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 川崎市と東京都大田区の境を流れる多摩川で、シジミの乱獲が問題になっている。密漁や取りすぎが続き、地元の漁協組合が2年前に漁業権を設定。8月を禁漁期にするなどの漁業者のルールを設け、一般にも理解を呼びかけているが、歯止めはかかっていない。漁師や専門家は資源の枯渇を心配している。

 産卵期の8月は、一般の潮干狩り客もシジミを取らないように地元の漁協が呼びかけている。しかし、干潮の時間帯に川崎市川崎区の多摩川河川敷を訪れると、河口までの1キロほどに、バケツやクーラーボックスを持った人が20人ほどいた。

 「これでみそ汁2杯分くらいかな。近所の人にもおすそわけしようと思って」。横浜市の男性(80)は、網に入ったシジミを手に取って笑顔を見せた。

 男性は禁漁期であることを知らなかった。「そんなこと、聞いていない。みんな取っているからいいじゃない」。別の高齢の女性に声をかけると、「わからない、わからない」。バケツと網を持ち、干潟から足早に立ち去った。

 川崎河川漁業協同組合によると、多摩川の水質が悪化した高度経済成長期の1960年代に姿を消したシジミの「復活」が確認されたのは、10年ほど前。組合員が潮干狩りをしている女性を見つけた。下水道の普及などで水質が改善した影響とみられる。「当時の多摩川のイメージは『汚い』。再生には誰も気づいておらず、驚いた」と安住三郎組合長は振り返る。

 うわさはあっという間に広まり、千葉や茨城といった近隣県からも漁船が集まった。レジャーとして楽しむ人も多く、成長前のシジミまで取られたという。「アメリカのゴールドラッシュのようだった」と安住さんは語る。

 多摩川産のシジミはほとんどが「ヤマトシジミ」という種類だ。都内の卸売業者によると、「江戸前シジミ」や「羽田沖シジミ」と呼ばれ、1キロあたり500円ほど。流通量は多くないが、重宝されるという。「サイズや色つきがいいものは1千円になるときもある」と担当者は言う。

 農林水産省の統計によると、市場に流通した多摩川のシジミの漁獲量は、統計がある2009年の25トンから翌年には152トンに跳ね上がり、その後は増減を繰り返す。安住さんは「小さいものまで取ってしまっている」と指摘する。昨年の全国の漁獲量は9802トン。