社説:安保転換を問う 自衛隊内部資料

毎日新聞 2015年08月22日 02時34分

 ◇国会で堂々と議論せよ

 自衛隊の運用を担う防衛省の統合幕僚監部が、安全保障関連法案の成立を前提として作成した内部資料が国会で問題になっている。法案が成立した後の対応を省庁が事前に検討することはあり得るが、今回のケースには違和感を覚える。

 安保関連法案が成立したら、自衛隊の活動はどう変わるのか。これは法案への賛否にかかわらず、国民が最も知りたい情報の一つだろう。残念ながら国会での審議は、そういう国民の期待に応えるものになっていない。だが、自衛隊の内部資料には、国会審議にはない「丁寧でわかりやすい説明」が随所に登場する。

 資料は、今春に改定された日米防衛協力の指針(ガイドライン)と、国会で審議中の安保関連法案について、49ページにわたって説明している。共産党の小池晃氏が入手して参院の特別委員会で暴露した。

 防衛省によると、衆院で法案審議が始まった5月26日、統合幕僚監部が自衛隊の主要部隊の指揮官ら約350人が参加するテレビ会議を開き、資料を使って説明したという。

 資料からは、日米の軍事一体化がいっそう進む様子がよくわかる。

 新ガイドラインには、自衛隊と米軍の政策や運用を調整する協議機関「同盟調整メカニズム」を常設することが盛り込まれたが、資料ではメカニズム内に「軍軍間の調整所」が設置される予定だと明記している。

 南シナ海での自衛隊の警戒監視活動については「関与のあり方について検討していく」としている。

 また、8月に法案が「成立」し、来年2月に「施行」されると、来年3月からは南スーダンに派遣中の国連平和維持活動(PKO)部隊に「駆けつけ警護」などの業務が追加される可能性があるとしている。

 安倍晋三首相は、参院の特別委員会で「資料の作成は、防衛相の指示のもと、その範囲内で行われた」と述べ、問題はないとの考えを示した。中谷元防衛相も「シビリアンコントロール(文民統制)上も問題があるとは考えていない」と語る。

 首相らの説明を受け入れたとしても、釈然としない。それは、資料の中身よりも、機密でも何でもないこの程度の内容が、国会や国民に知らされず、政府の内部だけで共有されている点にある。国会の軽視である。首相が今春の米議会での演説で、この夏までに法案を成立させると約束した姿勢とも通じる。

 安保関連法案について、国民の8割が説明が不十分と言っている。政府は、今回のような資料や情報をむしろ堂々と与野党に示し、国会審議を深める努力をすべきだ。

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