BEHIND THE SCENE - アナウンサー、技術陣などが、高校野球中継の裏側や、面白エピソードを披露。

放送の舞台裏

中継技術・撮影編「青春にプラスアルファの中継を」

2015年7月16日

 僕は高校野球の何もかもが好きです。野球というスポーツも好きですし、甲子園球場というあの空間そのものも好きです。
 スポーツは筋書きのないドラマとよく言いますが、高校野球はその最たるものだと思っています。まだ10代の、心も身体も発展途上の選手たちが負けたら終わりの勝負に全力を注ぐ。その姿に毎回感動しますし、そしていろんなことに気づかされます。球児たちのひたむきなプレーを伝えるこの仕事は、我々が喜怒哀楽を味わい、そして映像で表現できる機会でもあります。
 このことを仕事として20年近くやり続けてきたことに自負がありますし、とにかく面白い。ほとんどやみつきです(笑)。

 でも、ただ面白いから、楽しいから、とそれで満足しているわけではありません。
球児たちは、毎日厳しい練習を繰り返し、激しいレギュラー争いをしながらいくつもの試合を経験し、夏であれば予選を勝ち抜き、やっとのことで甲子園にたどりつきます。
そんな彼らを映すのですから、中継に携わる我々も、球児たちが素振りをするように、僕らも当たり前に努力が必要なのです。

カメラワークはもちろん、映像選択(スイッチング)、そして機材の研究……。撮影担当者として学ぶべきことはやまほどあります。とにかく努力して技術を身に付け、それ相応の情熱と技量を持っていなければ、甲子園中継に携わる資格はありません。少なくとも僕はこれまで諸先輩方にそう教わってきましたし、おそらく、高校野球中継に携わる人間のほとんどがそう思っていると思います。

松坂の登場で中継技術が変化

 カメラマンにもいろいろなタイプがいますが、僕はどちらかというとオタクタイプです。中継にまつわるあらゆることを調べ、勉強したりするのが大好きで、僕にとってはそういうことをするのが至福の時間なんですね。
 それに加えて、冒険心というか好奇心が旺盛で、いつも何かたくらんでいるようなタイプです(笑)。これまで先輩方がやってこなかった、新しい中継スタイルに挑戦しようと、いつもそんなことばかり考えています。

 でも、それは高校野球が持つ魅力を最大限伝えたいと思うからです。球児のひたむきさはいつの時代も変わりませんが、競技という面から見ると高校野球は、時代とともに変化し続けているからです。

 例えば、球種の増加があります。
 最近では、1998年の夏、第80回大会決勝でノーヒット・ノーランを達成し、横浜(東神奈川)を優勝に導いた松坂大輔(現福岡ソフトバンクホークス)の登場が、中継態勢を変えるきっかけとなりました。

 彼は150km/hを超える速球と高速スライダーを投げましたが、1998年の夏にはまだ、球速表示とその球種の特徴(投げ方)を見せるスロー専用カメラを採用していなかったんです。

 僕はこの決勝ではバックスクリーン横のカメラを担当していたのですが、大会終了後には、やはり、どのくらいの球速であったのか、そのボールのすごさを映像で見せたかったという思いが残りました。
 そこで、今後に向けて演出方法や使用機材などの検討に入り、2年後に球速表示を、5年後には準々決勝からスロー専用カメラ導入に踏み切ったのです。甲子園中継ではそこまでしなくていいという意見もありましたが、僕は違う考えでした。
 いまでこそ、スローVTRも球速表示も当たり前になりました。ハイスピードカメラも導入されています。高校野球の技術だけでなく、機材の進化も中継そのものを変化させているとも言えます。

 高校野球は、極端に言えば、球児たちを映しているだけで感動は届けられるものだと思います。でも、僕はその「青春」にプラスアルファの味つけも必要だと思う。NHKの甲子園中継は、高校野球の変化と時代の流れに合った中継を目指すべきだと思っています。
 ですから、後輩たちにはこれからそのあたりを突き詰めていってほしいと思っています。もちろん、僕もまだまだ頑張りますよ!
写真は2000年夏、第82回大会のときに撮影したもの。当時、33歳

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