長崎原爆の日:安保、真摯な議論を…「平和理念揺らぐ」

毎日新聞 2015年08月09日 21時18分(最終更新 08月09日 22時27分)

田上富久・長崎市長の長崎平和宣言の後、空に放たれた鳩=長崎市の平和公園で2015年8月9日午前11時11分、津村豊和撮影
田上富久・長崎市長の長崎平和宣言の後、空に放たれた鳩=長崎市の平和公園で2015年8月9日午前11時11分、津村豊和撮影

 長崎は9日、米軍が原爆を投下してから70年の「原爆の日」を迎え、長崎市の平和公園で平和祈念式典が開かれた。田上富久市長は平和宣言で、国会で審議が進む安全保障関連法案に言及し、政府と国会に「慎重で真摯(しんし)な審議」を求めた。一方、安倍晋三首相は、広島の式典で触れなかった非核三原則について「堅持する」と述べた。

 式典には被爆者や遺族ら約6800人が出席。過去最多となる75カ国の代表も出席し、米国からはガテマラー国務次官が政府高官として初参列した。出席者は原爆投下時刻の午前11時2分から1分間、黙とうをささげた。

 田上市長は、平和宣言で「日本国憲法における平和の理念は、つらく厳しい経験と戦争の反省の中から生まれ、長崎にとっても、日本にとっても、永久に変えてはならない原点」と強調。被爆体験だけでなく、空襲や沖縄戦、アジアの人々を苦しめた戦争の記憶を語り継ぐよう訴えた。安保関連法案については「70年前に心に刻んだ誓いが、今揺らいでいるのではないかという不安と懸念が広がっている」と指摘した。

 また、各国首脳に被爆地訪問を呼びかけ、日本政府には核抑止力に頼らない安全保障の検討や被爆者援護の充実、被爆者健康手帳が取得できる被爆地域の拡大を求めた。

 被爆者代表の谷口稜曄(すみてる)さん(86)も「平和への誓い」で安保関連法案に反対し「被爆者をはじめ平和を願う多くの人々が積み上げてきた核兵器廃絶の運動、思いを根底から覆すもので、許すことはできない」と語った。

 式典では、この1年間で死亡が確認された原爆死没者3373人の名前が書かれた原爆死没者名簿4冊が奉納された。奉納された死没者総数は16万8767人になった。被爆者健康手帳所持者は全国で18万3519人(3月末現在)。平均年齢は80.13歳。【樋口岳大】

最新写真特集