40男はどんなとき好かれるか──田中俊之 『〈40男〉はなぜ嫌われるか』|レビュアー=西森路代
40代男性俳優の話題は、実はネット上でもけっこう読まれるトピックです。ananでも「大人の男」特集があるくらいだし、40代の俳優が表紙の本もけっこう発売されています。それはなぜかと考えると、今、アラフォーの男性俳優の層が厚くなっていて、魅力的な人がたくさんいるからでしょう。
ところが、著者は40男が「なぜ嫌われるか」を論じているのです。なぜなら、この本は、ananに出ているようなアラフォー俳優と自分を同じだと考えて「こうした特別な男たちに感化されて」はいけないという警告をするための本なのです。
でも、私自身は、せっかくアラフォーの俳優に取材することもあるからこそ、この本とは逆に、〈40男〉はなぜ好かれるかについて考えてみようと思います。
人気のある40男を思い浮かべると、大泉洋さん、西島秀俊さん、竹野内豊さんなどの顔が浮かびます。彼らの共通点は何でしょうか。そもそも、そんなものが存在しているのでしょうか。
昨今、俳優はアラフォーとはいえ常にジャッジされる存在です。雑誌の好きな男ランキングで順位を争ったり、その人気で映画の動員数や視聴率も左右されます。俳優は演技ができればいいじゃないかという意見もあるでしょうが、それだけでは昨今は生き残れなません。好感度が高くないとCMにも出られないし、主演クラスであれば、視聴率がとれたり、観客動員数が見込めたり、おまけに宣伝するときにはトークもできないと、キャスティングもされない世界なのです。
そんな俳優たちが、女性の人気を得るために、恋愛のゴシップがあってはいけないという時代ではありません。特にアラフォーともなると、結婚や恋愛では人気は揺らぐような人ではいけません。それよりも大事なのは、女性ファンをジャッジしない、フラットな目線ではないのかと思うのです。
この本の中では、40男は、「年を重ね、精力が衰えたからこそ、性欲に振り回されなくなった」と書いてあります。ところが、男性週刊誌を見れば、「死ぬまでセックス」をしたいという悲痛な叫びが聞こえてきます。
男性自身からすると、いつまでも性的な存在であることで、女性にも危険な存在だと思ってもらいたいという考えは根強いと思います。『LEON』のちょいワルオヤジや、『MADURO』のやんちゃジジイのことを考えても(どちらも同じ人が考えた言葉ですが)、ちょっとワルであきらめない男がいいという価値観は残っていそうです。でもそれは、50代以上の考え方かもしれません。
時代は変わりました。竹野内豊さんのコーヒーのCMの上司、ヤクルトのCMの大泉洋さん、PanasonicのCMの西島秀俊さんを思い浮かべると、中間管理職だけど、威張ることがなく、むしろ失敗して凹んだりもする姿が共通して描かれています。そして、社内で不倫をしているような危険な雰囲気は一切出ていない。CMだから好感度が高くて当然じゃないかと思うかもしれませんが、かつてならば仕事にも貪欲で、部下の女性にどこか危険な香りを感じさせるキャラクターも描かれていたことを考えると(かつての佐藤浩市さんなどを思い浮かべるとわかりやすいでしょう)、変化しているのだと思います。
著者の田中さんは「冷静に考えてみよう。女性の価値を若さで測り、勝手に自分を追いつめていたのと同じように、年齢を重ねても精力がなければ男でないなどというのは幻想である」と語ります。自分もジャッジされ続けていて、しかも第一線で活躍している俳優たちはこうした空気に知らず知らずに敏感で(それゆえに売れっ子で)、この「幻想」に早めに気づいたり、また映画やCM業界の要請もあって、徐々に変化しているのではないかと思うのです。
書誌: 書 名 〈40男〉はなぜ嫌われるか 著 者 田中俊之 出版社 イースト・プレス 初 版 2015年8月9日
レビュアー:西森路代(にしもり・みちよ)……1972年生まれ。フリーライター。愛媛と東京でのOL生活を経て、アジア系のムックの編集やラジオ「アジアン!プラス」(文化放送)のデイレクター業などに携わる。現在は、日本をはじめ香港、台湾、韓国のエンターテイメント全般や、女性について執筆中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に「女子会2.0」(NHK出版)がある。
レビュアー近況:『天空の蜂』という映画が非常に面白かったのですが、この映画の主要人物は、江口洋介さん(47)、本木雅弘さん(49)が演じています。よって、40になったばかりの俳優の演じる頼りない中間管理職よりも、しっかりしていてちょっと危険な男像として描かれていました。
もっと、ふくほん!
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