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魔法使いの授業の仕方(1)
慣れと言うのは一種のコツだ。どの様な行為だって始めては拙い物で、慣れる事で上手くやって行ける。そしてそれがちょっとした壁を越えた時にそれをコツと呼ぶ。才能が有る人物などは、慣れがコツへと変わる瞬間が、人より早く訪れるのだろう。
料理や運動、魔法だって同じ事が言える。魔法使い見習いのクルトは、最近そう思う様になった。
「結局、魔法の学び方や使用方法に都会での生活の仕方まで、いかに慣れて行くかが重要だと思うんですよ」
自身の師であるオーゼの研究室で、その主に話をするクルト。
「先生が滅多に大学内に居ないのも、魔法を漸く使える様になった身ながら、殆どを自習で学ばなければならないのも、まあ、慣れればどうって事は無いんでしょう」
クルトの話を聞くオーゼと言えば、研究室の机に座って頬を掻いていた。この場に居辛いのだろう。
そんな事はクルトだって分かっている。むしろ、それぐらい思ってくれなければ意味が無い。
「問題は、どうやって学べば良いかが分からないって事です! この前、図書館で必死に自習を繰り返して、漸く指先からマッチ一本程度の火が出せる様になりましてね? それで喜んでいたら、同じ時期に大学へ入った生徒が、もう火の魔法を習っているのかって驚かれたんですよ」
「ほう、つまり君は才能があると言う事かね?」
クルトも最初はそう思った。そうであればどんなに良かったか。
「詳しく聞いてみると、彼はまだ魔力で光を出す訓練をしていると話してくれましてね。なんでも魔力は放出する時、光を放つらしいです。そしてその光を制御する事が、魔法を使う上で、最初に学ばなければならない基礎だとの事でした」
そしてそれが出来れば、他の魔法への派生も容易になり、小さな火や氷などを、少し学んだ程度で発生させる事が出来る様になるそうだ。クルトは魔法を使える様になってから、つい最近まで、ずっと小さな火を出すために勉強してきて、やっと使える様になったと言うのに。
「もの凄く非効率的な勉強法をして来たって事ですよ!」
師が座る机を両手で叩く。手のひらが痛くなるが、頭に血が登っているせいか、あまり気にはならなかった。
「うーむ。確かに、最初は光を出す訓練をして置けと話すべきだったかの?」
困った顔をこちらに向けて話すオーゼ。今更言われても仕方無い話だが。
「今はその光を制御する勉強をしてます。一からなんで、遅れを取り戻すのに必死ですけれど」
他の生徒は既にその訓練を終えている。クルトがやっと出来た火を出す魔法も、既に使える生徒が居るそうだ。一方で、クルトの勉強はまだまだ終わりそうにない。
「そりゃあ先生の研究は、大学外での作業が殆どだって言うのは分かりますよ? けれど、こっちだって自習のみの勉強には限界があるんです」
「しかし危険が多い作業に、素人魔法使いであるおぬしを連れて行くことなど、それこそ無理な話じゃ」
オーゼは大学外で、魔法知識の回収をもっぱら仕事と研究にしている。それはかなりの部分で危険が伴い、クルト自身、厄介事に巻き込まれた事があった。それでもその際の仕事は、まだ危険性が少ない仕事であったのにも関わらずである。
「それは僕も分かってます。だから、なんとかならないかって、珍しく大学内に居る先生に聞いてるんじゃないですか」
これでも怒りをぶつけるのは、オーゼ教師が大学に戻るまで我慢して居たのだ。これくらい怒鳴り付けても別に構わないと考える。
「なるほどのう。まあ、責任は感じないでも無い訳で、それにわしはおぬしの教師じゃから、無下にする事もできん」
顎を手で摩るオーゼ。普通、教師が悩むのは、生徒の意欲が無い時であって、生徒が学びたいと申し出ているのに、困った顔をするのはどうだろうか。
「専門的な事を聞くので無い訳じゃな? ただ、今後の勉強の方針を教えて欲しいと」
「そうですね。自習する事と講義が少ない事の二つには、もう慣れてきましたから」
教師の講義と課題にてんてこ舞いになっている同級生とは偉い違いだと感じながらも、それを無視して図書館に籠る事に抵抗は既に無い。
「ならば、生徒組合に相談してみると良い。あそこは、そう言った生徒独自の悩みを解決する窓口があったはずじゃ」
