手作りだから栄養的にすぐれているというわけではない
-最初に執筆の動機をお聞かせください。
成田崇信氏(以下成田):仕事や子育て関係でインターネットを使って情報収集をしていると、栄養に関するおかしな情報や子供を持つ親や病気の方が変な食事療法に手を出しているという事例がたくさんヒットします。
それに対する注意喚起をブログやTwitterでやっていたのですが、それだけだとネットを見ない方たちには正しい情報が届かないんですよね。それで書籍という形で間違った情報を得る前の方たちに正しい情報を伝えたいと思っていたところ、出版社から親子の食育本を書いてもらえないかというオファーがあったんです。それも私がブログに書評を書いたことのある専門医ママの本(※)の番外編ということだったので快諾しました。
※ 宋美玄著『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』、森戸やすみ著『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』、白尾直子著『児童精神科医ママの子どもの心を育てるコツBOOK』の3冊。
-予防的な意味で読んでもらいたいと考えたんですね。
成田:私が、ネット上で情報発信を始めてから7~8年ぐらい経ちますが、メールで相談を受けたり、ブログのコメント欄やTwitterでやり取りなどをしてきた経験から考えると、変な食事法などに一度ハマった方は戻ってこない場合がほとんどなんですよね。今まで自分がやってきたことを否定されているような気持ちになってしまうため、誤った情報を正しくアップデートするのが難しくなってしまう。だからこそ、事前にキチンとした情報に触れていれば、おかしな情報を耳にしても「あっ、危ないのが近づいてきた」と察知してもらえるんじゃないかなと考えたんです。
ブログやTwitterだけだと、どうしても「どんな人が言っているのかわからない情報だけど、本当に信用できるの?」と思われてしまいます。しかし、書籍の形であれば、買った時点である程度は信用して読んでもらえることになる。そうやって、最初に正しい情報に触れてもらえば、その後に変な情報に触れた時も身構えることができるのではないでしょうか。
-子育てや食べ物の話は、「全部手作りでなければならない」「ファーストフードは絶対にダメ」といったように教条的になりがちです。しかし、今回の書籍では「ファーストフードなどもトータルでバランスが取れていれば、たまにいいんじゃないか」といったように、全体的に柔らかい論調になっていますね。
成田:その点は意識し過ぎるぐらいに意識しました。子供を持つと、自分が多少無理してでもキチンと子供と接してあげようという頑張り屋さんになる方が多いんですよね。こういう本に興味がなく、子育てはほどほどで良いと考えている方ではそういう心配は少ないのですが、わざわざ本を買ってまで学ぼうとする方は、すごく頑張り屋さんだと思うんです。だからこそ、「全体でバランスがとれていればいいんだよ」というメッセージは重要だと考えました。
例えば、今はご両親ともに働いている場合も多いですよね。疲れ切って帰ってきて、無理してキチンと料理をしようとすると、子供がわめいたり騒いだりしたときに、「あなたのためにご飯を作ってるんだから、静かにしなさい!」と言ってしまいがちだと思うんです。
それを何度も何度も繰り返すと、子供も辛いし、親も頑張っているのに報われないので、どちらにとっても良くありません。であれば、疲れた時ぐらい出来合いのものを利用して調理の時間を短縮し、そのぶん子供と楽しく過ごせたほうがいいんじゃないかという提案でもあります。
「親は絶対手作りの料理で子供を育てないといけない」と思って頑張りすぎる人に「もっと頑張れ」というようなおかしな情報もありますが、栄養的な要素を見ても、手作りだからといって、すごく良いというわけではありません。
また、「カット野菜は栄養価がないから使っちゃダメ」といった話が流布されていたりしますが、根拠はまったくありません。多少栄養成分が低下する傾向はありますが、野菜の味が残っていれば栄養価がないなんてことはあり得ないのです。
-「母乳で育てないとキレやすくなる」といったような無根拠な言説もよく見かけますが、そうした情報を科学的な見地から否定することは重要ですよね。
