戦後70年のこの夏、数多くの出版物やテレビ番組などで戦争が語られた。「悲惨さを伝えたい」「言い残さねば」「70年たったからこそ話せる」。様々な思いのこもる戦争体験者の言葉は、強く胸に迫る。

 既に人口の大半が戦後生まれ。敗戦時、10歳以上だった人は8%に満たない。体験を語る声を聞ける時間は限られる。地域や学校、メディアでも、生の証言に触れ、記録する機会をできるだけ作りたい。戦争を考えることを、8月だけの行事にしてしまわないことが大切だ。

 創作された作品が、戦争を考える入り口になることも多い。中でも「マンガの影響力は大きい」と、京都精華大学マンガ学部教授の吉村和真さんは指摘する。朝日新聞が今夏、東京都内で1千人に「戦争のイメージを作った作品」を尋ねた調査でも、一番多かったのは「はだしのゲン」だった。

 「戦闘の興奮を見せるだけのものや安易なメロドラマなど、質の高くない作品もたくさんある。しかし、描き手の自由の幅が広いからこそ、優れた作品も生まれる」と吉村さん。近年の傾向は、戦争を知らない世代の女性が、秀作を発表していることだという。

 例えば、父のシベリア抑留体験に基づく「凍りの掌(て)」などの作者おざわゆきさんや、「この世界の片隅に」などで戦時下の暮らしを描いた、こうの史代さんは1960年代生まれだ。

 さらに下の世代の今日マチ子さんは、少女と戦争がテーマの作品を次々発表している。

 今日さんが最初に戦争と向き合った「cocoon」は、ひめゆり学徒隊がモチーフ。沖縄を取材し、多くの資料を調べたうえで、ファンタジーのように描いた。同世代の劇作・演出家、藤田貴大(たかひろ)さん(30)が13年に舞台化、今夏も上演され、大きな反響をよんだ。

 作品の中で、少女たちの日常と戦場の切れ目はない。藤田さんは「僕が生きている現実もそうなのではないか。今が戦後ではなく、戦前であるような感じは2年前より強い」と話す。

 そういう現実に対抗するためにも、「戦争の怖さと、その中にも青春があったことの両方を想像して、表現することが大事だ」と考える。「知らないことを調べ、注意深く、でも想像力を使って手を伸ばし、誰かとつながる。批判されたら、議論して、また学ぶ。それは、体験者でないからこそできる、戦争の語り方ではないか」

 若い想像力で向き合う戦争。それが記憶をつなげてゆく。