米国の国家安全保障局(NSA)が日本の政府や企業の幹部を盗聴していた疑いが浮上している。同盟国であっても警戒を怠ってはならないことが改めて明らかになったといえる。官民ともに対策の強化につとめる必要がある。
内部告発サイト「ウィキリークス」によれば、NSAは遅くとも第1次安倍晋三政権の時代から、内閣官房、財務省、日本銀行などの要人を標的に、地球温暖化対策や通商政策などについて盗聴していた。民間企業では三菱グループや三井グループのエネルギー部門が対象になっていたという。
菅義偉官房長官は「事実であればきわめて遺憾」と表明し、米政府に事実関係の確認を求めていることを明らかにした。ただ、米政府が問い合わせに正面から回答するかどうかは不透明だ。
日本政府はまず、みずから実態を見極める努力が求められる。ウィキリークスの情報とつきあわせることで、少なくとも内部情報が外に漏れたかどうかははっきりさせられるのではないか。
近年、元NSA職員のエドワード・スノーデン氏やウィキリークスの暴露によって、NSAの盗聴はしばしば外交問題に発展してきた。ドイツのメルケル首相がオバマ米大統領に直接抗議し、ブラジルのルセフ大統領が訪米計画をキャンセルしたこともあった。
そんな現実を踏まえた対応を日本政府も求められる。同盟国とはいえ米国は、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉などで主張をぶつけ合う相手でもあり、盗聴を許せば国益をそこなう。防止体制を改めて点検し、必要な措置をとらなければならない。
企業との連携も大切だ。企業を標的にした盗聴やサイバー攻撃では、政府機関が関与している場合も少なくないとみられている。中国では軍の専門部隊が外国企業にサイバー攻撃をしかけていると指摘されている。
個々の企業では限界があり、政府が情報の共有や共同の対策を産業界に促す必要もあろう。