オーゼが口に出した生徒組合。それはクルトも知っていた。それは文字通り、魔法大学の生徒達が共同で作り出した組織である。
「生徒間の情報交流や、否応に立場が強くなる教師への対応だったりを、生徒達が揃って対応するための組織でしたっけ」
基本的に魔法大学の生徒は、生徒組合への参加が強制されている。そもそも生徒組合自体、魔法大学と言う機構の一部になっているからだ。
「そう言えば、参加用の書類を出して以来、一切関わって居ませんでしたけれど、魔法研究に関する相談もしてくれるんですか?」
「基本的な物だけじゃがな。特定の生徒に対して、わざと間違った教え方をする教師も居るには居るからのう。それを生徒同士の教え合いで解決しようと言う事らしい」
一応、自分も教師から間違った教えを受けていると言うか、むしろ教えて貰えない状況が続いているので、頼ってみるのも有りだろうか。
「生徒組合ですか……」
生徒組合の宿舎は魔法大学敷地内の端に有る。生徒の自治と独立を促進するため、出来る限り魔法大学の中心から離してあると言われているが、単に空いた土地がそこだけしか無かったのではないかとクルトは睨んでいる。
「だからって、必要じゃない訳でもないんだろうけど」
生徒組合の宿舎をクルトは見上げる。年期を感じるが、まだ建屋はしっかりとしており、大きさだって一般的な一軒家よりは一回り大きいだろう。
「ここが生徒の地位を支えている場所だって言うのなら、それでも頼りないのかな」
まあ、自分が悩んでいる事に対して相談に乗ってくれると言うのなら、別に構わない。
「失礼しまーす」
扉を開けると、備え付けられたベルが鳴る。内装は玄関のすぐそばに事務用のカウンターがあり、奥に別の部屋へと続くドアがある。大凡のやりとりは、玄関で行っているのかもしれない。
「はいはーい。今行きますよー」
ドアの奥から声が聞こえて来た。間延びした女性の声だ。ドアが開き姿を見せた彼女は、声が現す通りおっとりした外見であり、穏やかな微笑みを顔に浮かべていた。
「こんにちは、学生のひとですよねー。どのようなご用事でしょうか?」
恐らくはクルトより年齢は上なのだろうが、どうにも間の抜けた喋り方と、幼さの残る童顔のせいで、自分より子供に見えてしまう。
要するに頼りないって事だ。
「えっと、魔法大学生徒のクルトと言います。ちょっと勉強に関して悩んでいて、自習の手助けとかもしてくれるって聞いているんだけど」
組合の事務員らしく彼女に悩みを話す。基本的に、学生の悩みを解決するのが生徒組合の業務だ。魔法を上達させるための悩みから、食堂のメニューを増やして欲しいと言う注文まで。
噂に聞く限り、前者よりも後者の方で役に立っているそうな。
「クルトさんですね。お勉強のお悩みですか? あ、もしかして、先生とそりが合わないとか、いじめられているとか言った話でしょう。よくあるんですよね、性格の不一致や研究する物の相違で、まんぞくに魔法を学べないとおっしゃる学生さんが」
どうやら、教師からの教えに不満を持っている人物は多いらしい。勉強に悩んでいると言う一言で、こっちの事情が分かってしまうくらいには。
「先生があんまり大学内に居ないんだよ。本人の研究のためだろうし、その内容に惹かれて教室に入ったから文句は言えない立場ってのはわかるけど、どうにかならないものかと思って」
藁にもすがる思いと言う奴だ。ただ、その藁を紹介したのは、自分をそんな状況に立たせているオーゼだが。
「うーん。ほかの教室に授業をたのんだり、大学内の友人と共同研究をすると言う方法がまずありますけれど……」
「最近大学に入ったばかりの生徒にそれを提案するのは、少し無茶な気がするけど」
「ですよねぇ。教師にも生徒にも、あんまり繋がりの無いのが新入生ですから」
困ったと言う顔をする事務員の女性。言わせて貰うなら、困っているのはこちらだ。
「わたしもこの大学の学生なんですけれど、入った教室の先生から、お前は魔法を習う事が苦手みたいだから、教室を出てはどうだって提案されまして、今、組合の事務をしているんです」
「はい!?」
いきなり凄い言葉が飛びだしたので、つい声を上げた。つまり目の前の彼女は、どこの教室にも属していない魔法大学生徒である。いったいどの様に学んで来たのだろうか。考えたくない事であるが、一切、魔法について学んでいないなんて事も有り得る。
