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新国立競技場 見直し 基本方針 建設計画仕切り直し

2015年08月21日 20時27分32秒 | 国際放送センター(IBC)
新国立競技場 基本方針 屋根は観客席上部だけ
 2015年8月14日、政府は、新国立競技場の整備計画を再検討する関係閣僚会議を開き、施設の機能は「原則」としてスポーツ競技用のものに限定し、屋根は観客席の上部にだけ設けることなどを盛り込んだ、整備計画の基本的考え方を決定した。
この中で、 「新しい競技場は『アスリート第一』の考え方のもと、世界の人々に感動を与える場にする」としたうえで、できるかぎりコストを抑制するため、施設の機能は原則としてスポーツ競技用のものに限定するとともに、屋根は観客席の上部だけとし、大会後の運営は民間に委託するとしている。
個別の機能の仕様については、「諸施設の水準は、オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとして適切に設定」とし、先送りにした。また焦点の総工費についても先送りにした。大会に間に合うよう、平成32年(2020年)春までに確実に完成させるとした。
今月中をめどに、スタジアムの性能、工期、コストの上限等を示した新たな整備計画を策定して、これに基づいて、9月初めをめどに公募型プロポーザル方式(設計から施工を一貫して行う方式)による公募を開始するとしている。
公募型プロポーザル方式を採用するにあったては、「発注者の恣意を排除し中立かつ公正な審査・評価を行うことが重要」とし、日本スポーツ振興センター(JSC)内に「技術提案等審査委員会」を設置し、専門家による審査体制を整えて、公示前、技術審査段階、価格等の交渉段階等の各段階 において建設計画の進捗状況をチェックするとしている。


“正念場”を迎えた新国立競技場建設計画再出発
 今回示された「基本方針」では、新国立競技場の個別の機能については、「諸施設の水準は、オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとして適切に設定」とし、具体的な仕様の内容は先送りにした。

▽ 完成時期を、IOCと東京都は2020年1月に早めるように要請しているが、どうするのか? 新国立競技場は、メインスタジアムとして、開会式と閉会式を開催するのが最大の“使命”である。「3ヶ月」で、開会式の準備をするのは「無理」とされている。ロンドン五輪、北京五輪、ソチ冬季五輪、開会式の演出には、開催国のパワーが表現されている。「2020年春完成」で本当に開会式の準備に間に合うタイムスケジュールが組めるのか?
 開会式は、オリンピックのメインイベント、北京五輪、ロンドン五輪、毎回、豪華な演出を国を挙げて競う。
 開会式の競技場は、まさに“ステージ”となり、コンサート、舞台芸術、映像上映、マスゲーム・ショー、アクロバット・ショー、空中を舞う仕掛け、そして花火が繰り広げられる。出演者は1万人を超える。
 それを成功させるには、綿密なリハールを繰り返すことが必須である。本番にたどりつくまで「3ヶ月」では到底無理だと思う。大会運営者はどのように考えているのだろうか?
 「テストマッチ」も必須である。招致ファイルでは、陸上競技は「2020年2月、4月」、サッカーは「2019年11月、12月」としている。仮に新国立競技場完成後の「3ヶ月」に詰め込むことは可能なのか。「開会式」のリハーサル期間の確保は絶望的だろう。、
▽ 収容能力「8万人」規模を維持するのか?
  「8万人」の観客席は恒設施設ですべて対応するのか?
  仮設席も含めて対応し、大会終了後は、「5万人」程度に縮小するのか?
  「8万人」規模の観客動員数が期待できるのは、陸上競技では到底無理、サッカーでも最高で「5万人」程度、ラグビーにいたっては全く不可能。ワールドカップクラスなら可能性はあるが、いつ開催されるのか、まったく先行き不透明である。
▽ 観客サービスを充実させるために、サッカー等球技を開催する時の“ピッチサイド席”の設置はどうするのか?
 9レーンのトラックの空間が“邪魔”になる。
▽ 建設経費増の原因となっているVIP席などVIP施設はどの程度設置するか。
▽ 五輪の開催時期は真夏で“酷暑”が想定されるなかで、観客席の“冷房システム”をどうするのか?
▽ 天然芝の維持のために必要な“芝生育成補助システム”をどうするのか?
  ピッチ上部の“屋根”を設置しなくても必須である。
▽ 陸上競技に必要なサブトラックはどうするのか。
▽ “人工地盤”、“連絡通路・歩行者用デッキ(立体歩道)”、“立体公園”、“サブトラックとの連絡通路”、“上下水道幹線移設費”などの「周辺整備」はどうするのか?
▽ 新国立競技場は五輪終了後、“改築”を想定するのか、想定するとすればどのようなスキームを準備するのか?
▽ 五輪終了後の収支計画のメドをどのように示すのか? 「運営は民間に委託」としているので、収支のメドはコメントしないのか?
▽ “白紙撤回”された建設計画の中で、“無駄”になった約60億円は、だれが負担するのか? その責任は誰がとるのか?

 そして、最も重要な課題、「総工費」を先送りにしている。一体どのくらいの額で示すのか、
 2014年1月、文科省は、「新国立競技場設計条件」(フレームワーク設計)を受けて、新国立競技場関連の予算を、新競技場建設費「1388億円」、解体費「67億円」、周辺整備費「237億円」、合わせて1692億円(2013年7月時点の単価、消費税5%)を“上限”とする方針を事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に示した。
 この“上限”を基本にして、可動式屋根や、電動式可動席など設置しない機能の経費を差し引いた上で、資材費と労務の値上がりで25%増、消費税の増分を加えて算定するとほぼ上記の水準となると思う。「周辺整備費」も含めた額で提示すべきだ。
 今月中をめどに決めるとしている新国立競技場の機能の詳細は、総工費を決める際にも重要だけでなく、東京五輪開催後の維持管理や収支にも極めて重要なポイントである。
新国立競技場の“白紙撤回”の再出発はまさに正念場を迎えている。


再検討に当たっての基本的考え方(案) 再検討のための関係閣僚会議
(2015年8月14日)


★ 2020年東京オリンピック・パラリンピック関連記事
東京オリンピック レガシー(未来への遺産) 次世代に何を残すのか?
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?
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東京オリンピック 競技場 東京ベイゾーン ヘリテッジゾーン




2015年8月13日
Copyright (C) 2015 IMSSR

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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net  /  imssr@a09.itscom.net
URL http://blog.goo.ne.jp/imssr_media_2015
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コメント
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東京オリンピック 新国立競技場 負のレガシー

2015年08月21日 18時47分03秒 | 東京オリンピック
新国立競技場は“負のレガシー”(負の遺産)になるのか?
▼ なぜ「2520億円」になったのか? “迷走”する新国立競技場建設費
▼ 国際デザイン・コンクールの“お粗末”な審査
▼ “五輪の聖地”を汚した解体工事入札の迷走
▼ 巨大施設の巨額維持費 “赤字”必死? 
▼ 「2520億円」の押し付け合い 誰が責任をとるのか?


■ 新国立競技場のデザイン募集 国際コンペ実施
 「8万人を収容する観客席、開閉式の屋根、大規模な国際大会のほか、コンサートなども開ける多機能型の“新国立競技場”を建設する……2012年7月20日、国立競技場を運営する独立行政法人日本スポーツ振興センター」(JSC)が、“新国立競技場”のデザインを募集する国際コンペを実施した。
 “新国立競技場”のキャッチフレーズは、「『いちばん』をつくろう」である。
「日本を変えたい、と思う。新しい日本をつくりたい、と思う。もう一度、上を向いて生きる国に。そのために、シンボルが必要だ。日本人みんなが誇りに思い、応援したくなるような。世界中の人が一度は行ってみたいと願うような。世界史に、その名を刻むような。世界一楽しい場所をつくろう。それが、まったく新しく生まれ変わる国立競技場だ。世界最高のパフォーマンス。世界最高のキャパシティ。世界最高のホスピタリティ。そのスタジアムは、日本にある。「いちばん」のスタジアムをゴールイメージにする。だから、創り方も新しくなくてはならない。私たちは、新しい国立競技場のデザイン・コンクールの実施を世界に向けて発表した。そのプロセスには、市民誰もが参加できるようにしたい。専門家と一緒に、ほんとに、みんなでつくりあげていく。『建物』ではなく『コミュニケーション』。そう。まるで、日本中を巻き込む『祝祭』のように。
 この国に世界の中心をつくろう。スポーツと文化の力で。そして、なにより、日本中のみんなの力で。世界で「いちばん」のものをつくろう。」
 国際デザイン・コンクールを実施するにあたって日本スポーツ振興センターが宣言したコメントである。

