北朝鮮が韓国領に向けて砲撃し、韓国も応射して、朝鮮半島の緊張が高まっている。これ以上、撃ち合えば、互いに引けなくなってしまう。双方とも自制し、対話による収拾を図るべきだ。
北朝鮮軍は二十日午後に二度、高射砲などを数発発射した。山中に落下し負傷者はなかった。韓国軍も自走砲数十発を撃ち返した。
韓国側は最高度の警戒態勢に入った。南北軍事境界線に近く、攻撃される心配がある村落の住民は地下シェルターへ退避した。北朝鮮は前線地帯に「準戦時状態」を取るように命じた。準戦時の発令は二十二年ぶり。
直接の原因は今月四日にさかのぼる。軍事境界線の南側で地雷が爆発し、パトロール中の韓国兵二人が重傷を負った。韓国は地雷の形状などから、北朝鮮軍が侵入して埋設したと断定した。報復措置として、境界線近くに設置した大型の拡声器で体制を非難する放送を十一年ぶりに再開した。北朝鮮は拡声器の撤去を求め、新たな軍事行動まで警告している。
北朝鮮が強硬策に出た背景には、いまの東アジア情勢がある。
まず二十八日まで実施される米韓合同軍事演習への対抗とみられる。朴槿恵大統領が九月初めに訪中し、中韓接近がさらに進むことへのいら立ちもありそうだ。
若い指導者、金正恩第一書記が軍部に忠誠を求め、体制の基盤を固めるために、あえて緊張を高めているとの見方もある。
一方の朴大統領も、北朝鮮が核開発を中止する具体的な行動を取らない限り本格的な交流はしないという「原則外交」を崩さない。南北対話がほとんどなく、相互の不信感が頂点に達していたところに砲撃が起きた。
今は何よりも、互いに自制すべきだ。北朝鮮は再度の砲撃はもちろん、短距離ミサイルの海上に向けた発射、艦船の南下など挑発行動をしてはならない。韓国には相手陣地を狙うなど過剰な反撃はせず、冷静な対応を取るよう望む。韓国に軍を駐屯させる米国は、朴政権と十分連携し事態拡大を止める責務がある。
北朝鮮は労働党高官の発言として、「事態を収拾させ、関係改善に向けて努力する」と伝えたともいわれる。双方が対話に臨み、沈静化を急ぐよう強く求めたい。
米韓演習に対抗して、北朝鮮が日本海に向けてミサイルを発射するとの見方も出ている。日本政府は米韓両国と連携し、情報収集と監視を強める必要がある。
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