新国立競技場 基本方針 屋根は観客席上部だけ
2015年8月14日、政府は、新国立競技場の整備計画を再検討する関係閣僚会議を開き、施設の機能は「原則」としてスポーツ競技用のものに限定し、屋根は観客席の上部にだけ設けることなどを盛り込んだ、整備計画の基本的考え方を決定した。
この中で、 「新しい競技場は『アスリート第一』の考え方のもと、世界の人々に感動を与える場にする」としたうえで、できるかぎりコストを抑制するため、施設の機能は原則としてスポーツ競技用のものに限定するとともに、屋根は観客席の上部だけとし、大会後の運営は民間に委託するとしている。
個別の機能の仕様については、「諸施設の水準は、オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとして適切に設定」とし、先送りにした。また焦点の総工費についても先送りにした。大会に間に合うよう、平成32年(2020年)春までに確実に完成させるとした。
今月中をめどに、スタジアムの性能、工期、コストの上限等を示した新たな整備計画を策定して、これに基づいて、9月初めをめどに公募型プロポーザル方式(設計から施工を一貫して行う方式)による公募を開始するとしている。
公募型プロポーザル方式を採用するにあったては、「発注者の恣意を排除し中立かつ公正な審査・評価を行うことが重要」とし、日本スポーツ振興センター(JSC)内に「技術提案等審査委員会」を設置し、専門家による審査体制を整えて、公示前、技術審査段階、価格等の交渉段階等の各段階 において建設計画の進捗状況をチェックするとしている。
“正念場”を迎えた新国立競技場建設計画再出発
今回示された「基本方針」では、新国立競技場の個別の機能については、「諸施設の水準は、オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとして適切に設定」とし、具体的な仕様の内容は先送りにした。
▽ 完成時期を、IOCと東京都は2020年1月に早めるように要請しているが、どうするのか? 新国立競技場は、メインスタジアムとして、開会式と閉会式を開催するのが最大の“使命”である。「3ヶ月」で、開会式の準備をするのは「無理」とされている。ロンドン五輪、北京五輪、ソチ冬季五輪、開会式の演出には、開催国のパワーが表現されている。「2020年春完成」で本当に開会式の準備に間に合うタイムスケジュールが組めるのか?
開会式は、オリンピックのメインイベント、北京五輪、ロンドン五輪、毎回、豪華な演出を国を挙げて競う。
開会式の競技場は、まさに“ステージ”となり、コンサート、舞台芸術、映像上映、マスゲーム・ショー、アクロバット・ショー、空中を舞う仕掛け、そして花火が繰り広げられる。出演者は1万人を超える。
それを成功させるには、綿密なリハールを繰り返すことが必須である。本番にたどりつくまで「3ヶ月」では到底無理だと思う。大会運営者はどのように考えているのだろうか?
「テストマッチ」も必須である。招致ファイルでは、陸上競技は「2020年2月、4月」、サッカーは「2019年11月、12月」としている。仮に新国立競技場完成後の「3ヶ月」に詰め込むことは可能なのか。「開会式」のリハーサル期間の確保は絶望的だろう。、
▽ 収容能力「8万人」規模を維持するのか?
「8万人」の観客席は恒設施設ですべて対応するのか?
仮設席も含めて対応し、大会終了後は、「5万人」程度に縮小するのか?
「8万人」規模の観客動員数が期待できるのは、陸上競技では到底無理、サッカーでも最高で「5万人」程度、ラグビーにいたっては全く不可能。ワールドカップクラスなら可能性はあるが、いつ開催されるのか、まったく先行き不透明である。
▽ 観客サービスを充実させるために、サッカー等球技を開催する時の“ピッチサイド席”の設置はどうするのか?
9レーンのトラックの空間が“邪魔”になる。
▽ 建設経費増の原因となっているVIP席などVIP施設はどの程度設置するか。
▽ 五輪の開催時期は真夏で“酷暑”が想定されるなかで、観客席の“冷房システム”をどうするのか?