審査委員長は安藤忠雄氏(建築家 東京大学名誉教授)。
審査員は、鈴木博之(建築家 青山学院大学教授)、岸井隆幸(建築家 日本大学教授)、内藤 廣(建築家 前東京大学副学長)、安岡正人(建築家 東京大学名誉教授)、都倉俊一(作曲家 日本音楽著作権協会会長)、小倉純二(日本サッカー協会会長)、河野一郎(医学博士 日本スポーツ振興センター理事長)の7名に加えて、
世界的に著名な建築家のノーマン・フォスター(イギリス)、リチャード・ロジャース(イギリス)の2名が務めた。



新国立競技場 国際デザイン・コンクールの“キーワード”は、“「いちばん」をつくろう”と“FOR ALL”


新国立競技場 国際デザイン・コンクールの“メッセージ”

(出典 新国立競技場 国際デザイン・コンクール ホームページ)



(取り壊された旧国立競技場(写真:日本スポーツ振興センター)

■ 新国立競技場の建設が浮上したのはラグビーW杯開催
 国立競技場の建て替えの突破口を開いたのはラグビーW杯である。2009年に日本大会の招致に成功。2011年に「ラグビーW杯2019日本大会成功議員連盟」が建て替えを決議し、その後、国が調査費を計上して建て替え計画が動き出した。
関係者が新国立競技場の2019年春の完成にこだわるのも、ラグビーW杯に間に合わせるためだ。6月28日に退任するまで10年間、日本ラグビー協会長を務めた森・五輪組織委会長の存在は極めて大きかった。
 そして、建設計画が急速に具体化したのは、勿論、2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致である。


■ イベントも開催する多機能スタジアム 総工費は1300億円程度
 新国立競技場は、東京都新宿区霞ヶ丘町にある現在の国立競技場を解体した跡地につくる。観客席の収容人数を今の約5万4000人から8万人規模へと大幅に増やす。
 敷地面積も拡張して、現在の約7万2000平方メートルから約11万3000平方メートルに増やし、隣接する日本青年館を取り壊すほか、現在ある公園も敷地に加えた。
総工事費は解体費を除いて1300億円程度とした。
新競技場にはラグビーやサッカー、陸上競技の大規模な国際大会が実施できる最高水準の機能を求める。例えば、現在8レーンある陸上用トラックを国際規格の9レーンに増やすことなどを想定する。2019年に開催されるラグビーのワールドカップ、またFIFAワールドカップの開催も視野に入れた。
 さらに、コンサートや展覧会などのイベントの開催も可能にし、「芸術・文化の発信基地」を目指す。開閉式の屋根を設けて、大会やイベントが天候に影響されず開催できるようにする。芝生の育成に必要な太陽光や風、水、温度を調整できる機能も求めた。
 観客席は陸上競技を催す際に8万人を収容。ラグビーやサッカーでは選手と観客に一体感や臨場感が生まれるようにピッチに近い場所せり出す可動式の観客席も設置する。コンサート会場にも使える多機能型スタジアムとして、優れた音響環境も備え、屋根には遮音装置を備える。
世界水準の「ホスピタリティー」も要求する。バリアフリーはもちろん、バルコニー席が付いた個室の観戦ボックスや要人向けのラウンジ、レストランなどを整備する。大会やイベントを開催していないときでも来場者が楽しめるように、商業や文化施設を備えた競技場を目指す。
 新競技場の施設だけでなく、JR千駄ヶ谷駅や東京メトロ外苑前駅といった周辺駅から歩行者が快適にアクセスする動線の確保や、周辺に再配置する公園や公開空地についての提案も求めるのが特徴である。
 まさに、“未来への遺産・レガシー”を追い求めた“夢”のようなコンセプトである。
 完成すれば、東京の新たな“ランドマーク”になると期待も集めた。

 しかし、問題は、その“実現性”をどこまでプロポーザルに求めたかである。事業費および工期についての考え方も提出することにしていたが、その内容はA4版1枚、または1000字以内と定められていたという。
 「1300億円」の巨大建設プロジェクトの国際コンペの募集要項としては、“破格”に簡略な扱いであったと思われる。
 “デザイン・コンクール”なので、提案者にはデザインの卓越性だけを求めて、“実現性”は厳格に求めず、審査する側が検証するという姿勢だったのだろうか。それならば審査する段階で“実現性”を精緻に検証しなければならない。


■ 46作品が応募 最優秀作品はザハ・ハディド氏のデザイン
 国際デザイン・コンクールの募集は、2012年9月25日に締め切られ、世界中から46作品が集まった。
 1次審査では、日本人の8人の審査員がそれぞれ推薦した作品について審査し、11作品に絞り込んだ。
 2次審査では、ノーマン・フォスター、リチャード・ロジャースの両氏も審査に加わり、10名の審査委員で投票を行い、上位作品について、「未来を示すデザイン性」、「技術的なチャレンジ」、「スポーツイベントの際の臨場感」、「施設建設の実現性」などの観点から詳細に議論を行った。その結果、Zaha Hdid Architecs、COX Architecture、SANAA(Seijima and Nishizawa and Associates)+Nikken Sekkeiの3つの作品に絞られた。
 3つの作品については、審査員の間で評価が分かれて、最後まで激しい議論が繰り広げられ決着が着かなかったという。最後は審査委員長の安藤氏が議論を引き取り、安藤氏はZaha Hdid Architecsの作品を最優秀案に選んだ。






(ザハ・ハディド アーキテクスの作品 出典 新国立競技場 国際デザインコンクール 最優勝賞)

■ 「スポーツの躍動感を思わせるような流線形の斬新なデザイン」 
 Zaha Hdid Architecsの作品が評価されたポイントは、「スポーツの躍動感を思わせるような流線形の斬新なデザイン」である。極めてシンボリックな形態で、「背後には構造と内部の空間表現の見事な一致があり、都市空間とのつながりにおいても、シンプルで力強いアイデアが示されている」としている。また可動式の屋根も“実現可能”で、イベント等の開催時には、「祝祭性」に富んだ空間が演出可能で、「大胆な建築構造がそのままダイナミックなアリーナ空間の高揚感、臨場感、一体感は際立ったものがあった」としている。
 さらに「橋梁ともいうべき象徴的なアーチ状主架構の実現は、現代日本の建設技術の粋を尽くすべき挑戦となる」と評価している。
 これに対して、当初から、Zaha Hdid Architecsのデザインは、「景観」を壊すとして強い批判があった。ジャパン・タイムズは社説で「美しい神宮外苑の公園に、うっかり落とされた醜いプラダのバッグのようだ」とし、「ザハ・ハティドの呪い」とコメントしている。「歴史ある外苑の雰囲気に溶け込まない」、議論が未だに終息していない。
 審査講評では、Zaha Hdid Architecsの作品は、「実現性を含めた総合力」が評価されたとしているので、“実現性”も議論されたに違いない。“実現性”には、建築工法、工期、そして「1300億円」の総工費という条件がクリヤーできるかどうかも含まれていなければならい。審査の中で「1300億円」はどのように議論されたのだろうか?
 国民の支持を得るために予算をはできるだけ低く見積もる必要があると、「1300億円」ではとうていできないことを知っていながら、“夢”だけを語ったのだろうか?
 審査に加わった10名の内、都倉俊一氏と河野一郎氏を除く8名は、超一流の建築専門家である。応募作品を審査すれば、総工費がおおまかに1000億程度なのか、2000億なのか、3000億なのか位の“見当”は簡単につけることはできたと思うが、それは“素人”考えなのだろうか?
 審査委員長の安藤忠雄氏は、2015年7月7日に行われた最終的に建設計画を決定する「有識者会議」にも欠席して、この件で一切、口を閉ざしている。
 いずれにしても審査作業の杜撰さが問われることになる。

(出典 新国立競技場 国際デザイン・コンクール 審査講評 日本スポーツ振興センター)

■ 2020年東京オリンピック・パラリンピック招致に成功
 2013年9月7日、アルゼンチンの「ブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会(IOC)総会で、東京がライバル都市のマドリードとイスタンブールを破って、2020年オリンピック・パラリンピック大会の開催都市に選出された。
 1964年以来56年ぶりの開催で、2回目の開催はアジアで初めてとなる。大会運営能力の高さや財政力、治安の良さなどが評価され、3都市による戦いを制した。
 東京の立候補は、リオデジャネイロ(ブラジル)開催が決まった2016年大会に続き2回連続で、今回、雪辱を果たした。「低コストの大会運営」を掲げたマドリードは3回連続、「イスラム圏初の開催」を目指したイスタンブールは5回目の挑戦だったが、ともに敗れた。
 東京は、2016年大会の招致レースでは国内支持率の低迷やロビー活動の出遅れが響き惨敗した。東日本大震災後の2011年7月、当時の石原慎太郎都知事が2020年大会への再挑戦を表明し、9月に東京招致委を立ち上げ、招致活動を開始した。
 招致活動では、ザハ・ハディド氏の新国立競技場のデザインを東京大会のシンボルとしてパンフレットや資料に載せ、セールスポイントの一つに位置付けていた。ブエノスアイレスで開催されたIOC総会で、安倍晋三首相も招致演説の中で、新国立競技場の建設を“公約”した。


