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【営業損害賠償】のれん代、埋もれたか(7月22日)

 東京電力福島第一原発事故に伴う営業損害で政府と東電は先月、避難区域内などで減収率100%の年間逸失利益の2倍を一括で支払うなどとする賠償の新しい方針を示した。平成28年2月での打ち切り方針に大きな反発があったため、1年分を上乗せした形だ。
 一括賠償には商工業者が求めていた「無形固定資産」の一つである「のれん代」が含まれるとされる。賠償の大きな節目となる今回の方針の中に、もっと評価されるべき貴重な資産が埋もれてしまったのではないか。明確に算定して埋め合わせを強く求めてもよいのではないだろうか。
 一般的にのれん代が顕在化するのは企業買収の時だ。買収価格は相手企業の純資産だけでなく貸借対照表には表れないブランド力、技術力、顧客との関係、人材などを幅広く評価された額になる。
 避難区域に多くの顧客を抱えていた南相馬市の公認会計士は「解除になっても再開できる事業所はわずかで営業損害は続く。稼ぐ力である『のれん』を大きく損ないながら賠償を打ち切るなら、のれん代をもっと正当に評価して賠償すべき」と強く主張する。
 原発災害による売り上げの減少分や使えなくなった固定資産は賠償対象として分かりやすいが、信用などののれん代は明確に評価しにくい。先の公認会計士は「多くの事業者は目先の賠償の手続きにかかり切りで、のれん代まで頭が回っていない」という。
 避難先に施設を整え、事業を再開した製造業もある。しかし、例えば農家と信用取引をしてきた米穀店、歴史ある葬儀店や幼稚園、燃料供給業など長年の信用をベースに地域で経営を継続してきた事業者にとって他地域での営業再開には大きな困難がある。
 営業損害賠償が終了したら廃業と考える被災事業者は多い。将来展望のない商売では後継者をつなぎ留められない。復興需要で好況な業種も、ピークが過ぎて商圏も人口も元に戻らない現実に直面することを不安に感じている。
 政府は6月の復興指針改定で、避難区域の事業者の営業再開を官民合同チームで支援するとした。東電は、一括賠償額を超えて事故と相当因果関係が認められる損害が出た場合は個別に対応するとした。個々の事業所が相当因果関係を立証するのは大きな手間だ。これらが絵空事や口約束で終わってはならない。
 税制上の配慮も乏しい。政府や東電は事業者や地域の将来を奪うことのないよう、継続的な支援、賠償対応が求められる。(佐久間 順)

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