GIRLS - “高校野球が大好き”という女性ライターと“野球の「や」の字も知らない”女性イラストレーターが独自の目線で描く、イマドキの高校球児たち

高校野球女子 集まれ~!

特色いろいろ!学校訪問

2015年7月9日

第2回「勝敗を握るGMの存在」仙台育英

 今回、訪れたのは甲子園常連校の仙台育英。練習が始まり、チームの円陣の中心でこの日の練習を指示する選手がいました。本田雄太君。仙台育英のグラウンドマネージャー。通称「GM」。毎日、監督と直接やり取りをし、練習メニューはもちろん、選手たちの学校生活も管理する。まるで監督の代役のような大事な役職。GMとしての仕事に専念するために、試合には出場せず公式戦では記録員としてベンチ入りします。
「うちはキャプテンがチームを作るわけじゃない。どちらかと言えばGM。僕の代わりをやるわけですからね」(佐々木順一朗監督)

 私たち記者が取材に伺った時も、取材の窓口になるのは部長。実際に取材の対応にあたるのはGM。まぁ、とにかく大人もビックリするほどしっかりしていて、私もここ数年、仙台育英の取材を担当する中で、歴代のGMには本当にお世話になりました!

 でも、ここで一つ疑問が。
GMといわゆるマネージャーとの違いは何なのでしょうか。
「GMは助監督。マネージャーは総務部。キャプテンは選手委員会の長のような感じでしょう」(佐々木順一朗監督)
 仙台育英は、徹底したシステム化でチーム作りをしています。監督の直近の部下の役割をGMが担当。その下にキャプテン。グラウンドには出ずに部室で選手たちの身の回りの世話だけを担当するマネージャーも各学年に2人存在します。
「役割を明確にすることで1つの会社組織と同じ形態を取っているんです」
 このシステムは、練習を生徒の自主性に任せるために20年以上前から始まりました。例えて言うなら、監督が社長ならGMは専務。キャプテンは部長。部長の下には部署があり社員がいて会社が成り立つ。組織化することで指示系統とそれぞれの責任がより明確になったうえで、まとまりのあるチームが作られるのだといいます。

 例えば…、体操でいつも大きな声を出している「体操リーダー」ランニングを主導する「ランニングリーダー」などなど1人1役、様々な役が用意されています。責任を持ってチームの運営に参加することでよりお互いの気持ちが理解できる。チームがぎくしゃくすると、すぐにスタッフ会議を招集。チームリーダーに気持ちを共有させ、最終的には、GMから監督に報告されるわけです。

「GMが先走ってもダメ。相談して、選手の意見をくみ取った上でチームを動かす。あくまで、みんなで決めたこと。俺が決めたからやれ、でもダメ。監督の手足になるだけでもダメなんですよ」(佐々木監督)
練習が終わると選手間ミーティング。その中心にいるのは、GMの本田君です
――選手のことも考え、監督に対しても気を使える――

 昨年、仙台育英は優勝候補と期待されながらも7月15日、4回戦で敗退。思いがけず、新チームが早くスタートしました。
「心の準備はできていたつもりでも、いざ全体をまとめようとしたらうまくいかない。失敗の連続でした」(本田君)
 レギュラーが多く残る新チームで、夏休みの練習試合は負けなし。順調にスタートしたかに見えましたが、実はそれはうわべだけのことでした。
 秋の地区大会で聖和学園に6対8で敗戦。
「負けるまではうまくいっていたんです。でも、実はそれはみんなとワイワイ楽しくやっていただけ。先生(佐々木監督)に、“自分が中に入っていかないとわからないところもある。でも、入っているだけだと全体は見えないよ”と言われて気が付いたんです。自分は選手とは違う立場で客観的に見る力がないとダメなんだ、と」
 
「このままでは、チームがダメになる」
 キャプテンの佐々木柊野君と徹底的に話し合い、チームのために自分改革。選手の中で一緒に笑い合うこともあれば、時には厳しく言う。思いは1つ――。「この負けを糧にしよう」。そして、秋は敗者復活から1つ1つ勝ち上がり、東北大会優勝、神宮大会で全国制覇を果たしたのです。
「その代ごとに形がある。選手が違いますからね。毎回、1年ごとに別会社を作っているようなものです(笑)。でも、本田は周りからの推薦もあり、なおかつ本人もやりたいと言ってきた選手。でも、正直、最初はひ弱そうに見えたから、無理じゃないかと思っていたんです。それが思いの他、芯が強かった。大したもんですよ。ちゃんと考えて、みんなに相談をして決めてチームを動かしていますね」と今では、監督の信頼も大きい本田君です。
日々、成長を続けるGM、本田雄太君。練習が終わると、選手の中でワイワイ騒ぎ笑顔も。オンとオフ。その使い分けが重要
 では、佐々木監督が考えるGMの資質とは――。
「例えば、GMが自分で考えて始めたことも、先生に言われたんだ、と言えるヤツなら大丈夫。陰で上司を立てる。そんな信頼関係ができれば、監督もまたGMも立てるようになるんです」
「GMはな、お前のことを考えて言ったんだぞ」と監督が選手に言うこともあれば、「先生、アイツ頑張っているからひと言、声をかけてください」とGMが監督に助言することもある。社会に出れば、誰しも手柄は自分のものにしたい。しかし、組織の中では人を立てて結果を出して、本当の評価をされるもの。
「仙台育英はGMで決まる」そう、歴代のOBたちから言われるゆえんもそこにあるのです。
 だから…仙台育英のGMは選手たちにとって憧れの存在に近いのです。2年前、GMを担当していた水沼航平君も、レギュラー入りできる力を持ちながらあえてGMの道を選びました。本田君もまた、「もともとGMに関心があったんです。チームでただ1人しかできないこと。この人間によってチームが左右される。こういう形でチームに関われる、チームに貢献できるんだ、と思ってGMをやりたいと立候補しました」と言います。
チームの中での自分の存在価値。そこを見据えた先にGMという形があるのです。

「この夏、みんながどうしたらいい思いができるか。考えてやってきました。挑戦者の気持ちで。1つ1つ、目の前の試合を戦っていきたいです」(本田君)

 監督とGM、そして選手たち。その気持ちは一つ。最後に笑顔で終わるために。その挑戦の夏が始まりました。

※NHKサイトを離れます