■ 総工費3000億円試算 新国立競技場、計画縮小へ」
 2013年10月23日、下村五輪相は、参院予算委員会で、新国立競技場をデザイン通り建設した場合の総工費の試算が3000億円に達することを明らかにした。下村氏は「あまりにも膨大な予算がかかりすぎるので、縮小する方向で検討する必要がある」と述べ、流線形が特徴のデザインは維持し、開閉式の屋根や可動式の観客席を設置するコンセプトは踏襲するとした。
 経費節減については、競技場と最寄り駅を結ぶ通路などの簡素化など「周辺整備経」を対象にするとした。

 日本スポーツ振興センター(JSC)はザハ・ハディド氏の案を採用後、国内の建築設計会社に業務を発注し、ザハ・ハディド案を“実現”する「基本設計」の準備作業(「フレームアップ設計」を始めていた。ザハ・ハディド案を“忠実に”実現し、各競技団体の要望を全て盛り込んだ試算結果は、「3535億円」、当初額の倍以上に膨れ上がった。 2013年7月30日に文科省に報告していることが、その後明らかになっている。
 「3000億円」という総工費の見込みが公式に示されて、にわかにザハ・ハディド案の“実現性”に一気に疑念が生まれる。

■ 「アンビルドの女王」 ザハ・ハディド氏
 ザハ・ハディド氏はイギリス在住のイラク出身の建築家で、2004年、建築界のノーベル賞といわれているプリツカー賞を女性初、最年少で受賞した。
 建築家ザハ・ハディド氏の名前は、1983年に行なわれた香港の高級クラブの建築設計コンペで、彼女の設計案「ザ・ピーク」が1位を取ったことで、一躍、世界に知れるようになった。しかし、実際に、このデザインで建設されることはなかった。以後、その余りにも斬新なデザインで物議を醸しだしたり、“実現性”に問題があったり、建設費が膨大になり建設中止になったりするケースが相次いだ。「『アンビルド』(未建設)の女王」と揶揄されていたという。
しかし、その後、ロンドンオリンピックで使われたアクアティクス・センターや香港工科大学のジョッキークラブ・イノヴェーション・タワー、ローマの21世紀美術館、ライプチヒのBMWセントラルビルディング、グラスゴーのリバーサイド博物館などが次々に実現され、今春オープンしたソウルの新名所「東大門デザインプラザ」の設計も手掛け、約40カ国でプロジェクトが進行中だという。世界各国から注目されている建築家の一人になった。
ザハ・ハディド氏は、コンピューターを駆使した設計を得意とし、斬新な流れるような曲線で次世代のイメージを彷彿とさせるデザインが特徴的だ。またザハ・ハディド氏のデザインは最先端の建設技術を極限まで求めて、取り入れていることで知られている。今回の新国立競技場のデザインは、まさにザハ・ハディド氏流の“先端性”を十二分に発揮した作品と思える。
 筆者は、ザハ・ハディド氏のデザインを批判するつもりは一切ない。彼女は建築デザイン家として、“未来感覚の斬新さ”をあくまで追求してプロフェッショナルのデザインを創造する“芸術家”である。自由な発想で世界各国に“斬新”なデザイン作品を提示していくのは素晴らしいことだ。
筆者がかつて勤務していたビルの隣に1964年の東京オリンピックの競泳会場となった国立代々木競技場第一体育館がある。この体育館の設計をしたのは丹下健三氏である。当時としては実に時代の先端を行く吊屋根形式のデザインであった。当時の建設技術では極めて難度が高く、実現が難しいのではないかと言われていた工法に挑戦した。当時その斬新なデザインにまったく批判がなかったわけではないだろう。しかし、その優美な曲線を持った外観は東京オリンピックのシンボルの一つとして今も評価され、代々木のランドマークとなっている。建築物の“先端性”とはこのように理解するのが適切なのではないか。“時代”の一歩先を行けば評価されるし、二歩先を行くと誰も理解してくれないが世の常である。ザハ・ハディド氏は、そのギリギリの境界を狙っている“挑戦的”な建築家だと思う。
  問題は、ザハ・ハディド氏のデザイン作品ではなくて、そのデザイン作品を審査する側にあるのではないか?


■ 文科省 新国立競技場建設費1692億円上限に
 2014年1月、文科省は、「新国立競技場設計条件」(「フレームワーク設計」)を元にして、新国立競技場関連の予算を、新競技場建設費1388億円、解体費67億円、周辺整備費237億円、合わせて1692億円を“上限”とする方針を事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)に示した。
 これを受けて、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は、総工費「1625億円」(消費税5%で試算)の建設費を文部省に提示し、合意している。
 この時点の基本設計案では、屋根は開閉式で、サッカーやラグビーなどの試合では、座席がピッチサイドまで自動でせり出す可動式が採用されている。
 「1625億円」の負担は、JSCの運営するtotoの収入、国の一般会計、東京都が負担する。仮に東京都が500億円負担するなら、残りの1125億円をtotoと国の一般会計で負担することになる計算である。
 実は、新国立競技場関連経費には、別枠で、日本青年館とJSC本部の移転・新築経費や新国立競技場設計監理費用、埋蔵文化財調査費など279億円が必要とされている。この額を加えると合計は「1971億円」に膨れ上がる。本当はこの時点でも新国立競技場の建設経費は「1971億円」とするのが正しいのではないか? 膨れ上がる総工費を“抑制”するための“見せかけ”であろう。新国立競技場を巡る“迷走”は更に深刻さを増していく。


■ 縮小設計案 景観配慮、5メートル低く 「1625億円」を維持


(新国立競技場の完成予想図。環境に配慮して高さが当初案より5メートル低い70メートルになった 出典 日本スポーツ振興センター)

 2014年5月28日、日本スポーツ振興センター(JSC)の将来構想有識者会議(委員長=佐藤禎一元文部事務次官)が開かれ、最大8万人収容の新競技場の基本設計案が承認された。周辺に配慮して高さは当初案より5メートル低い70メートルとし立体型の通路を見直し延べ床面積を25%程度縮小するとした。19年9月開幕のラグビー・ワールドカップ日本大会に向け、2019年3月の完成を目指すとしている。
基本設計案によると、敷地面積は当初計画通り約11万3千平方メートル、延べ床面積は約21万1千平方メートルで、外観は、ザハ・ハディド氏の流線形の案を元にデザインされ、地上6階地下2階。総工費は1625億円とした。
 客席の一部は可動式にしてピッチサイドまでせり出す方式を採用。芝生の状態を保つため、地中に温度を制御する装置を入れるなど、最新技術を駆使する。屋根は、客席の上部は常設とし、グラウンド上部には可動式とし、周辺に配慮して吸音性を重視した膜を使用し、遮音性を高める。建築基準法上は「遮音装置」だとされている。
結果、現在の競技場では5億〜7億円程度の年間の維持費は、46億円に膨れるが、JSCは、コンサートなどの多目的利用で「年間50億円を超す収入が見込める」と試算する。
「1625億円」とした総工費は、「2013年7月の単価、消費税5%」での試算であり、「消費税の増税分」や「資材費や労務費の高騰」で、さらに総工費は膨らむのは必至である。
 また「1625億円」は、競技場本体に約「1388億円」、公園や連絡通路などに約「237億円」と記されている。「237億円」の周辺整備も含まれていることを忘れてはならない。競技場本体だけでは約「1388億円」なのだ。またこの時点で、解体費の「67億円」は総工費から除かれ、別枠の予算措置となった。
 
