BEHIND THE SCENE - アナウンサー、技術陣などが、高校野球中継の裏側や、面白エピソードを披露。

放送の舞台裏

中継技術・カメラマン座談会 後編「放送人として見つめた高校野球」

2015年7月2日

――長いご経験のなかで、機材や技術はどのように変化されましたか?

梶谷:僕がチーフをやっていた1996年、97年ごろにハイビジョンが始まりました。試験放送中、高校野球は民放さんと一緒になって制作していたんです。とても貴重な経験でしたね。高校野球中継の中では特殊なパターンだと思います。

横山:今でいうとオリンピック中継などで行われる撮影スタイルですね。共同でベースとなる映像を撮って、独自映像を各社で盛り込むというような。

後藤:僕はそれがひと段落してからの甲子園デビューだったので、体験できなかったですね。

梶谷:画作りで言うとハイビジョンが始まっていったん撮り方が変わりました。ボールの行方の見せ方や、打球の飛んだ方向への切り替え、カメラの置き位置など苦労しましたね。当時のモニタリングサイズは大体100インチ程度。そのサイズでタイトな画を見ると、船酔いのような細かい揺れが気になったんです。ですから、なるべくルーズで引いた画で見せていました。しかし、実際家庭に入るサイズは40インチぐらいがベースになるということで「見せるところはタイトできちんと見せよう」と元の撮り方へと戻りました。そうはいっても画角が4対3から16対9へと変わりましたから、それまで画角に入らなかった部分も映るようになり、新たな画作りが可能になりました。

横山:レンズやVTRなど機材もいろいろと進化していったため、とにかく試行錯誤した記憶があります。おそらく梶谷さんのときが過渡期だったんじゃないかな。

梶谷:そうだね。カメラの操作方法が変わったばかりのときは、結構難しかったですよ。ズーム操作、フォーカスが一本の棒でできる既存の操作方法に慣れていましたから。そこでレンズのメーカーさんと相談し、それまでのように一本の棒で操作出来るアダプターのようなものを作ってもらいました。

横山:レンズの倍率は最初40倍ぐらい。それがいまや100倍のレンズも出ていますから。機械が良くなるにつれ、当然出来ることも増えていくから仕事をしていて楽しいですよね。
――メーカー側に要望を出されることもあるのですね。

横山:「風が強い甲子園でも耐えうる防振装置を入れてください」とお願いしたこともありました。強度や度合いは実際試合中に感度を変えながら様子を見、そのデータを渡して、また開発を進めていただく…といった様子です。

後藤:夏はとにかく暑いし、砂ぼこりもかなり舞っているので、その対策も欠かせません。

横山:メーカーさんがこちらの要望に沿ったデモ機を持ってきてくれるのですが、“甲子園で動いたらどこでも大丈夫”みたいな雰囲気があるぐらい。それほど環境は過酷です(苦笑)。昔は熱でハンディカメラがよく壊れていました。

後藤:すごい暑さですもん。自分たちでも出来る限り暑さ対策していますが、そこで役立っているのが冷たいおしぼりじゃないでしょうか。

梶谷:クーラーボックスに冷やしたおしぼりを用意しておき、それをカメラに乗せて冷却するんです(笑)。すぐからっからに乾いてしまいますが、優秀なアイテムですね。もともとはスタッフ用ですが、カメラに使う方が多いんじゃないかという説も…(苦笑)。

後藤:カメラマンは日焼けもすごいですよね。撮影中は動けないから直射日光を片側から浴びつづける。右側と左側で焼け方が違っていたりします(笑)。
全国高等学校野球選手権大会のデータ一覧を見ながら、過去の試合を振り返った皆さん。「高校野球の進化に伴い、撮影技術にもさまざまな変化がありました。松坂大輔選手が初出場した翌年にはスピードガンの速度表示が始まりましたし、田中将大選手の登場以来、投球の詳細をスローで見せる方法が定着しました」。
――カメラマンとして撮影にかける思いは?

梶谷:高校野球を撮りたいカメラマンは全国にたくさんいます。ある意味、中継カメラマンが目指す頂点ですね。

3人:大阪では一番人気ちゃいますか。

横山:僕もそうですが、高校野球中継のチーフをやりたくて大阪局への転勤希望を出す人が全国にいるぐらいですから。全国の放送局から応援にも来ますが、大阪局への異動が一番の近道なので。

後藤:そんななかで長年現場に携わることができ、本当に恵まれているなと実感する毎日です。高校野球と一緒で、中継自体もカメラマンやスタッフが全員で作り上げていくもの。チームプレーで動いて、チームワークでする仕事だと思っています。

横山:先輩カメラマンたちは、「しっかりバットを振れよ!」「頑張ってボール捕れよ!」と球児たちを見守るような思いで撮影されてきたそうです。僕自身もそんな先輩方から学ばせていただき、同じ思いを持ちながら撮るようにしてきました。そうすると撮影自体も良いリズムに乗っていくことが出来ます。勝敗を分けるような場面でも、選手に対し「ここが勝負やで!」という思いを持って撮ると、自ずと迷いが減ってパシパシっとカメラワークが決まるようになりました。

梶谷:スイッチャー(画面の切り替え操作担当)もそう。先輩方はインカムを通して選手たちへの熱い思いを伝えてくださいました。そうやってカメラマンをうまくのせられると、生きた画としてそれが自分に跳ね返ってくるんです。

後藤:これがなかなか難しいんですよ(笑)。

梶谷:同じ瞬間は二度とないので、選手たちや応援している人たちの一瞬の表情を大切に撮り続けていきたいと考えています。下の世代にもこの思いを引き継いでいきたいですね。

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