2015年08月22日(土) 08時12分49秒

【53カ月目の福島はいま】中通りで暮らすということ~「被曝?心配ないよ」という人々からあなたへ

テーマ:被曝

未曽有の原発事故から4年余。放射線から遠ざかろうと避難・移住した人もいれば、さまざまな事情や想いから福島にとどまっている人も多い。福島市でも、1万人ほど人口は減ったが、いまだに28万人を超える人々が生活をしている。福島第一原発から60kmの福島県中通り。「危なくない」「不安はない」「元気です」─。あなたは、これらの声をどう読みますか?




【「これが私たちの日常なんです」】

 「取材の方ですか?」

 母親の目は鋭かった。

 福島市・信夫山のふもとに新しく整備された噴水公園。真夏の陽射しが戻って来て、何組かの親子が涼を求めて来ていた。小学生の息子を水浴びさせていた母親から話を聴き終えたところで、別の母親に声を掛けられた。「面白おかしく書かれたくないんです」。
 噴水では、幼い娘が歓声をあげて喜んでいる。気温は30℃超。母親は続けた。「危なくないのに福島市は危険だとか、そういうことを書かないで欲しい。間違った情報が流れている」。汚染の度合いをどうとらえるかは人それぞれだが、現実の危険性を取り上げることと、面白おかしい記事を書くことは明確に異なる。そこだけでも理解して欲しいと伝えると、今度は報道への不満を口にした。

 「友人が地元テレビ局の取材を受けたんです。友人も協力的でかなりしゃべったんだけど結局、放送で使われたのはほんの一部だけ。しかも、放送局の意向に沿った部分を使われたので、友人の言いたいことが全然伝わらなくなってしまったのです。メディアは都合のいい部分しか使わない」
 やや落ち着きを取り戻した母親は、こうも言った。「放射線を気にしている人はとっくに福島県外に避難していますよ。ここで暮らし続ける私たちにとっては、この状況が日常なんです。これが日常になってしまっているんです」。

 本当に言いたかったことはこの点なのだろう。この家族は避難を選ばず福島市内での生活を続けている。空間放射線量は下がり、娘を水着姿で遊ばせている。公園のすぐ横には市内で生じた除染廃棄物の巨大な仮置き場があるが、表示された放射線量は0.2μSv/h。原発事故後に福島市内では20μSv/hが当たり前のように計測されたことを考えると、単純比較で百分の一だ。県外から当事者でない人間が入ってきて「日常」を荒らさないで欲しい─。その気持ちは良く分かる。

 最後に母親は繰り返した。「見たまま、聴いたままをそのまま書いてください」。別の広場では、応援団だという高校生が、上半身裸で腕立て伏せや腹筋運動をしていたが「本当に危険なら国や市が立ち入り禁止にするっす」、「まったく心配していないっす」と話した。広場に設置されたモニタリングポストの数値は0.185μSv/h。広場横の土手では、手元の線量計は0.3μSv/hを超した。噴水公園では、子どもたちの歓声が響いていた。
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(上)福島競馬場裏手を流れる阿武隈川。河川敷の

テニスコートでは、手元に線量計は0.6μSv/hに達した

(中)福島税務署とハローワークの中間に設置された

仮置き場。真横に設置されたモニタリングポストの数値

は0.2μSv/h=福島市下狐塚

(下)高校生が上半身裸で腕立て伏せなどをしていた

駒山公園は0.185μSv/h


【立ち消えになった県外避難】

 東北本線・金谷川駅からほど近い福島大学。

 体育系サークルに所属する1年生の男子に声を掛けると、私の持つ線量計をちらっと見て「放射能ですか?まったく気にしていません」と苦笑交じりに答えた。

 自宅は、キャンパスに近い蓬莱団地。原発事故直後から、市内でも放射線量の高かった地域だ。「事故直後は放射線量が普通に3とか5(μSv/h)あってビビった」と振り返る。「家族で福島県外に避難しようという計画も持ち上がったけど…結局は避難しなかったですね。数値がだんたん下がってきたから」。地元の高校から福島大学へ。「被曝の不安を感じたことは一度もありません」と言い切った。日焼けした顔には笑顔が広がっていた。「だって、あちらこちらにあるモニタリングポストの数値は国の基準値より遥かに低いんですよね? 人がバタバタと倒れているわけでもないし」。手元の線量計は0.15μSv/h前後だった。

 キャンパス内の信陵公園に登ると、震災で損壊し後に修復された「戦没同窓生名記念碑」や「鎮魂・わだつみ像」がある。昨年5月に訪れた際は手元の線量計は0.5μSv/h前後を示していたが、この日は0.22μSv/h。一番高い数値でも0.24μSv/hだった。

 学生食堂では地元産の桃が派手にPRされ、JA福島中央会が作成したパンフレット「福島県農畜産物の安全・安心の取り組み」が置かれていた。放射線から少しでも遠ざかるような呼び掛けや土壌汚染を測定した数値の掲示は無かった。

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(上)福島大学・信陵公園では、手元の線量計は

0.22μSv/h

(中)松川工業団地内の第二公園では0.20μSv/h

(下)松川工業第一公園で彼氏と遊んでいた女子高生

は「私たちはイキイキとしていますよ」と笑った


【「考えたってしょうがないじゃん」】

 高校三年生の女の子(18)は、少し驚いたように、そして少しうつむき加減につぶやいた。「まだ取材に来てくれる人なんていたんですね。ありがとうございます。福島のことなんてもう、忘れられてるのかと思ってた…」

 東北本線・松川駅近くの松川工業第一公園。二本松市内の自宅から、彼氏と遊びに来ていた。「初めの頃は、マスクをしたりして放射能を意識していたけど、高校生になったら考えなくなっちゃった。だって、考えたってしょうがないじゃん」。そう言って屈託のない笑顔を見せると、隣の彼氏も「ニュースで『もう大丈夫』とか言ってたし。浜通りはヤバいかもしれないけど、中通りはね…」とうなずいた。

 「東京の人はアバウトに考え過ぎなんだよ。『福島』というだけで危ないと考えてる。ネットでも散々なことを書かれてるじゃん。あたし、鼻血なんか出したことないよ。こうやってイキイキと遊んでるよ。観光に来たって大丈夫だよ。どんどん来て欲しいよ」

 まだ幼さの残る表情で、女の子は一気に話した。気持ちは分かる。場所によって汚染の度合いは全く異なる。しかし、二本松市内でも二本松駅周辺や市役所周辺など、依然として放射線量の高い場所はあるのも事実だ。「そうだよね…。あの辺は確かに高いよね。でも、考えてもしょうがないし…」。女の子の表情が曇ってしまったのを見て、取材を打ち切った。礼を言うと、彼氏とタワースライダーに向かって飛び跳ねるように走って行った。「あたしたちはイキイキとしてますから」。そう言って笑った。


※ ※ ※


 原子力規制委員会や福島県が公表している今年5月の月間降下物のデータによると、東京都新宿区の2.21に対して福島市方木田では92.0だった(放射性セシウムの合算値。単位はいずれもMBq/㎢)。2月のデータでも、新宿区の2.63に対し、福島市は87.0。1月は1.56に大して184.0だった。同じ月の双葉郡の数値は、それぞれ610、8700、3250だったので双葉郡との比較では福島市の降下物量は少ないが、新宿区よりは多い。会津若松市追手町では、いずれもゼロだった。

(了)

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1 ■事実関係をひとつだけお尋ねします

手元の線量計と、モニタリングポストの数値は、大きなズレがありましたか。

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