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刑事司法改革法案

2015年8月22日
◆冤罪防止向けさらに議論を◆

 警察と検察による取り調べの録音・録画(可視化)の義務付けや「司法取引」の導入、通信傍受の対象拡大を柱とする刑事司法改革の関連法案が衆院を通過した。

 与野党の協議を経て政府案が一部修正され、今国会で成立する見通しとなったが、中身が「冤罪(えんざい)防止」より「捜査拡充」に偏っているのではないかとの指摘があり、今後に多くの課題を残している。

可視化の範囲不十分

 2011年から法相の諮問機関、法制審議会の特別部会で捜査・公判改革が議論され、答申を踏まえて政府が今年3月、刑事訴訟法などの改正案を国会に提出した。

 可視化の対象を殺人や放火などの裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件に限定する一方、司法取引の導入などにより捜査手法を大幅に拡充する政府案をめぐり、与野党は捜査機関の権限拡大に一定の歯止めをかける修正で合意した。しかし、可視化の部分は政府案が手付かずのまま残った。

 可視化をめぐり、警察・検察は「取り調べ全過程の録音・録画」を受け入れても、対象事件の拡大は拒んだ。供述の任意性などの立証に有効とはいえ、可視化する、しないという裁量の幅を確保しておきたいからだ。このため、誘導で自白を迫られやすいといわれる贈収賄事件や、冤罪被害が目立つ痴漢事件などは対象外となった。

 また幅広く認められている可視化の例外を限定する野党の独自案は、日の目を見なかった。

 冤罪防止がかすんでしまった感は否めない。可視化の義務付けは最終的に全事件に拡大すべきで、可視化の例外の絞り込みも必要だ。新たな捜査手法の運用をどうチェックしていくかも含め、さらなる改革を見据え議論を深めたい。

捜査手法が大幅拡充

 司法取引をめぐっては、冤罪の危険が指摘される。経済事件などに限られるが、容疑者や被告が「他人の罪」の解明に協力する見返りに検察が起訴を見送ったり、求刑を減らしたりするものだ。日本にはなじまないとされてきたが、供述に過度に依存しないためとして導入されることになった。

 虚偽の供述によって他人が巻き込まれる恐れがあり、与野党協議を経て、取引には弁護人が必ず立ち会うことになったほか、検察が合意までの協議の記録を作成して裁判が終わるまで保管することが義務付けられた。「合意に至る過程を可視化すべきだ」との主張は取り入れられなかった。

 通信傍受の対象には、組織性が疑われる殺人や詐欺など9類型が加わる。傍受は通信事業者施設で業者を立ち会わせていたが、警察施設で第三者の立ち会いなしにできるようになり、捜査に関与していない警察官を立ち会わせることで与野党は合意している。身内にチェックできるのか疑問もある。

 これも含め、今回の改革は捜査手法の恣意(しい)的な運用に対する歯止めが十分に施されているのか、注視していく必要がある。

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