■ 新国立競技場 施工者は大成と竹中
 2014年10月31日、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は、工事施工予定者に大成建設と竹中工務店を選定した。
 大成建設は延べ面積約21万平方メートルの競技場など本体部、竹中は開閉式で遮音装置を設けた屋根を担当することになった。
 JSCは2014年8月に新国立競技場建設工事を2工区に分けて公募型プロポーザル方式(技術提携を結んだ特定の業者と契約を結ぶ方式)で技術提案を求めた。スタンド工区は大手ゼネコン3社、屋根工区は大手2社から提案書が出され、学識経験者ら7人からなる技術審査委員会によって審査された。
審査委は選定理由について、両社が工事で連携する姿勢を示している点などを評価した。
 ザハ・ハディド氏の“斬新”なデザインの構築物を建設するには、極めて高度な技術力が必要なため、JSCは実施設計から業者を参加させるプロポーザル方式を採用した。技術力のある大手ゼネコンの提携することで入札不調などの不測の事態を避け、確実に工事を進めることを目指したとしている。
しかし難点は、一般競争入札と違って価格での競争がなく、“随契”方式の相対の交渉となり、総工費は高めになることだ。
 今後、大成建設と竹中工務店は具体的な仕様を決める「実施設計」を日本設計グループと策定し、焦点の総工費を決めて正式契約した上で、2015年10月に着工する。以後、新国立競技場の建設を巡る“主導権”はゼネコン2社が握ることなる。残念ながら、JSCや文科省にゼネコン2社をコントロールする“能力”があるとは到底思えない。


■ 年間維持費35億円 更に大規模改修費656億円
 2015年8月19日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、五輪後の新国立競技場の収支計画を公表した。注目された年間維持費について、可動式の屋根や観客席、天然芝に配慮した大型送風機など、最新鋭スタジアムにした結果、当初は、旧国立競技場の約7億円から46億円に膨れ上がるとしたが、その後、批判を浴びて、経費を圧縮し、今回は35億1千万円と見込んだ。
収入は、スポーツで3億8800万円、コンサート(年間12日を想定)で6億円など約38億4千万円を見込んでいる。
「35億円」を上回る巨額の維持費を施設利用料などの収入で賄なえるかどうか懸念が示されている中で、年間約3億3千万円の黒字を見込んでいる。
重要なポイントは、“屋根付き”は、コンサートやイベント開催の際に重要な“決め手”になることだ。 天候に左右されず、しかも遮音効果がある“屋根”が無ければ、イベント開催も実現しないだろう。
また、建設後、50年間で必要となる「大規模改修費」は約656億円にも上る試算も明らかになった。約656億円を誰が負担するのかまったく明らかになっていない。
「大規模改修費」を含めると、「3億千万円」の黒字は吹き飛び、赤字は必至だ。


■ “迷走”国立競技場の解体工事 “五輪の聖地”に汚点
 2020年東京五輪・パラリンピックの主会場として建て替えが予定されている国立競技場(東京都新宿区)の解体工事では、極めて異例の事態が立て続いて起きた。発注元の日本職員が参加業者の入札関連書類を提出期限前に一方的に順次開封し、その上で予定価格を操作したのでは−との官製談合疑惑も浮上、国会でも追及された。入札は3回も行われようやく決着したが、2014年9月に開始予定の解体工事は、大幅に遅れ2015年2月にようやくスタンドの取り壊し工事に着工した。2015年5月には、スタンドなど構造物の解体工事は終了、近代日本において数々の歴史の舞台数々の舞台ともなった国立競技場は跡形もなく消えた。しかし、解体工事にからむ一連の騒動は、“五輪の聖地”の最後の1ページに汚点を残した。

1回目の入札は「不調」
2015年5月、第1回目の一般競争入札が行われ、準大手建設会社が中心に応札したが、業者側の提示額が落札の上限である予定価格をいずれも上回り、南工区、北工区ともに「不調」となり落札業者は決まらなかった。
解体工事は工区を南北の二つに分け、予定工事発注規模をそれぞれ20億2000万円以上としている。工期は来年9月30日まで。
 入札は、価格とともに業者の技術力などを点数化して評価する「施工体制確認型総合評価落札方式」で実施され、5月29日に開札した。南工区、北工区合わせてゼネコンを中心に4業者が参加したが、南工区、北工区ともにいずれも予定価格を上回り、随意契約も検討したが交渉がまとまらなかったとして、「不調」となった。JSCの担当者は「価格が折り合わなかった」とし。人件費の高騰などが背景にあったと伝えられている。

2回目の入札は「関東建設興業」が38億7180万円で落札
 国立競技場(東京都新宿区)の解体工事(北工区、南工区)の再入札で、日本スポーツ振興センター(JSC)は27日、いずれも解体業の「関東建設興業」(埼玉県行田市)が落札したと発表した。落札金額は計38億7180万円。
再入札では、予定価格を約1.2倍に引き上げ、技術力や施工体制を評価対象から外して参加資格を解体専門業者にも拡大し、北工区、南工区で延べ13社が参加した。
再入札では、北工区、南工区ともに最低価格を下回る金額を提示した延べ3社については、工事の安全性などを確認する「特別重点調査」の対象とし、調査の結果、「書類に不備があった」として両社とも失格とした。そして、北工区、南工区ともに次に低い価格を提示した関東建設興業を落札業者に決めた。落札業者は、最も低い価格を提示した業者ではなく、“繰上”選定だったのである。
 これに対して、南北両工区とも最低落札価格を入れながら失格した解体業のフジムラは、入札手続きに不公正があったと疑義を唱え内閣府の政府調達苦情検討委員会に訴えた。

入札やり直し 苦情検討委、公正性に疑義
 2015年9月30日、内閣府の政府調達苦情検討委員会は、国立競技場(東京都新宿区)の解体工事で、「官制談合の疑いがあり、入札の公正性などが損なわれていた」として、日本スポーツ振興センター(JSC)に入札をやり直すよう求めた。
日本スポーツ振興センター(JSC)は同日、工事を落札した業者との契約を破棄し、改めて入札を実施すると発表した。
  検討委の報告書などによると、JSCは本来、入札期限(7月16日午後5時)以降に開封すべき工事費内訳書を期限前に開封。また、落札の上限価格に当たる予定価格も開封作業と並行して決めていたとしている。検討委は、「工事費内訳書の開封と並行して予定価格が決められた」とするフジムラの申し立てについもJSCを厳しく批判すると共に、「調達過程の公正性や公平性、入札書の秘密性を損なった」と指摘し、政府調達のルールを定めた世界貿易機関(WTO)の協定違反と認定した。
入札期間中に、発注者である文部科学省所管の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)に談合情報が寄せられ、JSCの職員が入札期間中にもかかわらず入札書類を開封、各業者の入札価格を確認するという前代未聞の“ミス”が発覚したのである。
 JSCは「手続きが不適切という認識がなかった。関係者にご迷惑をかけ、深くおわび申し上げる」とのコメントを出した。
 2015年10月7日の参院予算委員会国会では、この問題が取り上げられ、民主党蓮舫氏が「手続きが不公正で、官製談合の疑いがある」として疑惑を追及した。
これに対し、参考人として出席したJSC河野一郎理事長は「第三者を入れた部会の調査で、談合なしと決定している」と、疑惑の払拭に努めた。

3回目の入札で解体工事の施工者決まる
 2020年東京五輪のメーン会場となる東京都新宿区の国立競技場の整備に向けて、既存競技場を解体する施工者(南工区、北工区)がようやく決まった。
12月19日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、競技場の北工区の解体工事の施工者を決める一般競争入札で、最低価格を下回る額を提示しフジムラに対し、工事の安全性などを確認する「特別重点調査」に入っていたが、“問題なし”として、施工者をフジムラに決めた。落札額は15億4900万円(予定価格20億2220万1000円)。
南工区の施工者は、15日にすでに関東建設興業が施工者に決まっていて、19日から解体工事に入っている。
落札額は13億9400万円(予定価格17億3956万6000円)。
南工区、北工区とも応札価格が最低価格を下回り、発注者のJSCでは工事の安全性などを確認する「特別重点調査」に入ったが、今回は“問題なし”とし、両者を落札者として決めた。

 今年3月から始まった競技場の解体工事の入札は、異例の3回のやり直しを経て、ようやく施工者が決まった。 
 新国立競技場は、2020年東京オリンピック・パラリンピックのシンボル、次世代に残す“レガシー(未来への遺産)”にすべき施設に早くも大きな汚点を残した。今は取り壊されてしまった旧国立競技場は、国民の大半から“五輪の聖地”としても守られていた。新国立競技場は一体どうなるのだろうか?。


