、ただただ、ゆっくり休もう。

※「不登校新聞」ウェブサイト(http://futoko.publishers.fm/別ウインドウで開きます)から。