クリストファー・ノーラン監督の右腕!「インターステラー」で2015年度米国アカデミー賞視覚効果賞を受賞したVFX界の重鎮、イアン・ハンターが語る!

2015.08.25 Tue

 

イアン・ハンター:New Deal Studios共同設立者/クリエイティブディレクター。長編やコマーシャルで数々の賞に輝き、映像の視覚効果、制作分野で視覚的なストーリーテラーとしての地位を確立。制作に参加し、そのユニークなスタイルとクリエイティブなビジョンが十分に表現された「ダークナイト」「インセプション 」などで、視覚効果協会(Visual Effects Society)から授与されるVESアワードなどを受賞。また近年は「インターステラー 」の視覚効果監修を務めた。撮影風景ホラーショートフィルム「Allure」で監督デビューし、その後、地下鉄のCMなども手掛けた。
ダークナイト」「インセプション 」「インターステラー」などの映像を手がけたVFXの重鎮イアン・ハンター氏が、2015年6月に開催したアジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)でのトークイベントのため来日。自身が手がけてきた映像を交えて、伝統のミニチュア・ストップモーションによるSFX技術や、最新VFXなどの映像マジック、その舞台裏を存分に語った!

ハンター氏は視覚効果のスペシャリストでハリウッドでも有数のVFXスタジオ、New Deal Studios(ニューディール・スタジオ)の共同設立者。「ブレードランナー ファイナル・カット 」や「バットマン リターンズ 」などの傑作を手がけ、近年はクリストファー・ノーラン監督作品で視覚効果のスーパーバイザーを務めている。

■クリストファー・ノーラン監督の求めるリアリズム

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「ノーランとの仕事では常に挑戦を求められます。彼は難しいショットをうまく撮るためにスタッフに激務を課すことも厭いません」(ハンター氏)
ハンター氏は制作に携わるスタッフに対し、各自の妥協を決して許さず、彼らが激務に喘いだとしても挑戦させ続ける。その理由は、豊かでクリエイティブな表現にリアルさをより出すためで、リアルでなければ観客の心を動かすことは出来ないというノーラン監督の信念にもとづいている。フィルムでの撮影を好み、可能な限り俳優をセットやロケ地に立たせ撮影することで、物語に真実味が生まれ、観客は現実を見るのだ。

最初の選択は実写、次に本物に近いミニチュア撮影、そして最後の手段としてCGを使う。CGを使う際は、物語がウソっぽく映らないようにリアルさを追求する。ノーラン監督がCGに求めるのは、物語をより伝えることの出来る現実味のある映像であり、視覚効果はストーリーテリングの一部だとハンター氏は語る。

「ノーラン監督には信念があります。全作品に共通しますが、視覚効果を使う場合、一連の流れをまず映像に収めさせるのです。そこから物語に必要な部分を切り取って編集します。手法は毎回違っていても、その点は昔から変わりません」(ハンター氏)

■ノーラン監督の仕事が結実した「インターステラー」

映画「インターステラ―」(原題:Interstellar)
2014年/アメリカ映画/英語/169分
dir:クリストファー・ノーラン|ex pr:ジョーダン・ゴールドバーグ|pr:エマ・トーマス、クリストファー・ノーラン、リンダ・オブスト|VFX:イアン・ハンター
配給:ワーナー・ブラザーズ映画
「インターステラー」はノーラン監督との仕事が結実した作品だという。ハンター氏は同作品で実際に多くのセットを作り、宇宙船の外観も手掛けた。多くのシーンに登場する宇宙船・エンデュランスは模型で制作し撮影した素材を、背景の映像と合成している。

デジタル技術が台頭し、セットを組まずにグリーンバックで撮ることが主流になった今、「インターステラー」ではグリーンバックを一切使用していない。できる限り実物をフィルムに収めるために、アイスランドでロケを行い、その映像を惑星の景色に仕上げ、その景色をプロジェクタで投影したセットで、役者は演じている。観客が心を奪われ、その大きなうねりに身を委ねる圧巻の映像は、マシュー・マコノヒーをはじめとする役者の魅力を味方につけ、実際に撮影した素材を合成することで表現出来たものだとハンター氏は語る。

「頭のなかにある映像を、言葉にできる監督との仕事はいつも楽しいです。すべては監督のビジョン次第なのです」(ハンター氏)

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エンデュランス(左上/下)、レインジャー(右上/下)。これにランダーを加えた3つの宇宙船をハンター氏が設計した(「インターステラー」より)。


■大切なのは技術者のスキルではなく、アーティストとしての表現力

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監督とは、グリーンバックで撮影した映像をVFX会社に丸投げするのではなく、作品のイメージを言葉でスタッフに伝える必要がある。

「ある映画の脚本を読んでいるときに、質問に対してまったく答えられない監督がいました。監督なのに映像が見えていないのかと、ショックを受けましたね。正しいか正しくないかは別として、私はそうやって脚本を読むようにしています」とハンター氏は言う。

監督は自らのプランを言語化し周囲へ伝えるためにも、映画制作技術を把握しておかなければならない。それがアーティストとしての成長につながるというのが、ハンター氏の見方だ。

ハンター氏がスタジオを設立したのは1995年。仕事を始めた頃はまだ、デジタル合成もなく、MAYA CGIアニメーションもなく、その頃に比べると技術は圧倒的に進歩したという。安価なソフトウェアで人も世界も宇宙船も、ゼロから作り出すことができる。ここでハンター氏が問うのは、”問題はそれを作ることが可能かどうかではなく、それをどのように表現するのか“という点。つまり大切なのは、技術者のスキルではなくアーティストとしての表現力なのだ。

SSFF & ASIAのサイトでは今回紹介したセミナーPart1のほか、Part2(「ダークナイト」「インセプション」「ダークナイト ライジング」について)、Part3(「インターステラー」について)も配信中なので、ぜひ併せてご覧いただきたい!

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ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)
1999年に誕生した米国アカデミー賞公認、アジア最大級の国際短編映画祭。俳優の別所哲也が代表を務め、グランプリは次年度アカデミー賞短編部門のノミネート選考対象となる。2008年には、SSFF & ASIAと連動したショートフィルム専門映画館、ブリリア ショートショート シアターを横浜みなとみらいに設立。日本にショートフィルムを啓蒙する役割を果たすべくその活動領域を広げるとともに、世界に羽ばたく若きクリエイターを応援している。東京・横浜にて17回目の開催を迎えた今年は約5,000本の作品が世界中から集まり、そのうち約200本を上映。現在、2016年度の開催に向け作品募集中!


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