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慟哭
第一章
愚者の日々
何分たっただろう。
時間の経過が感じられない。
自分のいる赤い壁の部屋には時計がなく、今が何時何分かもわからない。
空腹で頭が回らない。
それもそのはず、ミーナとザミルが部屋から出て以降、誰も部屋には来ず、今についての情報はなちも貰えず、自分か空腹状態であることしかわからないからである。
逃げ切れていれば妻と子供が迎えてくれていたのに、そんな願望が頭の中をよぎった時、ドアが開いた。
バッと頭を前に向けるとミーナとザミルの他にも数人の男や女が、自分のいる赤い壁の部屋に入ってきた。
「ヤッホー。生きてるおじさん?」
ミーナが軽い口調でこちらの無事を確認する。頭を縦に振ると、ミーナは隣に立っている少年に耳打ちをする。
その少年はミーナよりもニ十センチ程身長の高く、金髪と中性的な風貌が特徴的だった。
「店の代金、踏み倒したそうだな」
「えっ!!?」
確かに、娼婦を抱いて金がないので払わず逃げた。明らかに、踏み倒している。冷や汗が滝のように出てくる。
「とりあえず、金は払えるか?」
財布が無いのだから払いようがない。首を横に降ることしかできない。
少年は、溜息をつき。残念そうにしている。
「おまえが行った店はな、傭兵団〈レクイエム〉の経営店なんだよ。つまり、てめぇはウチの店で代金踏み倒したんだよ。アンタもスラムに住んでんならこの意味解るよな?」
男の顔に驚愕の表情が張り付く。
「エドワード団長の命令でね、踏み倒しは代金払えば許すらしいけど、代金払えるのなら最初から踏み倒さないよね、っていう話なんだよ。だから、アンタには死んでもらうよ。ウチがここを収めるにもメンツってものがあるからさ」
少年の言葉は、事実上の死刑宣告、男は苦し紛れではあるがこれだけは言っておきたかった。
「頼む、妻と子供達だけは見逃してくれ」
「あぁ、嫁さんと娘は娼婦に息子は男娼になったから気にしなくてもいいよ。まぁ、性病持ちが山ほどくる安宿たけどね。こっちは、あんたが金を払えるなんて思ってないから」
男は激昂し、その怒りをぶつけようとしたが、そこで意識が途切れる。
いつの間にか抜刀していたミーナに首を断ち切られていたからである。ミーナの顔は始めて男と会った時と変わらず笑顔だった。
「ねぇ団長、今日の晩御飯なーに?」
ミーナがそう聞いたのは、さっきまで男と話していた金髪の少年だった。
「ミーナは頑張ったから、ハンバーグだよ」
ミーナは小躍りを始める程喜んでいる。
金髪の少年はエドワード、傭兵団〈レクイエム〉の首領であった。
「帰るぞ〜。」
エドワードがそう言うと、赤い壁の部屋にいた仲間達は、ゾロゾロと出て行った。エドワードが外に出ると雨が降り始めていた。
〈ミルアティー王国〉、その国は大陸の中央に存在する国であり、その周りを囲むように二つの大国にサンドイッチされている。
北の軍事国家〈ラリオトリス〉。
南の豊穣国(ゼミラ〉の二つの大国は〈ミルアティー〉に攻め入ることはない。
それは非合法の奴隷取引により、表では敵対としながらも、裏ではとんでもないほど密着している。
それがこの三国の関係性である。
しかし、〈ミルアティー〉は国として、平民と貴族を極端なまでに差別する。
大貴族や王族が暮らし、政治の中心地である中央区。
市民や商人などが生活する市街区。
犯罪者や国の汚点となる者達が送り込まれるスラム。
この三つに別れた国は、それぞれの地区を区切る高い高い壁が存在する。
それにより、〈ミルアティー〉の人間は生まれついての選民意識を、植え付けられる。
それがこの国の汚点である。
エリス・ラホレットは意気揚々と、〈ミルアティー〉の軍部の本部にある一室を目指して歩いていた。
なぜなら今日が自分にとっての転機になるからだ。
学校を首席で卒業し、そのまま軍部の中で治安部隊に当たる『国属騎士団』に所属することになった。
父も『国属騎士団』の出身だったからエリスもそこを目指した。
そして今、エリスは軍部のある一室にたどり着いた。
部屋にいたのは、細身の中年男性。
告げられるのは淡々とした情報のみ。
目の前の男性とは知り合いなのだが、やはり、仕事とプライベートは分ける人なのだろう。
告げられる情報の中にはエリスの担当するスラムの南区を治める〈レクイエム〉という傭兵団に挨拶をしておいた方がいいという忠告を受けた。
一通り言い終わると、男性は穏和な笑みを浮かべ、がんばってね、と言ってくれた。
それだけでも嬉しかった。
エリスは笑顔のまま、部屋を出て、早速朝の仕事へ向かった。
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