▽ 天然芝の維持のために必要な“芝生育成補助システム”をどうするのか?
ピッチ上部の“屋根”を設置しなくても必須である。
▽ 陸上競技に必要なサブトラックはどうするのか。
▽ “人工地盤”、“連絡通路・歩行者用デッキ(立体歩道)”、“立体公園”、“サブトラックとの連絡通路”、“上下水道幹線移設費”などの「周辺整備」はどうするのか?
▽ 新国立競技場は五輪終了後、“改築”を想定するのか、想定するとすればどのようなスキームを準備するのか?
▽ 五輪終了後の収支計画のメドをどのように示すのか? 「運営は民間に委託」としているので、収支のメドはコメントしないのか?
▽ “白紙撤回”された建設計画の中で、“無駄”になった約60億円は、だれが負担するのか? その責任は誰がとるのか?
そして、最も重要な課題、「総工費」を先送りにしている。一体どのくらいの額で示すのか、
2014年1月、文科省は、「新国立競技場設計条件」(フレームワーク設計)を受けて、新国立競技場関連の予算を、新競技場建設費「1388億円」、解体費「67億円」、周辺整備費「237億円」、合わせて1692億円(2013年7月時点の単価、消費税5%)を“上限”とする方針を事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に示した。
この“上限”を基本にして、可動式屋根や、電動式可動席など設置しない機能の経費を差し引いた上で、資材費と労務の値上がりで25%増、消費税の増分を加えて算定するとほぼ上記の水準となると思う。「周辺整備費」も含めた額で提示すべきだ。
今月中をめどに決めるとしている新国立競技場の機能の詳細は、総工費を決める際にも重要だけでなく、東京五輪開催後の維持管理や収支にも極めて重要なポイントである。
新国立競技場の“白紙撤回”の再出発はまさに正念場を迎えている。
再検討に当たっての基本的考え方(案) 再検討のための関係閣僚会議
(2015年8月14日)
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東京オリンピック 競技場 東京ベイゾーン ヘリテッジゾーン
2015年8月13日
Copyright (C) 2015 IMSSR
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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net / imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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2015年8月14日、政府は、新国立競技場の整備計画を再検討する関係閣僚会議を開き、施設の機能は「原則」としてスポーツ競技用のものに限定し、屋根は観客席の上部にだけ設けることなどを盛り込んだ、整備計画の基本的考え方を決定した。
この中で、 「新しい競技場は『アスリート第一』の考え方のもと、世界の人々に感動を与える場にする」としたうえで、できるかぎりコストを抑制するため、施設の機能は原則としてスポーツ競技用のものに限定するとともに、屋根は観客席の上部だけとし、大会後の運営は民間に委託するとしている。
個別の機能の仕様については、「諸施設の水準は、オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとして適切に設定」とし、先送りにした。また焦点の総工費についても先送りにした。大会に間に合うよう、平成32年(2020年)春までに確実に完成させるとした。
今月中をめどに、スタジアムの性能、工期、コストの上限等を示した新たな整備計画を策定して、これに基づいて、9月初めをめどに公募型プロポーザル方式(設計から施工を一貫して行う方式)による公募を開始するとしている。
公募型プロポーザル方式を採用するにあったては、「発注者の恣意を排除し中立かつ公正な審査・評価を行うことが重要」とし、日本スポーツ振興センター(JSC)内に「技術提案等審査委員会」を設置し、専門家による審査体制を整えて、公示前、技術審査段階、価格等の交渉段階等の各段階 において建設計画の進捗状況をチェックするとしている。
“正念場”を迎えた新国立競技場建設計画再出発
今回示された「基本方針」では、新国立競技場の個別の機能については、「諸施設の水準は、オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとして適切に設定」とし、具体的な仕様の内容は先送りにした。
▽ 完成時期を、IOCと東京都は2020年1月に早めるように要請しているが、どうするのか? 新国立競技場は、メインスタジアムとして、開会式と閉会式を開催するのが最大の“使命”である。「3ヶ月」で、開会式の準備をするのは「無理」とされている。ロンドン五輪、北京五輪、ソチ冬季五輪、開会式の演出には、開催国のパワーが表現されている。「2020年春完成」で本当に開会式の準備に間に合うタイムスケジュールが組めるのか?