成田:調べてみると、食育の常識のように振りかざされているものの中には、ほとんど根拠がないものも多いんです。例えば、「加工食品をあまりあげずに手作りじゃないと…」「朝ごはんを食べないと…」などと言ったものがあるのですが、加工食品であっても栄養バランスを考えて選べば手作りとの栄養面での差はそんなに大きくないでしょう。
朝食の話も「朝ごはんを食べる子は成績がいい」といっても、朝ごはんをきっちり作ってあげることが出来る家庭は、経済的にも余裕があって教育に力を入れているから、成績が上がりやすいといったように他の多くの要素に影響を受けています。なので、そうした要素を抜きにして「朝ごはんを食べなきゃ、子供がおかしくなる」といったような食育は行き過ぎなのではないでしょうか。
当然、体質によって朝が苦手な方もいるでしょう。そういう方も一律、朝ごはんをしっかり食べる必要があるのでしょうか。大人なら食べなくてもいいかもしれません。子どもの場合は一度にとれる食事の量が少ないので食べたほうがいいのですが、しっかり食べるのが難しいなら、何かお腹の足しになるようなものを食べましょう、という緩めのメッセージも同時に提示して欲しいところです。
さらに、「朝はパンを食べてはいけない」といった食育もあるのですが、そんなことを言ったら、白いご飯を食べる習慣のない国はダメなのかという話になってしまいます。
このように食育というと何かで縛る風潮が多いのですが、白いご飯が好きな人は白いご飯を、パンが好きな人はパンを、時間がなくてシリアル食べたい人はシリアルを食べればいい。そういう自由な発想を持ってやっていけばよいと思います。
巷にあふれる「昔はよかった」的な食育
-序盤のコラムで取り上げられていた、「5つの“こ食”」(「孤食(ひとりでの食事)」「個食(家族が個々に別のものを食べる)」「固食(同じものばかり食べる)」「粉食(パンや麺などの粉ものばかり食べる)」「小食(食事量が少ないこと)」の5つを子どもによくない食習慣とする考え方)ように道徳として説かれると「なるほど」と思ってしまう部分あるのですが、よく考えると「あれ??」となるものも多いですね。
成田:こじつけなんですよね。子供に1人で食事をさせるのは可哀想だ、というのは本当にその通りだと思います。同じものを食べ続けるのも改善してあげる必要があるでしょう。しかし、それにかこつけて、後付けで無理やり5つにしているように見える部分もあるんですよ。場合によっては、6つや7つになっていることもあります。こうした道徳的な話は、なんとなく説得力があるように見えますが、食育は栄養学でもありますから、科学的に見る必要があると思います。
先程も指摘しましたが、食育というと栄養学をそっちのけにして、昔ながらの食事を押し付ける、価値観を伝授するみたいなものも多いんですね。「昔はよかった」とか「近頃の若い者は」みたいな上から強制してやろうといったものが根底に流れているケースも散見されます。
例えば、「最近は食が乱れて…」なんてことが言われますが、栄養状態で考えれば終戦直後や戦争中、大正時代などと比較すれば現代の方が優れているのは明らかです。よくあるパターンとして「最近の日本人は魚を食べない」などと言われることもあるのですが、日本人が一番魚を食べた時期というのは、1970年~2000年代初頭頃なんですね。最近は減少傾向にあるのですが、現代の日本人が1日に魚を食べる平均的な量は、終戦直後や大正・明治時代よりも多い。当時は、内陸部に魚を輸送することができなかったので、沿岸の人しか魚を食べることができないという事情もありました。
このように「近頃の日本人は魚を食べないので良くない」と言っても、歴史上一番魚を食べていたのは、1970年代~2000年代初頭の日本人ですから印象と実際とはずいぶんと違いがあるんですね。そういうカラクリがあるにも関わらず、「昔の日本人は良い食事をしていた」といった思想が根底にあるものが多いと思います。
-「頭が良くなる」「背が高くなる」といった特定の効能を求める食事というのもメディアの注目を集めやすいですよね。面白みはありませんが、栄養学的な要素から見れば、必要な栄養素を必要な分だけきちんと取るといったバランスの良い食事の在り方が、一番良いわけですよね。
成田:「必要な要素をバランスよく取る」というのは、確かに当たり前の話かもしれません。ただ、当たり前が当たり前じゃなくなってきている昨今だからこそ、当たり前のことを言う意味もあると思います。
