日経ビジネス8月24日号では特集「究極のダイバーシティー LGBT」を掲載した。LGBT(性的マイノリティー)に対する理解を深めることは、訪日外国人の数を2000万人に引き上げるとの国家目標を掲げる日本にとって喫緊の課題だ。
2020年にはオリンピック・パラリンピックが東京で開催される。実は昨年、五輪憲章に「性的指向による差別禁止」が盛り込まれることが決まった。社会全体でLGBTに対する知識を深め、当たり前の存在として扱うのは国際的にみてもはや常識。我々は、海外からの顧客を、きちんともてなせるのだろうか。特集連動、第3回目は、使命感を持って動き始めた地域の声を紹介する。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、会場となる「新国立競技場」の建設費用が問題となり、全面的に計画の見直しを迫られている。巨額の資金を投じて整備する以上この問題が重要なのはもちろんだが、それ以上に世界のアスリートや五輪関係者が注目しているのが、日本のLGBT対応だ。
「オリンピック憲章に性的指向による差別禁止を盛り込む」。
2014年12月、国際オリンピック委員会は総会でこう決議した。これにより、LGBTを差別する国はホスト国として失格の烙印を押されることになる。東京五輪でも対応は不可欠だ。
2012年に開催されたロンドン五輪。LGBT支援の姿勢を積極的に打ち出し、開会式・閉会式に当事者のアーティストが多数参加。選手村の宿泊施設やトイレにも配慮し、当事者のアスリートやファンが気軽に集まり交流を深められる施設も設けた。特定非営利活動法人(NPO)「虹色ダイバーシティ」の代表で世界のLGBT対応に詳しい村木真紀氏は「こうした取り組みにより、元々LGBT支援に積極的だったロンドンは国際的な評価をさらに高めることにつながった」と語る。
欧州や米国で支援や法整備が進む中、2013年にロシアが同性愛宣伝禁止法を制定した際には世界規模で抗議行動が広がり、2014年のソチ五輪のボイコット騒動へと波及した。
東京五輪は、どのような大会になるのか。都全体としてLGBTへの積極的な支援策を打ち出す動きは、今のところ見えてこない。人権問題を所管する都総務局は「性的マイノリティーへの配慮はもちろん重要だが、今は他の自治体の事例を調査したり、基本指針として盛り込む準備を進めたりしている段階」と説明する。
年間に訪れる欧米からの宿泊者のうち約1割がLGBTというホテルグランヴィア京都(京都市)。今でこそLGBT対応に先進的な企業として旅行業界では有名だが、かつては失敗もあった。例えば、ゲイのカップルがダブルで部屋を予約した際に、気を利かせたつもりでツインへの変更を勧めたり、LGBTに無理解な飲食店などを紹介したりといった具合だ。ロシアのように目に見える差別でなくとも、当事者を傷つけ、評価を下げるケースは多い。それは五輪の運営面でも同様だ。
実はLGBTコミュニティーの中で、東京の評判はそれほど芳しいものではない。2010年には当時の石原慎太郎都知事が「(同性愛者は)どこかやっぱり足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう」などと発言し、2014年に日本弁護士連合会が人権侵害であるとして警告を発した。「行政トップの無理解は、LGBTが人権問題であるという認知の妨げになった」とあるLGBT当事者は指摘する。
「日本のLGBT対応が遅れている」という国際的な評価を改めるキッカケになるのは、国や都よりも小さい自治体かもしれない。
東京都渋谷区は、同性カップルへの「パートナーシップ証明書」の発行を10月にも始める。大阪市淀川区など先行する自治体には「LGBT支援は人権問題として当たり前に取り組むべき施策」との共通認識がある。東京五輪を控え、訪日観光客の増加が確実視される中で、都市の魅力を高め、競争力に直結する重要なテーマでもある。