開会式は、オリンピックのメインイベント、北京五輪、ロンドン五輪、毎回、豪華な演出を国を挙げて競う。
開会式の競技場は、まさに“ステージ”となり、コンサート、舞台芸術、映像上映、マスゲーム・ショー、アクロバット・ショー、空中を舞う仕掛け、そして花火が繰り広げられる。出演者は1万人を超える。
それを成功させるには、綿密なリハールを繰り返すことが必須である。本番にたどりつくまで「3ヶ月」では到底無理だと思う。大会運営者はどのように考えているのだろうか?
「テストマッチ」も必須である。招致ファイルでは、陸上競技は「2020年2月、4月」、サッカーは「2019年11月、12月」としている。仮に新国立競技場完成後の「3ヶ月」に詰め込むことは可能なのか。「開会式」のリハーサル期間の確保は絶望的だろう。、
▽ 収容能力「8万人」規模を維持するのか?
「8万人」の観客席は恒設施設ですべて対応するのか?
仮設席も含めて対応し、大会終了後は、「5万人」程度に縮小するのか?
「8万人」規模の観客動員数が期待できるのは、陸上競技では到底無理、サッカーでも最高で「5万人」程度、ラグビーにいたっては全く不可能。ワールドカップクラスなら可能性はあるが、いつ開催されるのか、まったく先行き不透明である。
▽ 観客サービスを充実させるために、サッカー等球技を開催する時の“ピッチサイド席”の設置はどうするのか?
9レーンのトラックの空間が“邪魔”になる。
▽ 建設経費増の原因となっているVIP席などVIP施設はどの程度設置するか。
▽ 五輪の開催時期は真夏で“酷暑”が想定されるなかで、観客席の“冷房システム”をどうするのか?
▽ 天然芝の維持のために必要な“芝生育成補助システム”をどうするのか?
ピッチ上部の“屋根”を設置しなくても必須である。
▽ 陸上競技に必要なサブトラックはどうするのか。
▽ “人工地盤”、“連絡通路・歩行者用デッキ(立体歩道)”、“立体公園”、“サブトラックとの連絡通路”、“上下水道幹線移設費”などの「周辺整備」はどうするのか?
▽ 新国立競技場は五輪終了後、“改築”を想定するのか、想定するとすればどのようなスキームを準備するのか?
▽ 五輪終了後の収支計画のメドをどのように示すのか? 「運営は民間に委託」としているので、収支のメドはコメントしないのか?
▽ “白紙撤回”された建設計画の中で、“無駄”になった約60億円は、だれが負担するのか? その責任は誰がとるのか?
そして、最も重要な課題、「総工費」を先送りにしている。一体どのくらいの額で示すのか、
2014年1月、文科省は、「新国立競技場設計条件」(フレームワーク設計)を受けて、新国立競技場関連の予算を、新競技場建設費「1388億円」、解体費「67億円」、周辺整備費「237億円」、合わせて1692億円(2013年7月時点の単価、消費税5%)を“上限”とする方針を事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に示した。
この“上限”を基本にして、可動式屋根や、電動式可動席など設置しない機能の経費を差し引いた上で、資材費と労務の値上がりで25%増、消費税の増分を加えて算定するとほぼ上記の水準となると思う。「周辺整備費」も含めた額で提示すべきだ。
今月中をめどに決めるとしている新国立競技場の機能の詳細は、総工費を決める際にも重要だけでなく、東京五輪開催後の維持管理や収支にも極めて重要なポイントである。
新国立競技場の“白紙撤回”の再出発はまさに正念場を迎えている。
再検討に当たっての基本的考え方(案) 再検討のための関係閣僚会議
(2015年8月14日)
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Copyright (C) 2015 IMSSR
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国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
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URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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