私は、「○○を食べると体に良い」というような話を全否定はしません。上手く利用して、子供があまり食べない時に「この食品には栄養があって元気になるから食べよう」というように、方便として使うのはアリだと思います。野菜嫌いの子に「この野菜はすごく力つくんだよ。特にスポーツしてる子にいいから食べなよ」と言うことで、興味が湧いて食べるというならいいと思います。
ところが、本当に効果があると信じ込んで、そればかり食べさせたりすると弊害が出てくるんですよね。逆のパターンで、「これを食べると頭が悪くなる」「これを食べると健康に良くない」という言説には、もっと罪があると思います。
-例えば、ファーストフードや甘い物を食べ過ぎるとダメという言説はよく見かけます。
成田:アメリカの食生活を想定している場合が多いので、規模がまったく違うケースがあります。日本人の食べ過ぎというのは、もちろん問題がある場合もありますが、多くは問題にならないレベルです。
-中学生ぐらいの時に「DHAは頭に良い」という話が流行して、マグロの目玉を食べさせられたりした記憶があるのですが、「今のところ、そうした証拠はない」という記述があり、がっかりしました(笑)。
成田:ほとんどの日本人は特に意識しなくても魚類からDHAを摂っていますし、過剰に摂りすぎても問題です。例えば、DHAは血液を固まりにくくする働きをもっている油ですが、高齢者が摂り過ぎると、脳出血を起こしやすくなってしまいます。逆に、動物性の脂肪を取ると脳梗塞を起こしやすくなるので、中間あたりであれば、脳出血も脳梗塞もあんまり起こらなくなります。
こうしたバランスについては、厚労省から出ている「日本人の食事摂取基準」というものが参考になりますし、私の本もこれがベースになっています。
-ただ、「◯◯大学の研究チームが、コーヒーを飲むと寿命が延びるという論文を発表しました」といった報道を見ると、「そうなんだ!」と思って、それに群がってしまうといったようなことが往々にしてありますよね。
成田:ありますね。納豆が血栓を予防するというような話もありました。しかし、様々な食品の流行を追いかける人は、それほど問題ないと思います。むしろ、特定の品目に偏った食事を続けてしまう人のほうが恐いですね。
流行を追いかけて、新しいものがブームになる度にそれに飛びついてしまうような人は、偶然ですけど、長い目でみるとバランスが取れている、なんてこともありそうです。しかし、「○○食が良い!」と決めつけて、「一生それでやっていこう」となってしまうと危険です。
-マクロビオティックなどは成長過程の子供には弊害もあると思いますが。
成田: マクロビなどに代表される“特別な食事をすると良くなる系”の話は、簡単に治らない子供の難病などが「治るぞ」という根拠のない話で引っ張ってくるケースが多いですよね。
人間というのはやはり弱い生き物ですから、苦行に耐えれば報いがあるんじゃないかと期待してしまう部分があります。そういう修行的な要素があるものは、ストイックに続けようとする人が多い。「人と違うことをやって、こんなに頑張ってるんだから、よい結果がでるだろう」と思ってハマってしまうんです。
もちろん、大人が自分の好き勝手でやる分には良いでしょう。ミーハーな気持ちで取り組んでいる人なんかは、ほとんど心配ありません。マクロビみたいな食事でも、朝昼はマクロビで、夜は普通の食事を食べているとなると、最近の食事で多い栄養素と少ない栄養素がちょうどマッチして案外バランスが良くなるなんてこともあるでしょう。
ただマクロビは、子供の成長期に必要な栄養素が絶対不足するような食事法なので、お子さんのいるご家庭には、まったく勧められません。
-子供のことになると、一生懸命な分だけ、藁にもすがる思いで非科学的なものに頼ってしまうケースもありますよね。
成田:子育て中のお母さん、もちろんお父さんも含めてですけど基本的には真面目な方が多いんですよね。「食事をちゃんとしなさい」「親は子供をちゃんと見なさい」という必要以上の社会的プレッシャーこそが、極端な食事やいい加減な食育を助長してしまっている部分もあると思います。そして、そうしたいい加減な食育の言説によって、親が責められ、「私のやり方が悪いんじゃないか…」と思い詰めてしまうのは、本当に問題だと思いますね。
子供を思う気持ちが視野を狭くしてしまっているので、そこは親を責めるのではなく、非科学的な話を作ってくる人達に対して、しっかりと指摘をする必要がある。矛先が親たちに向いてはいけないと思います。
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