「まさかと思うけど……。事務員さんはどれくらい魔法を使える?」
「ルーナで良いですよー。それにしても魔法ですかあ。教室を出てから、あんまり勉強もしてませんでしたからねぇ」
事務員ことルーナは、魔法大学の生徒でありながら、魔法が不得手であるらしい。正直、相談する相手を間違えた。
「あー、なんだか用事を思い出した様な気がしないでもないので、ちょっと失礼しても良いかな?」
有り体に言えば役に立たちそうにないから、他の伝手を探そうと考えた。それを直接言わないのは、クルトなりの優しさなのだ。
「ちょ、ちょっと待ってください! まだ、わたしは何もやってないじゃないですかー。話を聞いてくださいよー。勉強にお悩みがあるのなら、良い案があるんです」
追い縋る様にクルトの服を掴むルーナ。カウンター越しなので、ルーナの姿勢は非常に滑稽だ。少しでもクルトが体を引けば、そのまま突っ伏してしまう事だろう。
「良い案って、勉強が出来る人でも紹介してくれるの?」
「そのー、今の生徒組合は、前代未聞の人手不足でして……。いえ、仕事をしている事務員がわたしだけと言う訳でもないんですよ? けれど、生徒相手に直接対応というのは仕事量が多くて、あんまりみんな遣りたがらないんですよねえ」
「生徒組合の事務員だって生徒だからね。そりゃあ、組合の仕事より、自分の勉強を重要視するだろうさ」
「そうなんですよー。だから、この宿舎もわたし専用の場所になっているみたいで。なんだか、得しちゃってますね」
厄介事を全部押し付けられているとも見えるが、本人が幸運な事だと思っているなら、別段、文句を言う様な事では無い。それより話を先に進める事にする。
「結局、僕はどうすれば良いのかな? 振り返って、あの扉を開けるとか」
「あの扉は玄関じゃないですかー。勝手に帰らないでくださいよー。良い案というのはですね……」
勿体ぶった風に言葉を溜めた後、ルーナは口を開く。
「わたしがクルトさんに勉強を教えるんです! これでもわたし、魔法大学に入って3年になりますから、クルトさんに教えられるくらいには知識があります」
自信満々に答える彼女を見て、不安を感じないと言えば嘘になるだろうとクルトは考えていた。
いくら不満を持っていたとしても、選択肢が増える状況はなかなか訪れない。そもそも選ぶ段階が既に過ぎており、後はその道を進むしかないとなれば尚更だ。
「それじゃあ講義を始めますよー。なんだかこれって楽しそうですよねー」
クルトが所属する教室。つまり師であるオーゼに宛がわれた部屋の教壇に、ルーナは立っていた。
クルトの自習を手伝おうと意気込むルーナを止める事ができず、今はここに居る。教室に属しているのはオーゼ本人と、唯一の生徒であるクルトのみなので、この二人が文句を言わない限り、ルーナの行動は止まらない。
無責任にも再び大学外の仕事にオーゼは出ている。となると、止める役目はクルトなのだが、そもそも手助けを頼んだのは彼自身である。一体、どの様に止めれば良いと言うのか。
「楽しんでないで、できれば自習を手伝って欲しいんだけど……」
ルーナは講義を始めると言うが、魔法大学の一生徒である。勉強を手伝うと言えども、それは自身の勉強法や参考図書の紹介などだろう。まさか、講義をするなんて想定外であった。
「ふふーん。これでも、授業内容を覚えるのは得意だったんです。きっと、面白い講義ができると思いますよー」
「魔法を習うのは苦手なのに?」
「うう……。それは言わないでくださいよー。でもでも、人に物を教える才能はあるかもしれませんよ?」
習う事が苦手なのに、教える才能があると良くも言える物だ。
「それじゃあ、とりあえず初めてみてよ。終わった後に、遠慮しないで感想を話すつもりだからさ」
「お、お手柔らかにたのみますね?」
生徒と教師が居るのだとしたら、それは生徒側が言うべき言葉だろうに。
「まず、クルトさんはどこまで魔法について知っていますか? 魔力自体は感じる事ができています?」
「うん。この前、間違って火の魔法を自習してたんだけど、一応、使える様にもなった」
人差し指を一本立てて、その先から火を出す。これくらいは出せる様になったが、使うにはかなりの注意力が必要であり、額に汗がにじむ。火力だって、経験相応に小さいのだ。
「光を出す魔法は習っていないんでしたよねー」