■ “迷走” 大会終了の収支目論見
「収入38億円」、「支出35億円」、「黒字3億円」

 2014年8月19日、日本スポーツ振興センター(JSC)は、五輪終了後の収支計画を発表し、スポーツ大会やコンサートなどによる収入を38億4千万円、維持管理費などの支出を35億1千万円で、年間3億3千万円の黒字を確保できる見込みという試算を公表した。
 今の国立競技場の収入・支出はいずれも年7億円程度で、事業規模は5倍超に膨らむことになる。
JSCは「多角的な事業展開で自立した運営を目指したい」としている。
 一方で、毎年の支出とは別に、完成から50年後までに大規模改修費として656億円が必要として、JSCは「改修時は国に補助金を要請したい」とした。
 オフイスビルやマンションなどは、5年ないし10年ごとに保守・改修工事を行わないと建築物は維持できないのは常識である。高層ビルや巨大な建築物では、その経費は高額になることは容易に想像できる。
新国立競技場の維持に一体どの位かかるのか、誰が負担するのか、さらに不透明になった。
 計画では新国立競技場で年間に大規模なスポーツ大会が36日(3億8千円)、コンサートが12日(6億円)開催される想定で、9億8千万円のイベント収入を計上。コンサートの開催実績はこれまで年2日程度だったが、「屋根がある大規模会場は珍しくニーズは高い」(JSC)としている。
 そのほか、年間最高700万円のVIP室や会員専用シートの契約料で12億5千万円(プレミアム会員事業)、競技場を企業の広告に利用できる権利の使用料などとして10億9千万円(ビジネスパートナーシップ事業)、コンベンションの開催で1億8千万円(コンベンション事業)を見込んだ。
 さらに次世代パブリックビューイング、フィットネス、物販・飲食事業などを行う。7
支出では電気設備や機械の修繕費として6億3千万円、年間2回の張り替えを含む芝の管理費として3億3千万円などを計上した。
新国立競技場の収支目論見は、当初は、「収入50億円」、「支出46億円」、「黒字4億円」、翌日変更して、「収入45億円」、「支出41億円」、「黒字4億円」、そして今回更に圧縮され、「収入45億円」、「支出41億円」、それぞれ7億円と6億円、減額された。
 見通しの“甘さ”に、世論の厳しい批判を浴びて修正したと思われる。再び見通しの“杜撰さ”が問われる結果となった
それにしても、毎回示される収支は、10%近い黒字になる“不自然さ”はつきまとう。果たしてこの見通し通り運営できるのだろうか、信頼感が失われている。
 (すでに、可動式屋根の建設は、大会終了後に“先延ばし”することが明らかにされている。上記の“屋根付き”を前提にしている収支目論見はすでに破たんしている)


■ ゼネコンの見積もりは3000億円超 工期50か月
 新国立競技場のスタンド工区は大成建設、屋根工区は竹中工務店が担当することが決まっているが、2社は施工会社として積算をやり直し、建設資材の値上がりや労務費の上昇も加わって「3000億円超」とする見積もりをJSCに提出していたことが、2015年6月始め、明らかになった。また工期も「50か月程度」と、2019年3月の完成予定も8か月程度延びるとしおり、ラグビー・ワールドカップに間に合わない恐れも浮上し、関係者に衝撃が走った。
 文科省などは、フィールド上の開閉式屋根の設置を五輪後に先送りすることなどで、工期を縮め、総工費を圧縮するなど建設計画の再検討を始めた。


■ 下村文科相、東京都に500億円の負担を求める
 2015年5月18日、下村博文文科相は、舛添都知事に、新国立競技場の整備費約「500億円」(「580億円」と伝えられている)の負担を求めた。
さらに下村氏は、建設計画の見直しを検討しているとし「屋根をつけると工期に間に合わない。建設費も1600億円では済まない」と初めて公の場で明かした。屋根の開閉部分の設置を五輪後に先送りし、観客席8万席のうち可動式の1万5000席を仮設にして費用と工期を圧縮すると説明した。
 しかし舛添都知事は、まず負担ありきの姿勢に反発。建設費総額が一体いくらになるのかも示さず、都の負担額を求めるのは納得できず、税金を払う都民に説明できないとして根拠の説明を求めた。事実上の“門前払い”だったという。
 新国立競技場の整備費については、2014年1月、文科省は、新国立競技場関連の予算を日本スポーツ振興センター(JSC)に示したが、競技場本体の建設費とは別に「周辺整備費237億円」という額を明らかにしている。
「周辺整備費237億円」には、明治公園の整備、周辺の人工地盤の建設、周辺道路の整備などが含まれている。
「580億円」の内訳について、「周辺整備費」に加えて、競技場の客席を覆う天井や空調設備やバリアフリー設備などの本体工事に含まれる経費も入れて積み上げた額といわれている。
東京都が負担するのは、最大でも「周辺整備費237億円」とするのが妥当だろう。


■ 仮設席を1万5000席、開閉式屋根は五輪後先送り 再縮小設計案 
 「総工費3000億円超 工期50か月」のゼネコン2社の目論見を受けて、文科省やJSCは、最大8万人収容の観客席のうち可動式の1万5000席分を手動で取り外し可能な仮設席に変更するとともに、焦点のグランド上部の開閉式屋根の設置は五輪後に先送りにして費用を圧縮し、さらに安価な資材を使用してなどして「2500億円程度」に削減することで検討していることが明らかになった。
これまでの「1625億円」から約900億円膨れ上がった。
焦点の流線形の屋根を支える2本のアーチは、一部の専門家からは技術的に難しく、建設費が膨らんで工期が延びる原因だとして、見直しを求める声が出ていたが、現行通り残すことを決めた。
屋根については、固定式の観客席上部の屋根は当初予定通り設置するとしている。
 しかし、遮音効果があり、雨もしのぐグランド上部の開閉式屋根は、五輪開催後、コンサートなイベントの利用を増やすために計画された。 日本スポーツ振興センター(JSC)では、“屋根なし”の場合、収入で10億8千万円の減、収支差で8億6千万円の減としている。 “屋根なし”では、五輪後の収入の目論見にも暗雲が立ち込め始めている。
相次ぐ混乱の原因は、「流線形の斬新なデザイン」だとされている。ザハ・ハディド氏のデザインは、競技場の屋根を支える「キールアーチ」と呼ばれる2本の巨大アーチが特徴的である。この「キールアーチ」は長さ約370メートル、直径7メートルにも及ぶ巨大なアーチで、施工が極めて難しく、高価な高品質の鉄が2〜3万トン近く必要になるという。建設費は2本で1000億円程度に上るといわれている。「キールアーチ」の建設費だけで、新しいスタジアムが一つ建設できるだろう。「奇抜なデザインを選んだツケが今になって回ってきた」と批判する声も出てきているという。
 これまで新国立競技場の総工費には「237億円」の周辺整備を含めて算出していたが、今回の「2500億円程度」では明らかにされていない。総額を圧縮するために操作した懸念が生まれる。
再三にわたって迷走を続ける新国立競技場の建設問題については、その責任体制のお粗末さが批判されてしかるべきであろう。
文科省やJSCはこうした巨大プロジェクトのマネージメント能力に欠けているというだろうか? 先が思いやられる。


■ 新国立競技場、くじ収益頼み 2520億円の半分?
 2015年6月29日、大会組織委員会の幹部らで構成する調整会議が都内で開かれ、下村博文文部科学相は、屋根を支える2本のアーチを維持し、総工費2520億円で、2015年10月に着工し、当初予定より2カ月遅れの2019年5月に完成させる計画を、東京都の舛添要一知事に示した。
 下村文科相は、会議の場では都の費用負担の話は出なかったが、会議終了後、記者団に「都に(負担してもらう)上限を上げるお願いをするつもりはない」と述べ、都に対しては引き続き、500億円程度の費用負担を求めていく方針で、「今後、都知事の理解をいただき協議を進めていきたい」と説明した。一方舛添知事は「(今日は)話を聞いただけ」と語った
 問題は、総工費「2520億円」に周辺整備費「237億円」が含まれているのか、含まれているとすれば、どこまで含まれているか明らかにされていない。以後、「237億円」は曖昧になった。周辺整備費にはバリアフリー整備が含まれいて重要だ。意図的に操作したのか?。
 また、下村文科相は、「できるだけ国費を増やさない工夫をしたい」とも話し、競技場の命名権売却や寄付などで民間から200億円を集めるほか、スポーツ振興くじ(toto)の売り上げを充てて財源を確保したい考えを示した。
 関係者によると、文科省は現時点で、都に加え、国からも500億円の調達を見込む。そのうえで民間から目標額の200億円を確保したとしても、総工費の半分強にあたる残り1320億円をくじの収益に頼ることになる。

(出典 朝日新聞 2015年6月30日)

■ 国際公約 新国立競技場の建設
  建築家ザハ・ハディド氏の「流線型」のデザインは五輪招致のシンボルとして国際オリンピック委員会(IOC)に提出した立候補ファイルなどにも掲載されている。
計画を変更しなかった理由とされるもう一つが、国際オリンピック委員会(IOC)との「約束」だ。五輪招致時に新国立競技場のデザインを大きなセールスポイントと訴えてきたという経緯がある。東京五輪の開催が決まった2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会で、安倍晋三首相も新国立競技場の建設を公約した。公約が守れなければ日本の面目は丸つぶれだろう。

