来春から中学校で使われる教科書の採択が、各自治体で進んでいる。

 そんななか、自民党の議員連盟が社会科の各社の教科書を比べるパンフレットをつくり、全国の地方議員あてに配った。

 議会での質問などを通じて教育委員会にはたらきかけ、保守色の強い教科書を選んでもらうのが狙いだという。

 採択はあくまでも教委の権限で行うものだ。我が街の子どもや学校にふさわしい教科書は何か、教育の観点から議論して選ぶことになっている。

 各社の教科書をどう受け止めるかは、政党の自由である。

 だが、政党が自らの主張に近い教科書を選ぶよう、はたらきかける行為は慎むべきだ。

 地方議員は教育委員の人事に同意を与える存在だ。行為が圧力と受け止められないよう自重してほしい。教委が本分を果たせるよう見守ってもらいたい。

 パンフレットには、たしかに特定の社を推薦する明確な表現はない。

 だが、取り上げた論点は、安倍政権が重視する国旗・国歌、集団的自衛権、憲法改正や、自民党がこれまで「自虐的な記述がある」などと指摘してきた南京事件、慰安婦などだ。

 たとえば国旗・国歌では、保守色の強い教科書について「特集ページで詳しく記述」など好意的に紹介。それ以外の教科書は、拉致問題で「索引に載っていない教科書がある」など否定的に評している。

 教科書は、政党の主張を教え込む道具ではない。

 教育委員は、議会で質問されても、1人の意見として参考にしつつ独自に判断してほしい。

 教育委員会の制度改革で、各自治体ではこの春から首長が「総合教育会議」を設け、教委と協議することになっている。

 文部科学省は教科書採択について、この会議の議題にすべきではないとした。教科書採択は政治的中立性が強く求められると考えているからだ。

 自民党は、教科書で政府見解があるものは取り上げるよう検定のルールの変更を提言し、実現させた。18歳選挙権に合わせ、政治的中立を逸脱した高校教員に罰則を科す法改正を安倍首相に提案してもいる。

 政治が教育現場に踏み込む一連の動きはいただけない。

 各地の採択は月末まで続く。

 自民党のパンフレットの題は「より良い教科書を子供たちに届けるために」。

 そのために政党や議員は何をすべきで、何をすべきではないか。改めて考えてもらいたい。