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【社説】

イスラム国対策 人に寄り添う目配りも

 米軍が過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆に踏み切り一年が過ぎたが、壊滅のめどは立っていない。戦闘員に走る可能性もある若者のケアや難民支援など、人に寄り添う対策も考えたい。

 米軍主導有志国連合によるイラク、シリアのIS拠点空爆は一年で六千回に達し、ISはイラク支配地域の約30%を失ったという。

 ISは反転攻勢し、シリア中部パルミラなどを制圧。世界遺産に指定された古代遺跡群がすでに一部、破壊されたとも報じられている。

 残虐な殺傷も続けている。八月には、エジプトで拉致したクロアチア人を殺害する画像を公開。バグダッドで七十六人が犠牲になった爆弾テロの犯行声明を出した。

 米国はイラク兵らを訓練して地上戦を担わせる方針だが、人数は予定を大幅に下回っている。

 一方で、対IS包囲網は広がっている。トルコはISによるとみられるテロをきっかけに自国基地をIS空爆に使用することを認め、直接、空爆にも踏み切った。

 しかし、空爆など武力だけでISを壊滅させることは困難だ。

 IS戦闘員は中東や欧州などから流入が続き、一年前の二万〜三万人規模を維持しているという。

 英研究機関は欧米からシリアやイラクに渡航した女性は五百五十人以上に上ると推計。ニューヨーク・タイムズ紙は、英国人女生徒グループについて家族らへの取材をもとに経緯を報じた。一人が母親の病死後まもなく父親が再婚したのにショックを受けてシリアに渡ったのをきっかけに、次々とISに傾倒。少女らは賢明で人望があり感受性豊かだったという。

 少女らは現地で、欧米などから来た外国人戦闘員と結婚。メールでやりとりした家族らによると、停電や物不足に苦労しながらも、ISに加わったことは後悔せず、教条主義的な言葉遣いは以前とは別人のようだという。

 もろさも抱える思春期の若者らがISに走らないよう、各家庭や地域で意思の疎通を絶やさず、悩みに耳を傾けたい。

 国連難民高等弁務官事務所によると、IS台頭で内戦が激化するシリアから国外に逃れた難民は四百万人を超え、国内にも約七百六十万人の避難民がいるという。支援物資やシェルターなどのための費用として約五十五億ドル(約六千七百六十億円)が必要だと訴え、寄付を呼び掛けている。治安悪化で現地での援助は難しいが、一人一人ができる人道支援はあるはずだ。

 

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