「まあね、うん。光を出す訓練がちゃんと終われば、他の魔法も使いやすくなるって聞いた時は、どうしようかとも思ったけど」
手に持った参考書を破こうとしたが、借り物であった事を思い出し、寸でのところで手を止めるくらいには冷静ではあったと思う。
「そんなクルトくんに聞きますがー。どうして光を出す魔法を先に習った方が、他の魔法の上達にもつながるんだと思います?」
「それは……。なんでだろ。アレかな、光の魔法の使い方が、他の魔法にも共通する物があるとか」
「ざんねんはずれでーす。実は光の魔法は、光の魔法であって光の魔法では無いのです」
なぞなぞでも仕掛けてきているのだろうか。目に映る物を信じるな、心の目で見ろとかそんな感じ。
「実際に、魔法で光を出してみれば一番わかりやすいんですけど、まだできないんでしたよね?」
「うーん。そもそも、図書館でその魔法について載っている本が無かったんだよね。だから、できるできない以前に使い方を知らない」
それ自体、不思議に思った。周囲に聞く限り光を放つ魔法は基礎中の基礎であり、その基礎が載った本が無いと言うのは可笑しな話だ。
「たぶん、調べ方が悪かったんだと思いますよ? 光を放つ魔法と聞いて、少し凝った魔法だと考えたんでしょう。だから調べる本棚も、火だとか氷だとかを出す魔法ばかりが詰まった場所を探してたんじゃないですか?」
「なんでわかるの?」
図星であった。最初に火を使う魔法を勉強していた事もあって、その近くばかりを探していたと言うのもある。
「うふふ。同じようにつまずく人が多いんですよねー。先生から、光を発生させる魔法を覚えてこいって言われて、参考資料が見つかりませんなんて状況になっちゃうんです」
それはもしや実体験では無かろうかと疑うクルト。だが今のところ、講義は意外に順調な進行で進んでいるので、口に出す事はしない。
「実はちゃんと図書館に資料はあるってこと? おっかしいなあ、一通り表紙くらいは見たけど、それらしい物はなかった様な」
「じゃあ、魔力の生成とその発生方法って書いた本は見たことがありましたか?」
「ああ、見た見た。仰々しいタイトルなのに、えらく薄い本だったのを覚えてるよ。もしかして、その本に載っていた?」
だとするなら、完全なこちらの見落としである。
「でも、光の魔法について書かれている本なら普通にそう書いてくれれば良いのに」
作者は題名に権威でも付けようとしたんだろうか。
「光の魔法について書かれていないんですから、当然、題名に書かれる事なんてありませんよー」
「って、ちょっと何言ってるの!? 普通、今の話の展開を聞けば、その本に光の魔法が載ってるって思うじゃん!」
まさかこの間抜けな女性におちょくられるとは思ってもみなかった。さすがにここは怒って置くべきだろうか。本気で迷う。
「落ち着いてくださいよー。本がクルトさんの勉強に役立つのは確かなんです。そしてなんと、ここにその本が!」
どこに隠していたのか、題名に『魔力の生成とその発生方法』と書かれた本を取り出す。濃緑色のカバーはどこか重厚感を覚えさせられるが、やはり本自体は薄い。
「ふーん。著者はルクセイ・ジンオウ・エイサン。姓が二つって事は貴族か……」
マジクト国では、姓を持つ者は特別な役職について居る事が常である。そして姓が一つの場合は行政の官僚関係、二つあれば貴族であると区別できる。
「元々は武門の家系で、そのことから魔法研究にも手を出したらしいですよー。この本を書いたのは今から何代か前の当主らしいんですが、今でも魔法研究の教本として使われています。初心者魔法使い向けの基礎が書かれているのが理由でしょうねー」
魔法を武力と考えて居た者が書いたと言う事だ。もしかしたら研究の成果と言うより、魔法使い育成のための本なのかもしれない。
「ちょっと内容に興味が湧いて来たかも。読者対象がまさしく僕みたいな奴だし」
「ですねー。ちゃんとした先生なら、呼んでおくべき教本の一つに、必ず上げる物なんですが……」
残念ながらクルトの師はちゃんとした先生では無い。今も大学外で思う様に生きているのだろうさ。
気持ちが落ち込むクルトの姿は外から見ても分かったらしく、慌てて話を戻すルーナ。
「そ、それでですねー。ここに、クルトさんが望む研究内容が載っています」
薄い本のさらに1頁目に近いところをルーナはクルトに見せた。