 2020年東京大会のキャッチフレーズは「DiscoverTomorrow(未来をつかむ)」である。
 新国立競技場の建設にtotoの財源を充当する方針が進められているが、totoは、地域スポーツ活動や地域のスポーツ施設整備の助成や将来の選手の育成など、スポーツの普及・振興に寄与するという重要なミッションがある。仮にtotoを財源に1000億円を新国立競技場の建設に拠出するとしたらtotoの創設精神に反するのではないか?
 オリンピックの精神にも反するだろう。IOCの“レガシー”では、開催地は、大会開催をきっかけに国民のスポーツの振興をどうやって推進していくのかが重要な課題として問われている。東京大会の“レガシー”は、どこへいったのだろうか?
 東京大会コンセプトは「コンパクト」、繰り返し強調しているキーワードである。過去からの資産を大切にしながら明日に向かって進んでいく都市の姿を世界に伝えていくとしている。
 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会での2020年東京オリンピック・パラリンピックの招致演説は何だったのだろうか。
 “新国立競技場”のキャッチフレーズ、「『いちばん』をつくろう」は実現できるのか?
 新国立競技場が“負のレガシー”になる懸念が更に増している。


★ 続き記事 新国立競技場建設費 2520億円承認 急転“白紙撤回”
★ 続き記事 二転三転「維持費と収入」 新国立競技場収支への“疑念

2015年7月7日
Copyright (C) 2015 IMSSR

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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute
(IMSSR)
President
E-mail thiroya@r03.itscom.net / imssr@a09.itscom.net
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新国立競技場国際公約

2015年08月21日 09時09分14秒 | 国際放送センター(IBC)
新国立競技場 “国際公約” 検証“屋根なし”は“公約違反”ではない

ザハ氏事務所がJSC批判 「建設費高騰はデザインが原因でない」
2015年7月28日、ザハ・ハディド氏の事務所は、ホームページ上で、「コスト高は東京の資材や人件費高騰によるもので、デザインが原因ではない」との声明を発表した。また、費用がかかりすぎるとされたアーチは230億円ででき、総工費の10%未満だったとしている。
建設費が膨らんだ要因について「完成日が動かせないプロジェクト、建設コストの急上昇、さらに国際的な競争がない環境のなか、少数の候補から建設会社を選定すれば競争原理が働かなくなるとJSC=日本スポーツ振興センターに警告したが聞き入れられなかった。十分な競争原理が働かないなかで、あまりにも早期に建設会社を選定したことが見積もりの過剰な高騰を招くことになった」と建設会社の選定方法に問題があったとの見方を示した。
そして、計画見直しで新しいデザインを選べば、質が悪くなるうえ、建設費も高くなるリスクがあるとし、安倍晋三首相に対し、有効な提案をする準備があると書簡を送ったことも明かした。
ザハ・ハディド氏は、8月にも来日して、自らの言葉で説明する準備を進め、日本で定着している「総工費高騰はデザインのせい」というレッテルをぬぐい去り、総工費を抑えた新案を準備していると伝えられている。

(出典 朝日新聞 NHKニュース 日刊スポーツ 2015年7月28日)


(New National Stadium, Tokyo, Japan Satement by Zaha Hdid Architecs 2015年7月28日 抜粋)
Zaha Hdid Architecs

新国立競技場 首相「計画を白紙に戻す」
 安倍総理大臣は、新国立競技場について、「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで計画を見直すと決断した」と述べ、計画を見直す方針を表明するとともに、下村文部科学大臣らに新しい計画を速やかに作成するよう指示したことを明らかにした。
安倍総理大臣は「オリンピックは国民皆さんの祭典だ。主役は国民一人一人、そしてアスリートの皆さんだ。だから皆さんに祝福される大会でなければならない。国民の皆さん、またアスリートたちの声に耳を傾け、1か月ほど前から計画を見直すことが出来ないか検討を進めてきた」と述べ、そして、「手続きの問題、国際社会との関係、東京オリンピック・パラリンピック開催までに工事を終えることができるかどうか、またラグビーワールドカップの開催までには間に合わなくなる可能性が高いという課題もあった。本日、オリンピック・パラリンピックの開催までに間違いなく完成することができると確信したので決断した。オリンピック組織委員会の森会長の了解もいただいた」と述べた。
(要約 NHKニュース 2015年7月17日)


新国立、2千億円未満に減額検討 デザイン見直しも
 2020年の東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の建設問題で、安倍政権は2520億円に膨らんだ総工費を2千億円未満に減額する方向で検討に入った。巨額工費に対する世論の強い批判を受け、計画の大幅な見直しを迫られた。
 政府関係者によると、今のデザインを決めた12年の国際コンペで選考に残った別のデザインを生かした案への変更や、工期を延長し一度に雇うより人件費を抑えることを検討している。
 工期を延長すると、競技場を使うはずだった19年のラグビーワールドカップには完成が間に合わないため、今後、安倍晋三首相が東京五輪・パラリンピック組織委員会会長でラグビー界に影響力のある森喜朗元首相と協議し、見直しを最終決断する見通しだ。
 新国立競技場は2本の巨大アーチで建物を支える特殊な構造で、総工費が当初の約1300億円から2倍近くまで増大していた。

(出典 朝日新聞 2015年7月16日)

高すぎ“新国立”に総理、総工費削減、計画変更検討
 2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる「新国立競技場」について、安倍総理大臣が総工費2520億円の削減に向け、計画を見直す検討に入ったことが明らかになった。
 新国立競技場を巡っては、2本の巨大な鋼鉄製の「キールアーチ」などが総工費を押し上げ、当初の予算を900億円以上、上回り、2520億円に上った。関係者によると、今月末にマレーシアでIOC(国際オリンピック委員会)総会が開かれ、この場でメイン会場の建設計画を報告することにしている。政府はこれまで計画の変更はないとしてきましたが、与党などからは巨大な予算に対する批判が上がっていた。このため、安倍総理は総工費を削減するために建設計画を変更する方向で検討に入ったという。今後、オリンピック・パラリンピック組織委員会と調整に入るものとみられる。

(出典 ANNニュース 2015年7月15日)


新国立競技場デザイン決めた安藤忠雄氏会見 「大幅なコストアップの詳細は承知していない」
 総工費が「2520億円」に高騰して、世論から厳しい批判を受けている新国立競技場建設問題について、新競技場のデザインを決めた国際デザイン・コンクールの審査委員長を務めた安藤忠雄氏(73)が経緯について初めて記者会見を行い、「デザインの選定までが仕事でコストの決定議論はしなかった」と述べた。
冒頭に、7月7日に開かれた新国立競技場の計画を公に議論する最後の機会となった「有識者会議」に欠席した理由について「大阪で別の会合があったので欠席した」と釈明した。
 「私たちが頼まれたのはデザイン案の選定まで、実際にはアイデアのコンペなんですね。こんな形でいいなというコンペですから、徹底的なコストの議論にはなっていないと思う。私自身こんなに大きなものは造ったことがない。流線形で斬新なデザインでした。なによりもシンボリックでした。この難しい建築工事を日本ならできると私は思いました」
 また、政府内で総工費2520億円の削減に向け、計画を見直す検討に入ったことについて、「建築家、ザハ・ハディド氏のデザインは外すわけにはいかないと思うが、2520億円は高すぎる。もっと下がらないかと私も聞きたい。徹底的議論して調整して欲しい」と述べた。
 新競技場の総工費が問題になってから、安藤氏が公の場で発言するのは初めてで、JSCによると、安藤氏からJSCに会見の要望があったという。
 安藤氏は、総工費が正式に示された7日の有識者会議を欠席したことから、下村文部科学相から「選んだ理由を堂々と発言してほしい」と指摘されていた。

(2015年7月16日)

