まつもとゆきひろ氏がSansan技術顧問に就任。ビジネスSNSへと進化する『Eight』にRubyの父がもたらすものとは?
2015/08/26公開
技術顧問に就任したまつもとゆきひろ氏(中央)とSansan開発陣。まつもと氏の左隣が『Eight』開発責任者の宍倉功一氏
名刺管理アプリ『Eight』などを開発・運営するSansanがこのほど、Ruby開発者まつもとゆきひろ氏を技術顧問に招聘した。まつもと氏は今後、月1回のSkypeミーティングや不定期での同社訪問を通じて、Rubyによる開発やオープンソース的なチーム運営についてアドバイスを行っていくという。
2010年に名刺管理アプリとしてローンチした『Eight』は、現在公開されている最新版からニュースフィード機能を導入するなど、ビジネスSNSへと進化する新たな動きを見せている。『Eight』の開発統括責任者である宍倉功一氏は、このタイミングでまつもと氏を招聘した狙いを次のように話す。
「サービス開始以来『Eight』はRubyで開発してきましたが、優秀なRubyのエンジニアは少なく、開発リソースの確保が一番の課題です。そのため、会社として育成に非常に力を入れてきました。ただ、日々開発に追われる中で、個人としては勉強会などを通じて新たな知見を得られても、それを共有する場がこれまでありませんでした。
新たな技術的挑戦を求められるタイミングでもあり、社員個人の技術力向上という意味でも、チームとしての開発プロセス改善という意味でも、自分たちだけでは気づけない外からの視点が欲しかったんです。その点、Rubyという言語の開発者であり、さまざまな企業で技術顧問を務めているMatzさんに引き受けてもらえたのは、これ以上ないことでした」(宍倉氏)
福岡で開催されたRuby関連のイベントが縁で、今回のオファーを受けたというまつもと氏。すでにVASILYやSpeee、日本エンブレースといった企業で技術顧問を務めてきているが、引き受けるかどうかを決めるにあたり、2つのルールを自らに課しているという。
「1つは、その企業が独自サービスを開発していること。もう1つは、すでに技術顧問として手伝わせてもらっている企業とサービスが競合しないことです。Sansanさんはその両方をクリアしていたので、お断りする理由がありませんでした」(まつもと氏)
企業の「OSS的開発スタイル」導入が増えていることも背景に
また、自身が技術顧問を務めることの意義については次のように位置付けている。
「開発者としての私のキャリアはもう20年以上になりますが、ずっとオープンソースのプロジェクトやコミュニティづくりばかりやってきて、実務経験がほぼないというのは非常に特殊。ビジネス的なアドバイスとしてできることは限られますが、そうしたキャリアだからこそ提供できる視点もあるのではないかと思っています。
企業の中で開発するのと、オープンソースで開発するのとでは、文化のようなものが大きく違います。ただ、主にGitHubの影響だと思いますが、ここ数年で、企業の中でありながらオープンソース的な文化の下に開発する例が増えてきているように見えます。その点で、失敗も含めて過去の経験に基づいたお話ができればと思っています」(まつもと氏)
7月に行われた初回のSkypeミーティングでは、技術的な話題からまつもと氏のプライベートの話題まで、さまざまな質問が参加者から寄せられたという。まつもと氏が初めてオフィスを訪れた8月の会合には、普段Ruby以外の言語で開発している他部署からの参加もあった。
1回目のSkypeミーティングの様子。技術的なものからプライベートにまつわるものまで、さまざまな質問が飛び交ったという
「当たり前のことですが、Matzさんと直接話せるということで、エンジニアのモチベーションはかなり上がっています。Skypeミーティングの際も何人かは緊張し過ぎていたくらい。実は僕自身も、『Eight』を立ち上げた直後にMatzさんからアドバイスをもらって、非常に感激したという経験があるんです」(宍倉氏)
こうした歓待を受けてまつもと氏自身も「月に1回Matzと話せる会社、という感じで福利厚生のように扱ってもらって結構ですよ(笑)。私自身としても、自分が作った言語が実際の開発現場でどう使われているのかを見ることで、Rubyの改善の余地など新たな発見があったら、なお良いですね」と話している。
ちなみにSansanではまつもと氏のケースと同様に、iOS開発においてはiOS/OS Xアプリケーション開発者の岸川克己氏、堤修一氏、Android開発においてはウフィカ代表取締役のあんざいゆきさん、同取締役の山﨑誠氏と、それぞれの技術分野で先駆的に活躍してきた技術者を外部顧問に迎えている。
外の視点を取り入れ、ビジネス的にも技術的にも大きくステップアップしようとしている同社の今後の動きを注視したい。
取材/伊藤健吾 文/鈴木陸夫(ともに編集部) 写真提供/Sansan
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