「魔力の無変換出力? いちいち火に変えたり、変節させて魔法陣にしたりせず魔法を使うってことだよね」
まあ要するに魔力を感知できる様になれば誰でもできる魔法だと言える。できたところで何かが起こる訳でも無く魔法と言えるのかどうかも怪しい。
「ぶっちゃけそうですよねー。でも、誰でもできるから基礎なんですよー。それに、この無変換出力を一定以上の魔力を込めて行う事を光の魔法と呼ぶ場合もあるから、無視なんてできません」
「へえ、光の魔法ねえ。あれ? じゃあ、魔法使いが最初に学ぶべき魔法って、それのこと?」
一般的に光の魔法と言う時もあるからそれを皆そうと呼ぶが、正確には違う魔法なので図書館に蔵書されている本にはその記述が無いと言う事だ。つまりクルトは調べるべき内容を間違っていた訳だ。
「魔力とは言ってみればエネルギーです。ただ自然界に存在する力ではないから、すぐに別の力に変換されちゃいます。それを調整することで色々な変化を起こす事を魔法と言うんですねー。では調整せずに居れば魔力が何になるかと言えば、可視光線となって散っちゃいます。他人から見れば、まるで魔法で光を発した様にも見えるんでしょう」
だから光の魔法と言うのだろう。そして何故、光の魔法が真っ先に学ばなければならない魔法なのかも理由がわかる。
「自分の魔力出力を上げるためなんだ。無変換で魔力を出した事は僕にもあるけど、目に見える形で何かが起こった事は無い。つまり、まだまだ訓練して出力を上げる必要がある」
どれくらい上げなければならないかについての基準。魔力が光を発する様になるのがそれだ。
「その事を、門を広げるって表現します。当然、魔力の出力量には個人差があって、才能がある人やそうで無い人がいるんですけれど、光が出せるくらいの事は、どんな才能の無い人でもできちゃいます。できないなら、それは単に訓練不足ですねー」
そして訓練が足りないクルトが居る。まあ大学生活は始まったばかりであり、取り返しならまだまだつくだろう。
「それじゃあ僕が火の魔法の研究してたのって、使うべき魔力量が少ない状態で、無駄に工夫を繰り返してたって事?」
「少ない魔力で魔法を使うのは、それだけ効率良く魔力を変換しなきゃですから、無駄ってことはないですけどー。もしかしたらクルトくんは、魔力の燃費が良かったり、変換技術が他人より秀でている可能性も無いことは無いですしー」
どうにも言葉を濁している様な。もしかして、無駄な努力であると話すことを避けているのかも。
「とにかく魔法の勉強をする上で、真っ先に使える魔力量を増やさなきゃならないって事はわかったよ。そして次に問題になるのは、どうやって訓練すれば良いかだ」
思いつくのは、全力で走る事を繰り返して体力をつける様に、魔法を使い続けて使える魔力量を上げる様な訓練方法であるが、それが効率の良い事なのかがわからない。また遣り方を間違えて勉強が遅れるのは避けたい話だった。
「例えば自分が使える魔力量の限界ギリギリまで使うと、魔力量が増大すると言う話は良く聞きますねー」
自分が頭の中で思い浮かべた物と似たような発言がルーナより出る。
「当然、そんな無茶をするなら反動は有ったりするんでしょ?」
体力と魔力は良く似ている。体力を使って何かをすれば、それ相応に体に疲労が溜まるし、魔力を使えば精神がすり減る。主な症状としては、眠くなったり気分が悪くなるなどだ。
「なにせ限界までですからねー。下手をすれば、そのまま意識を失って寝たきりになることも……」
「基礎的な訓練で、今後の人生を賭けるのは避けたいんだけども」
それにあまり効率の良い訓練だとも思えない。体に極端な負担を掛けて体力をつける訓練が実は得る物が少ない様に、魔力も使った分だけ増えて行くなどと都合の良い物ではあるまい。
「じゃあ、昔わたしがした訓練方法を試してみますか?」
「まあ、別の方法があるならそっちを選びたいね」
それなら教室より外が良いとの話になり教室を出ることとなった。座学の次は実学の番だとばかりに張り切るルーナを見ると、まるで彼女が本当の教師に見えてくる。案外、彼女は教師の才能があるのかもしれない。
知識と経験が伴えばの話ではあったが。
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