新国立競技場 “国際公約” 検証“屋根なし”は“公約違反”ではない
 新国立競技場の建設を巡って、「2520億円」の建設計画を支持する根拠として、“国際公約”という声が関係者から聞こえる。
 2015年7月8日、菅義偉官房長官は記者会見で、新国立競技場の総工費が「2520億円」となったことに関し、現行のデザインについて「変更は我が国の国際的信用を失墜しかねない」と述べ、維持すべきだとの考えを示した。
さらに建設高騰の主な要因となっている「キールアーチ」について「このデザインを国際オリンピック委員会(IOC)総会で世界に発信して、東京が開催を勝ち取った経緯もある」と強調した。こうした意見は、新国立競技場の建設を現行のデザインで建設すべきだと主張する関係者の根拠となっている。
一方、IOC調整委員会のジョン・コーツ委員長は2015年6月末、準備状況を監督するために来日したが、毎日新聞は、単独取材を行い、現行の奇抜なデザインでなければ国際公約違反かを聞いたところ、「(ジョン・コーツ委員長は)けげんそうな表情を浮かべて答えた。『(日本)政府が決めること。変更したいと思えば、すればいい。総工費が増大して負担となることは心配している。IOCが象徴的な施設を求めたものではない』」と伝えている。(毎日新聞特集ワイド:なぜ見直せない「新国立」 2015年7月6日 毎日新聞社説 2015年7月9日)

IOC関係者は、一貫して、新国立競技場の建設計画見直しについて、「否定的」なコメントを出した経緯は一切ない。
 しかし、日本では、安倍首相、下村文科相、森組織委員会会長、日本スポーツ振興センター(JSC)、すべて口を合わせて、“国際公約”を盾に、変更はしないで当初計画通り建設することを主張していた。
  新国立競技場の建設計画変更は、ザハ・ハディド氏デザインを高らかに歌い上げた日本の東京五輪関係者の“顔がつぶれる”ということで、“国際公約”を持ち出したという疑念が拭えない。
 ようするに招致演説で新国立競技場の建設を“約束”した安倍首相の“顔をつぶさない”ということではないかという印象を持つ。

 日本は「2020年東京五輪」を招致するにあたって、新国立競技場について何を“公約”したのか、本当に誘致に成功した「大きな原動力のひとつ」だったのか、検証する。


招致演説で何を訴えたのか?
 2013年9月、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会総会、7日は、2020年夏季五輪開催地決定の投票だった。立候補していたのは、スペインのマドリード、トルコのイスタンブール、そして2回目の開催を狙う東京。どこの都市が選ばれてもおかしくない紙一重の激しい“競争”だった。投票の直前まで招致活動が繰り広げられていた。
 投票直前に行われた最後の招致演説は、冒頭に、高円宮妃久子さまが東日本大震災の復興支援にフランス語も交えて感謝の言葉述べられた上で、佐藤真海氏(パラリンピック 走り幅跳び)、太田雄貴氏(フェンシング)など現役アスリート、滝川クリステル氏(フリーアナウンサー)、安倍晋三首相、猪瀬 直樹東京都知事、竹田 恆和氏(招致委員会理事長)、水野 正人(招致委員会副理事長)がスピーチを行った。
 第一回目の投票では、東京が46票、イスタンブールが26票、マドリードが26票、決選投票に進む2位を決める投票で、イスタンブールが勝ち、東京とイスタンブールの間で決選投票が行われた。結果、東京が60票、イスタンブールが36票、2020年夏季五輪開催地は「大差」で東京に決まった。
 事前の予想では、東京は決して優位ではなかった中で、“劇的”な勝利だった。
 
 安倍首相は招致演説で、「他のどんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから、確かな財政措置に至るまで、2020年東京大会は、その確実な実行が確証されたものとなります。」と述べている。
 新国立競技場の建設は、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致の“切り札”になっていたと関係者は言うが、招致演説の内容で見る限り、新国立競技場に触れたのは、安倍首相のこの部分だけである。
 投票直前に行われた最後の招致演説は、登壇者の選択やスピーチの内容が素晴らしく、大成功で、各国のIOC委員に“東京”をアピールするのに大いに効果的だったと言われている。
 しかし、この招致演説で、印象的だったのは、新国立競技場ではなかったのではないかと思う。招致演説で印象的だったのは、スポーツを愛する“日本人”だったり、「おもてなし」だったり、パラリンピックの出場者の情熱だったり、東日本大震災からの復興なのではないか。新国立競技場の建設が印象的だったと報道は何もない。想像ではあるが、各国のIOC委員の印象も同様だったのではないか? つまり新国立競技場は、「2020年東京大会」招致の“切り札”でもなんでもなかったのではないか?


安倍首相は知らなかった ザハ・ハディド当初案は“実現不可能”
 2015年8月19日、第三者委員会の第二回会合に提出された資料によると、設計会社JVは、ザハ・ハディド氏のデザインを“忠実に” 再現し、かつ各競技団体の要望を全て盛り込むと、総工費「3535億円」に膨らむという試算結果を、2013年7月30日に、日本スポーツ振興センター(JSC)に報告をしていたことが明らかになった。「本体工事」は「3092億円」、「周辺整備」は「370億円」、「解体費」は「73億円」、試算条件は2013年7月単価、消費税5%である。
ザハ・ハディド案のデザインが採用された時の概算経費、「1300億円」の2倍以上に膨れ上がった額である。

 日本スポーツ振興センター(JSC)からこの報告を受けた文科省は、大幅なコスト削減の指示、日本スポーツ振興センター(JSC)は、8月20日、延べ床面積を29万平方メートルから22万平方メートルに減らすなど「1358〜3535億円」の複数の縮小案を報告していた。
 この時点で、文科省や日本スポーツ振興センター(JSC)など関係者は、ザハ・ハディド氏の当初デザイン案は、ほぼ“実現”不可能と認識していたと思われる。しかし、すでに招致ファイルにはザハ・ハディド氏の当初デザイン案が掲載され、新国立競技場の建設をアピールして、東京五輪の招致運動がラストスパートしていた中で、“起動修正”をためらい、本腰で乗り出すことはなかった。
 しかし、事実上“実現不可能”、“粉飾”された建設計画だった。

 一方、文科省は、この事態を把握しながら、安倍首相や下村文科相には報告せず、2013年9月7日、安倍晋三首相は、国際オリンピック委員会(IOC)総会で、ザハ・ハディド氏のデザインによる当初案で招致演説をしていたことが明らかになった。
(朝日新聞 2015年8月21日)
 ザハ・ハディド氏の当初案の“実現可能性”がほとんどないという認識にありながら、当初案で、“国際公約”をしていたとすれば、なんとも“お粗末”で“無責任”な対応と批判されても当然である。

いずれにしても、2015年9月7日には、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会IOC総会では、ザハ・ハディド氏のデザイン案の新国立競技場建設計画のままで、安倍総理の招致演説が行われることになる。そして、2020年東京オリンピック・パラリンピック招致に成功した。


「2020年東京大会」の招致ファイルから見る“公約”は“レガシー”(未来への遺産)と“コンパクト”
 一方、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が行ってきた招致活動ではどうなっていたのだろうか?
2013年1月7日、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会は、14項目から成る「TOKYO2020立候補ファイル」を国際オリンピック委員会(IOC)本部(ローザンヌ)へ提出した。
「立候補ファイル」は、“東京”が2020年夏季五輪開催都市に立候補する際の「公約」である。
最初に、「2020年東京大会」開催趣旨について以下のように記述している。
「1964年大会が日本国内及び世界中に力強い感銘を与えてから約50年が経過した。世界の最先端をいくこの都市は、オリンピックに更なる価値をもたらし強化する新たな基盤を世界規模で作り出すことになる。2020年東京大会は、急速に変化する新しい世界に生きる若い世代をスポーツやオリンピックに結び付け、次世代への長期にわたる資産を創造することになる。」
「2020年東京大会」をIOCが推進している“レガシー”(未来への遺産)にするという宣言である。
“レガシー”(未来への遺産)というキーワードは招致ファイルの中に頻繁に登場する。
そして、「都市の中心で開催するコンパクトな大会」も強調している。
「私たちの大会コンセプトは、大都市の中心でかつてないほどコンパクトな大会を開催し、スポーツと感動の中心にアスリートを据えることである。
 2020年東京大会は、成熟し今なお進化を続ける大都市の中心で開催される。東京が掲げるコンパクトな大会により、私たちは過去からの資産を大切にしながら明日に向かって進んでいく都市の姿を世界に伝えていく。
コンパクトをコンセプトとして掲げる2020年東京大会では、アスリートと観客の双方にとっての利便性を考慮し、下記により競技会場やインフラ設備を配置する。」
 「コンパクト」も「2020年東京大会」開催に係る“キーワード”で招致ファイルの中で登場する。「コンパクト」な大会を目指す、「2020年東京大会」を立候補するにあたって“公約”だ。
「2020年東京大会」のキーワードは、「コンパクト」と「レガシー」、このキーワードは、世界に対する“公約”であると共に、国民に対する“公約”である。

