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その他スポーツコラム
最後まで行こうと思えば行けた。しかし「本番」のリオのために、表情をゆがめながらも鈴木雄介はリタイアを決断した。その無念はいかほどか。
photograph by AFLO
世界陸上PRESS

「取材に時間をあてすぎた」
競歩・鈴木雄介が抱えた自覚と葛藤。

宝田将志 = 文

text by Shoji Takarada

photograph by AFLO

 世界選手権男子20km競歩で、スペインのミゲル・アンヘル・ロペスが優勝を決めてから約1時間後、鈴木雄介(富士通)は日本の記者たちに囲まれていた。

 すでにユニフォームを脱ぎ、Tシャツ姿になっている。場所はゴール地点となった北京国家体育場、通称“鳥の巣”の客席後方のスペースである。

「みなさんに期待してもらった中で、こういう結果で不甲斐ない」

 途中棄権した鈴木は、集まった記者全員が聞き取れるような毅然とした口調で話し始めた。

 通常、国際大会では報道取材はミックスゾーンに限られる。異例の囲み取材を受け入れたのは、彼の「自覚」だった。

 男子競歩は、今や日本の主軸種目になりつつある。日本陸連が世界選手権で掲げた「メダル2、入賞6」の目標も、競歩陣の活躍なくしては難しい。その中心に鈴木はいた。

 3月に石川・能美で行われた全日本競歩で、1時間16分36秒の世界記録を樹立。北京の世界選手権では優勝候補の1人だった。

大会直前、生命線の股関節に発覚した“緊急事態”。

“緊急事態”が広く知れ渡ったのは開幕直前の18日。日本を発つ鈴木が羽田空港で、恥骨に炎症があることを自ら明らかにしてからだ。つまり股関節に痛みがあるのだという。

 競歩は両足が同時に路面から離れてはならず、かつ前脚は接地の瞬間から垂直の位置になるまでまっすぐ伸びていなければならない。足の運びが生命線の種目において、股関節のトラブルは致命的と言えた。

 本人によれば、大会前の練習は質量とも想定していた「6割ほど」しかできず、しかも、目安である1km4分のペースどころか、5分に上げると痛みを感じるほどだった。

 所属先でも日本代表でも鈴木を指導する日本陸連の今村文男競歩部長は、「恥骨周辺に負担が掛からない動きがある」と練習からフォームに細心の注意を払ったと説明する。

 陸上選手は誰でも動きの軸になる脚がある。鈴木の場合、それは左だ。左を軸足にして歩くと、どうしても顔が右を向き、右腕は内側に入りがちになる。その体のわずかな「ひねり」が故障箇所にダメージを与えないよう、修正しながらのトレーニングとなった。

【次ページ】 「来年のリオが本番なんできっぱりやめた方がいいかなと」

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