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【国際】

米、仁義なき情報戦 NSA日本盗聴疑惑

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 内部告発サイト・ウィキリークスが七月三十一日に公表した米政府の機密文書は、米国家安全保障局(NSA)が日本の経済産業相や日銀総裁、大手商社などの電話を盗聴していたことを明かしており、「安全保障」を盾になりふり構わぬ産業スパイ活動をしていた米国の実態があらためて露呈した。一部の盗聴内容は「ファイブ・アイズ(五つの目)」と呼ばれる米英豪など英語圏五カ国で共有された可能性も指摘され、米国の同盟国の間でも情報をめぐる関係の緊密さの違いが大きいようだ。

 【ワシントン=青木睦】ウィキリークスが公表した米機密文書の内容が事実とすれば、国益追求のために同盟国政府も容赦なく盗聴の対象とする冷徹ぶりを示す一方で、米企業へのサイバー攻撃をめぐり対中非難を強める米国の二重基準が浮き彫りになる。

 日本を標的にした米国の盗聴疑惑は過去にも指摘されてきた。米国、カナダ、英国、オーストラリア、ニュージーランドの英語圏五カ国による通信傍受網「エシュロン」による産業スパイ疑惑が二〇〇〇年前後に浮上し、被害を受けたという欧州諸国が問題視。この傍受網は、一九九五年の日米自動車協議でも暗躍したと批判された。

 ウィキリークスの一連の暴露をきっかけに、NSAはフランスやドイツでも盗聴をしていたことが明らかになっている。メルケル独首相は自分の携帯電話の盗聴疑惑に激怒し、オバマ米大統領に直接抗議。オバマ氏は「通信を監視していないし、今後もしない」と釈明したが、過去について否定したわけではない。

 ところが最近、当のドイツがNSAの欧州諸国などに対する監視活動に協力していた疑いが発覚した。今回、ウィキリークスが「ルールなど存在しない」と日本に警告した通り、国益をかけた熾烈(しれつ)な情報戦が無秩序に展開されている。

 ただ、米国はサイバー攻撃で企業秘密を盗んでいると中国を非難しており、自国の活動との整合性について説明責任が生じるが、七月三十一日の記者会見でトナー国務省副報道官は「公表された文書に信ぴょう性を与えたくないので(事実関係は)確認しない」と繰り返すだけだった。

◆英語圏5カ国で情報共有か 同盟国で対応に差

 「ファイブ・アイズ」と呼ばれ、日本政府高官などから盗聴した情報も共有していた可能性のある英語圏五カ国の情報当局は、世界中に通信傍受網「エシュロン」を張り巡らせるなど、諜報(ちょうほう)分野で極めて緊密に連携している。

 英BBC放送などによると、ファイブ・アイズの誕生は、第二次大戦中、米英両国が協力して進めた日独の暗号の解読作業に端を発する。米英の協力関係は戦後も続き、一九四六年三月に「UKUSA」と呼ばれる秘密協定が結ばれ、その後、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが加わった。

 米情報当局の元首脳は、中国や北朝鮮の情勢などをめぐり、日本と米国が(1)スパイ活動による情報の交換(2)米国が技術供与した機材で傍受された通信情報の共有−といった協力関係にあるとするが、日本が得られる情報は、米国の諜報活動全体からみれば極めて小さな部分と考えられる。

 また、ファイブ・アイズにはその五カ国の中で諜報活動をしない取り決めがあるとされ、米国の同盟国ながら盗聴された日本やドイツとの違いが際立つ。

 ウィキリークスの暴露をきっかけとした米国の一連の諜報疑惑では、フランスやドイツ、ブラジルなど、特に非英語圏の国々から米国への風当たりが強い。

 (藤川大樹)

<ウィキリークス> 政府や企業などから匿名の内部告発で得た機密情報を、ネット上に公開するウェブサイト。元ハッカーのオーストラリア人ネット起業家ジュリアン・アサンジ氏や中国人反体制活動家、ジャーナリストらが2006年に設立し、1200人以上のボランティアが分析や編集に携わっているとされる。これまでに、イラク戦争での拷問の実態を含む約40万点の米軍の機密文書や、米軍がイラク民間人らを射殺した動画などを明るみに出している。

 

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