 続いて、競技会場やインフラなどの整備についての考え方を次のように記述している。


「物理的レガシー: 東京の新しい中心の再活性化」

(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

 「東京の新しい長期計画と完全に一致して、2020年東京大会は東京に有益な物理的レガシーを残す。
 2020年東京大会は、新設または改修された競技やエンターテイメントのための会場や施設、新たな緑地を地域にとって重要なポジティブなレガシーとして提供する。それらのレガシーには次のものが含まれる。

・ 2020年東京大会に向けて国立霞ヶ丘競技場、海の森水上競技場、夢の島ユース・プラザ・アリーナA及びB、オリンピックアクアティクスセンターなど、11の恒久会場が整備される。
・ 国立代々木競技場、東京体育館、日本武道館など、1964年オリンピック大会時の施設を含む15の主要コミュニティ・スポーツ施設が改修される。」
(中略)
・ 東京圏にある33競技会場のうち28会場、全てのIOCホテル及びIPCホテルが選手村から半径8km圏内に存在する、コンパクトな大会を開催する。
・ 過去の遺産を守りながら未来へのビジョンを示すため、競技会場を、運営・テーマにより2つのゾーンに分ける。一つは1964年東京大会のレガシーが集積するヘリテッジゾーン、もう一つは未来に向けて発展する東京の姿を象徴する東京ベイゾーンである。

 2020年東京大会のオリンピックスタジアムが位置するヘリテッジゾーンは、1964年大会のオリンピック・レガシーを今に語り継ぐ場所である。1964年東京大会のために建設された主要会場を、2020年東京大会で使用することは、次の世代へのオリンピックの新たなレガシーを創造し、継承していく精神を示すこととなる。
オリンピックスタジアムとなるのは、国立霞ヶ丘競技場である。国立霞ヶ丘競技場は、1964年大会のオリンピックスタジアムであり、テストイベントが行われる2019年までに最新鋭の競技場に生まれ変わる予定である。2020年東京大会では、8万人収容のオリンピックスタジアムとして、開・閉会式、陸上競技、サッカー、ラグビーの会場となる。
ヘリテッジゾーンには、同じく1964年大会の会場となった国立代々木競技場、東京体育館及び日本武道館を含め、計7つの競技会場が位置する。」

 東京ベイゾーンは、東京湾の臨海部に位置している。水と緑、生物多様性の拠点として開発される予定の場所であり、東京の未来への発展を力強く感じさせるゾーンである。東京ベイゾーンには、計30の競技が行われる21の競技会場があるほか、IBC/MPCが設置される。そのIBC/MPCは、日本最大の国際会議・展示施設である東京ビッグサイトに置かれる。なお、主要なメディアホテルおよび7つの競技会場がIBC/MPCから徒歩可能な範囲内にあり、東京圏にある全33会場中残りの21会場は半径10km圏内に位置する。」

 ここでも、「コンパクト」、「レガシー」(未来への遺産)のキーワードがしっかり記述されている。
新国立競技場については、「2019年までに最新鋭の競技場に生まれ変わる予定である。2020年東京大会では、8万人収容のオリンピックスタジアムとして、開・閉会式、陸上競技、サッカー、ラグビーの会場となる。」という記述しかない。
 「2020年東京大会」で、IOCや各国に強調したポイントは、「東京圏にある33競技会場のうち28会場、全てのIOCホテル及びIPCホテルが選手村から半径8km圏内に存在する、コンパクトな大会」であり、新国立競技場ではない。
 もっともこの“公約”、「半径8km以内」は、“経費節減”で競技場の新建設を相次いで中止し、既存の施設に振り替えるという計画の見直しで、事実上破たんしているのは承知の通りだ。 明確な“公約違反”であろう。
 建設中止の競技場は、夢の島ユースプラザ・アリーナA(バトミントン)、夢の島ユースプラザ・アリーナB(バスケット)、若洲オリンピックマリーナ(セーリング)、ウォーターポロアリーナ(水球)(新木場・夢の島エリア)の4か所である。
バトミントンは、武蔵野森総合スポーツ施設(東京都調布市)、バスケットはさいたまスーパーアリーナ(さいたま市)、セーリングは江の島ヨットハーバー(藤沢市)、水球は東京辰巳国際水泳場に会場変更することが決まった。
東京ビッグサイト・ホールA (レスリング)と東京ビッグサイト・ホールB (フェンシング・テコンドー)は幕張メッセ(千葉市)となり、幕張メッセでは、レスリングとフェンシング、テコンドーの3つの競技の会場となった。
 また馬術は、障害馬術、馬場馬術、総合馬術は馬事公苑に変更した。
 自転車については、トラックの競技を伊豆に変更する方向検討中である。
 しかし、IOCはこの“見直し”について、「コンパクトな大会を目指す」という趣旨を理解し、基本的に了承しているのである。

 続いて、「会場の概要」では、ザハ・ハディド氏のデザイン(国際デザイン・コンクールで採用された案)の新国立競技場の完成予想図を掲載すると共に、次のように記述している。



(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

「会場の概要」
(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

 「東京は大会のコンセプトである「コンパクト」に沿ってその過去と未来が独特な形で融合され、過去の遺産を守りながら、未来に向かって「未来をつかむ(Discover Tomorrow)」ことができる都市であることを世界に示している。会場は1964年東京大会のレガシーが残るヘリテッジゾーンと、未来の都市開発モデルである東京ベイゾーンという2つのテーマ及び運営ゾーンに位置する。東京圏にある33の競技会場のうち28会場は選手村から半径8km圏内にあり、選手のことを最優先に考えた、極めてコンパクトな配置となっている。
 計画されている37の競技会場のうち15会場(41%)は既存のものであり、その中の2会場は2020年大会のために恒久的な改修が必要となる。既存会場のうち3会場は1964年大会の時に整備されたものであり、当時水泳とバスケットボールの会場だった国立代々木競技場は2020年ではハンドボールの会場に、体操や水球が行われた東京体育館は卓球の会場、日本武道館は1964年と同様2020年も柔道の会場として利用される。
 2020年大会に向けて建設が予定されている競技会場は、総競技会場数のうち22会場(59%)であり、そのうちの11会場は東京のレガシーとして残す計画である。こうした恒久施設のうち、1964年のオリンピックスタジアムであった国立霞ヶ丘競技場は、テストイベントが行われる2019年までの完成を予定しており、2020年大会では開・閉会式、陸上競技、サッカー及びラグビーの会場となる。武蔵野の森総合スポーツ施設は、東京西部の多摩地域に2016年の完成を目指しており、2020年大会では近代五種が行われる予定である。
会場の選定、建設状況及び立地は、東京の中長期計画「2020年の東京」を中心に、社会、開発、持続可能性に関わる東京都の計画に合わせるとともに、2020年東京大会を選手重視のコンパクトな大会にすることを目指す。」



(出典 「TOKYO2020立候補ファイル」 2013年1月7日)

 新国立競技場については、テストイベントが開催される2019年までに完成させることや、収容人数を「8万人」し、「開・閉会式、陸上競技、サッカー、ラグビーの会場」とする以外に記述はない。完成予想図を見れば、“屋根付き”であることは分かるが、“屋根付き”のスタジアムであることをアピールしている形跡は一切ない。屋根付き”かどうかにこだわるのは、専ら“日本”の“事情”なのである。“公約”も何もしていないのである。IOCも、“斬新なデザインで、”“屋根付き”の現行案は“前向きに”評価しながらも、変更するかどうかは、デザインの問題であるとして、主催国が決める案件で、特に問題ではないとしているのである。
 「2020年東京大会」を支持した各国IOC委員にヒアリングをしてみたらどうか? 筆者の予想だが、「新国立競技場を“屋根付き”にするかどうか、開催国で決めれば良い。“屋根なし”にしたところで、“公約違反”でもなんでもない」と全員が答えるだろう。
 
 “国際公約”を理由に、「2520億円」の新国立競技場にこだわる根拠はなにもない。


IOCバッハ会長 “見直し”に理解 「デザインは問題ではない」
 7月18日、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は英国セントアンドルーズで「IOCの関心は競技場のデザインではなく、機能的な競技場が準備されるかだ。見直しで最新鋭の競技場が妥当な金額で造られることになると思う」と述べ、見直しに理解を示した。
 バッハ会長が主導して昨年末にまとめた中長期の五輪改革プラン「アジェンダ2020」では、五輪のコスト削減や既存施設の利用を掲げる。
バッハ会長は、横浜国際総合競技場など別施設の利用を否定した上で「新国立競技場を造ることは日本政府が決めたこと。この見直しによるコストカットは、アジェンダ2020に合致する」と話した。

(要約 朝日新聞 2015年7月18日)


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東京オリンピック 競技場 東京ベイゾーン ヘリテッジゾーン





2015年7月12日
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廣谷  徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
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