2015年08月23日

24時間テレビでハヤブサ選手を見た人に伝えたいこと

HAYABUSA日本テレビ「24時間テレビ」にて「全身不随のプロレスラー、ハヤブサさん」として
ハヤブサ選手の特集が放送されました。
VTRでは「引退の10カウントゴング」と称して天龍源一郎選手ら大御所がリングに集められ、
10カウントゴングの引退セレモニー。
ところがVTR明けに登場したハヤブサ選手本人は引退する気はまったく無し。
友人として登場した博多大吉さんも「引退ではありません」ときっぱり。
おかしなことが起こりました。おせっかいな感動作り、するんじゃないよ。
ハヤブサ選手は2001年10月22日。試合中にラ・ブファドーラという技を失敗し、脳天落下。
結果、頸椎損傷の大けがを負ってしまった選手です。一時は首から下がマヒし、動けない状態に陥りました。
14年にわたるリハビリ生活。懸命な努力によって車いすで移動できるまでに回復。杖さえあれば歩けます。
テレビスタッフは今現在のその姿を見て、プロレス競技に戻るのは無理だ、という判断を下したのでしょう。
おそらく「感動的な絵作り」のため、引退セレモニーの10カウントという演出を施します。

「引退じゃないんですよ。仕切り直しの10カウント」(博多大吉)
「開脚リングインをしてリングに戻る、そのためのスタート」(ハヤブサ)
VTRを終えると、引退ではないことを強調する当人たち。

プロレスで感動はするけれど、感動の押し売りで感動できるほど、プロレスは安くないし、作り物じゃないんですよ。
あの演出がなかったなら、とてもよいドキュメンタリーだと思っただけに残念です。
ちゃんと取材をしていたら、14年間、引退宣言をせず振り絞った過程の向こうに
「リング復帰」があることはわかりそうなものなのに。
事情がよくわからなかった方のため、今一度ハヤブサ選手の言葉を振り返ります。まずは事故直後の思い。

 首から下はしびれていて、まるで冷たい岩から首だけが生えているみたい。首を固定されているから、自分の体さえ確認できなくて怖かった。(中略)恐怖が絶望に変わっていくんです。病室の横には窓がありました。「ここから飛び降りたら死ねる」と思っても、トップロープから飛んでいたハヤブサが、わずか1メートルも動けない。情けなくて涙が止まりませんでした。肺炎の菌が心臓に回ってしまったので手術が決まり、それが唯一の希望でした。生きるためでなく、失敗したら死ねるという希望です。
(集英社「週刊ヤングジャンプ」2013年No.35 8月15日号)
読んでるだけで、息が詰まりそうになる文章。
しかし手術は成功に終わります。医師から気分を聞かれると「最悪です」と答えたそうです。
でもそこで不死鳥は気づきます。身体が動かなくても、自分の言葉で相手に気持ちを伝えることができる。
状況は最悪。でも僕にはできることがある。

 ハヤブサ 僕自身が死ぬ目に遭った。つまり通常ではできない体験ですよね。その時、支えてくれたのがやっぱりFMWとハヤブサの存在だったんですよ。(中略)プライドという言い方があってるかどうかはわからないけど、死ぬ目に逢ったとしても俺はちゃんとしなきゃ、なぜならハヤブサなんだからって思わせてくれたんです。あれほどリングで体張ってきたハヤブサが、ヘタれちゃダメだろうって。
 ――自分自身でありながら客観的にハヤブサ像を守ろうとしていたことになりますね。
 ハヤブサ マスクを見たり、かぶったりすると本心でそう言う気持ちになれたんです。リハビリでも、それが大きかった。頑張れなさそうになるとハヤブサだったら、ここは頑張るだろ! って。
(中略)
 正直な話、こんなに辛いんだったらって、マスクを脱ぎたいことは何度もあったのに、今は素直にハヤブサのマスクへ感謝できる自分がいます。(ベースボールマガジン社刊「FMW激闘史」)
ハヤブサはハヤブサに元気づけられる。ハヤブサ選手がハヤブサ選手として覆面をかぶり続けるのは、
理由がきちんとあり続け、だから、リングに戻る必要がある。
プロレスをするという夢のために、生きる必要性がある。
こんなハヤブサ選手が「引退」の選択を軽々するわけないじゃないですか。

 仮にこれほどの長い時間をかけて頑張った結果、それでもリングに戻れないままに終わる可能性もあるわけじゃないですか。だけど、人生はどこに行くだけかだけではなく、その過程において何をやってきたのかに価値があるものだと思うんです。(中略)それがあるからこそ、たどり着いたときに感極まれるんですよ。(同上)
プロレスも、人生も結果じゃない。その“時点”をどう楽しみ、つなげていくかかが一番大事。
だからはピリオドは簡単には打てません。

最終目標はリングに戻ること。(中略)必ず復活できると信じてますよ。だってハヤブサは、不死鳥と呼ばれたプロレスラーなんですから。
(集英社「週刊ヤングジャンプ」2013年No.35 8月15日号)
事故が起こったあの日、ハヤブサ選手は首から下が動かない中、横たわり、気丈にもマイクを取りました。
「時間はかかるかもしれないけど、またここに帰ってくるから」。

本当に感動する瞬間は、「また」が訪れるその時です。


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この記事へのコメント
24時間TVでそんなことがあったんですか。
読みごたえある素晴らしいエントリーです。
ハヤブサはフェニックスで不死鳥ですもんね。
Posted by TJS at 2015年08月23日 21:02
24時間テレビ自体が感動の押し売りですからね。
プロレス人気に乗っかりたいのでしょうが、大きなお世話ですね。
Posted by 魍魎 at 2015年08月23日 23:21
初めてコメントさせていただきます

自分がプロレスを好きになり、ハヤブサ選手を知った時にはもう怪我をされていて、生の試合を見たことはありませんが、残された映像を後追いで見ただけでも強烈に惹き付けられ、好きなレスラーになりました

演出とのすれ違いは残念ですが、ハヤブサ選手があくまで前向きに、それを一つの区切りと捉えているならば好意的に受け止めたいと思います

まだまだお楽しみはこれからですから!
Posted by H at 2015年08月24日 00:02
●TJSさんへ
偶然目にしてツッコまざるを得なかったので筆をとりました。
歌を贈ったカールスモーキー石井さんまで「引退」と書いてたもんで。
Posted by 漁師JJ at 2015年08月24日 00:23
●H さんへ
ハヤブサという選手、生き方が広まったという意味でいい放送でしたね。
それだけになんであの演出だったのだろうと。ウウン。
Posted by 漁師JJ at 2015年08月24日 00:25
●魍魎さんへ
あの場では一時の感動が最上位なのかなあと、ちょっと考えてしまいました。
Posted by 漁師JJ at 2015年08月24日 00:44
ネットでこの事は知ってましたが、どんな内容か知らずようやく知りました。
ハヤブサさんは復帰する気満々と思ったから、「おや?」と思いましたが。
しかし、十年ぐらい前に上田馬之助さんが取り上げられてたが、そんな感じの様に復帰に向けてリハビリして頑張っているVを流して、中継で繋げるなら良かったのに。

本当に見方によっては余計なお世話。
そういう事が「偽善」と思われちゃうのよ。
Posted by 通り菅井 at 2015年08月24日 07:39