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HIATUS KAIYOTE interview / プリンスやエリカ・バドゥらも讃える「フューチャー・ソウル」バンドの魅力を探る

プリンスやスティーヴィー・ワンダーといったレジェンドから、エリカ・バドゥ、クエストラブらからも称賛の声を集めるオーストラリア発の新鋭バンド。ハイエイタス・カイヨーテの最新作『Choose Your Weapon』が、今年の6月に録音したばかりという音源をボーナストラックとして加えた形で日本盤化。そしていよいよ来月、初来日のステージを踏む。「フューチャー・ソウル」とも呼ばれる彼らの魅力とは? 実現した電話インタビューとあわせて、ハイエイタス・カイヨーテの“ソウル”がどのようなものなのか、探っていこう。

文/原 雅明 通訳/Kana Muramatsu Photo by Wilk

オーストラリアのメルボルンで5年前に結成されたハイエイタス・カイヨーテは、無名だった当時からは想像もできないような大きな成功を収めつつある。

女性ヴォーカルのネイ・パーム(Nai Palm)、ベースのポール・ベンダー(Paul Bender)、キーボードのサイモン・マーヴィン(Simon Marvin)、ドラムスのペリン・モス(Perrin Moss)からなるこの4人組のバンドは、プロデューサーのサラーム・レミ(Salaam Remi)にフックアップされて、Qティップ(Q-Tip)をフィーチャーしたシングル“Nakamarra”で、いきなり、2013年のグラミー賞ベストR&Bパフォーマンス部門にノミネートされた。その音楽性から、ネオソウル・バンドやフューチャー・ソウル・バンドといった形容されることが多いが、Qティップはもちろんのこと、ディアンジェロ(D’Angelo)、エリカ・バドゥ(Erykah Badu)、クエストラヴ(Questlove)など、ハイエイタス・カイヨーテが影響を受けたであろうアーティストたちからも賞賛を得る立場となった。

今年、セカンド・アルバム『Choose Your Weapon』をリリースし、全米やヨーロッパのツアーをおこない、この9月には初来日を果たす。未だ日本での知名度はそれほど高くはないが、アルバムのリリースと来日公演を契機に、彼らの評価は確実に高まるはずだ。バンドのサウンドの核にもなっているベーシストのポール・ベンダーのインタビューを元に、彼らの音楽性を紹介したい。

Qティップは最高だと思うし、彼にだったら委ねていいと思った
Qティップとコラボなんて言われたら、ノーなんて言えないよな(笑)

俺たちはそれぞれ全く違う音楽を聴いて育ってきた。俺はヘヴィなのが好きで聴いてた。メタルとかグランジとか。サイモンは4歳からクラシック・ピアノを弾いて育ってるし、ネイはスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)とか聴いてたし、ベランは世界中の音楽を好きで聴いてた。西アフリカとかキューバとかね。
 みんな音楽的には全く違うバックグラウンドだから、それを融合して俺たちのやり方で賞賛しているのが俺たちの音楽なんだ。違う音楽を集めているけど、どんな音楽も根本的なものは同じで、そこから生まれるヴァイブレーションを大事にしているし、みんなに何かを感じてもらえるヴァイブレーションを俺たちなりに伝えること。だから俺たちは限界を決めずにやるんだ

ベンダーは、パット・メセニー(Pat Metheny)やジャコ・パストリアス(Jaco Pastorius)が教鞭を執っていたことでも知られる名門のマイアミ大学のジャズ科を卒業し、ジャズの基礎とベースの演奏を実は徹底的に学んでいる。それに対して、ドラムスのモスは元々ビート・メイカーで、そこからドラムに興味を持ち、自己流で自分でも叩くようになったという経歴の持ち主だ。この事実だけでも、多様な音楽的バックグラウンドを持ったメンバーが集まっていることが分かるだろう。

俺たちはバンド結成前から友達だったわけじゃないし、今も別に友達ってわけじゃない。マジで。お互いに常に言い争ってるし、いつも誰かがトップになろうとしてる。まぁ、簡単に言えば、毎月のように“今月の優秀社員”みたいなのが選ばれる感覚ってのかな。誰が最高のアイディアを出してくるか勝負なのさ。優秀者はフレームに入った写真が飾られる(笑)

冗談交じりにベンダーはバンドの関係性をそう語ったが、もちろんこの言葉には誇張と謙遜が入り混じっている。しかし、あながち的外れなことを言っているようにも思えない。スーパーなテクニシャン志向のバンドではないし、ジャム・セッションのノリの良さだけで突っ走るバンドでもない。冷静さとダイナミズムが共存し、現在のR&Bやヒップホップのプロダクションをただ生演奏でなぞるのではなく、そうしたサウンドに潜んでいる新たな魅力を生演奏によって再提示してもいるのが、ハイエイタス・カイヨーテの魅力だろう。だから、彼らが自主で制作したファースト・アルバム『Tawk Tomahawk』は、届くべくして、サラーム・レミの耳に伝わり、彼のレーベル Flying Buddhaからワールド・ワイドにデビューを飾ることにもなった。

サラームは、俺たちの音楽をいろんなところでチェックしてて、知り合いを通じて会ったんだ。ちょうど、彼はレーベルをスタートさせたいと考えていた時で、プッシュするアーティストは予想とは違うタイプがいいと思ってた。しかも、いつものプロデューサーとしてでなく、A&Rという立場でやるということで、彼の思惑と俺たちがやりたいことがちょうどピッタリ合った、というわけなんだ。
 彼は俺たちをサポートしたいと言ってくれて、俺たちも彼のレーベルに対する、インディー的なマインドで続けるレーベルだ、という考え方に賛同したんだよ。バンドやアーティストを変えようとするのではなく、やりたいことをやらせる。“レコード作って、素材を渡してくれれば、後はこっちで売るから”ってスタンス。“こういうプロデューサーに来てもらって、キミたちの音はこうあるべきだって言ってもらうから”ってのじゃない。だから、俺たちとしても彼と組むことが最良だと思ったんだ

サラーム・レミは、既に制作されていた『Tawk Tomahawk』のサウンドを変えさせようとはしなかった。だた、Qティップをフィーチャーしたボーナス・トラックの提案だけをしたという。

MCとコラボレーションを、ってアイディアが最初出た時は、正直、ダサイなって思ったんだ。でも、Qティップ、って言われたときに、ちょっと待って、それだったら結構いいかも、って思ったんだよ。Qティップは最高だと思うし、あの曲を彼にだったら委ねていいと思った。Qティップなんて言われたら、ノーなんて言えないよな(笑)。彼の場合は俺たちもルールを変える」(→ P2に続く)

『Choose Your Weapon』 日本盤8/26発売
1. Choose Your Weapon
2. Shaolin Monk Motherfunk
3. Laputa
4. Creations Part One
5. Borderline With My Atoms
6. Breathing Underwater
7. Cicada
8. Swamp Thing
9. Fingerprints
10. Jekyll
11. Prince Minikid
12. Atari
13. By Fire
14. Creations Part Two
15. The Lung
16. Only Time All the Time: Making Friends With Studio Owl
17. Molasses
18. Building A Ladder

[Japanese bonus tracks]
19. Ha!
20. Prince Minkid (Live Cassette Edition)