今日の横浜北部は久しぶりにスッキリ晴れましたが、さすがにピークの頃よりは暑くなかったですね。
数日前から緊張していた南北朝鮮国境ですが、高官同士が板門店で会談することでまずは戦闘回避できたようですね。
さて、久々にニカラグア運河建設という地政学的な話題について触れたトピックの記事の要訳を。
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ニカラグアは運河を夢見続ける
by ジャスティン・フォックス
Nicaragua Keeps Dreaming of a Canal
By Justin Fox
15-8/20 Bloomberg View
http://www.bloombergview.com/articles/2015-08-20/nicaragua-just-can-t-stop-dreaming-of-a-canal●去年のことだが、ニカラグア政府関係者は500億ドル(6兆円)の予算で、太平洋と大西洋をつなぐ運河の建設がもうすぐ始まると言っていた。億万長者のワン・ジン氏の率いる香港に本社を置くHKNDグループは資金の調達を始めており、すべては2020年までに完成する予定であった。
●そういうわけで、ブルームバーグのマイケル・マクドナルド記者は、ニカラグア湖の岸辺にあるエルトゥールという町を取材で訪問したわけだが、この町は、運河建設のおかげで破壊される予定であった。ところが彼が書いた記事の内容は、以下のようなものであった。
●「町の人間はもう何ヶ月も運河建設関係者を目撃しておらず、工事もわずかしか行われていないという。たしかに何人かの中国人のエンジニアたちが、湖の東側に標識を立てていたのを去年の暮れに見かけたし、今年のはじめには港が出来る予定の、西岸の工事用の道が拡大され、照明が新しいものに変えられた。しかし現地の若い実業家であるメンドーサ氏(32歳)は建設計画が進まないことを確信しているために、エルトゥールの町の郊外にコンビニと隣接した2階建ての宿を建設中だ。
彼は運河なんかできるわけないと大胆に述べている」
●これは多くの歴史的な実例によっても論証できる見解だ。ほぼ500年間にわたって多くの人々がニカラグアの運河建設を話題にしてきており、
本格的な計画は、少なくとも1849年から出てきている。
●この時はアメリカの鉄道王であるコーネリアス・ヴァンダービルドが、米東海岸から経済ブームに沸くカリフォルニア州への近道として、ニカラグア政府と運河建設計画を締結した。
●ところが実際にはほとんど工事が行われなかった。ヴァンダービルドは主に旅客ビジネスの人間だったのだが、
人を運ぶだけだったら大規模な運河を建設せずに、小さな蒸気船と馬車だけでニカラグアを横断できることを発見したからだ。彼の伝記の著者によれば、ヴァンダービルドの開拓したルートはアメリカに大きな影響を与えたという。
●単純にいえば、ヴァンダービルドはゴールドラッシュを、アメリカの太平洋への社会の拡大につなげて貢献した。運賃を安くして旅程を早めることにより、ヴァンダービルドは東から西への住民の移動と、西から東への金の流れを速め、経済的に大きなインパクトを与えたのだ。
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ところがニカラグアにとってのインパクトは、わずか一瞬のはかないものだった。1869年にアメリカで大陸横断鉄道が完成すると、ニカラグア・ルートは完全に不要なものとなり、この国の運河建設は再び「夢」の状態に逆戻りしてしまったのだ。シンシナティ大学の文学部の教授によれば、
ニカラグアの歴史や文学の中で、運河は最も重要な神話的な要素となったという。
●1914年にパナマ運河が完成して、太平洋と大西洋の間に大きな貨物船を迅速に通すことができるようになると、それは経済的な面での嫉妬の対象にもなった。
●パナマはコロンビアの一地方でしかなく、ニカラグアにはすでに魅力的な町があり、豊かな牧場主も存在していたほどだが、
そのパナマがいまや中央アメリカにおいて最も豊かな国となっており、一人あたりのGDPでは、ニカラグアの4倍の規模を誇るようになっているのだ。
●パナマの豊かさは明らかに運河の恩恵によるものだが、ここまでくると運河だけとは言えなくなってきている。この国の首都は、まるで太平洋にあるドバイのような都市になっており、摩天楼が立ち並んで地域の金融・商業の中心となっているのだ。
●もちろんニカラグアを横断する運河を建設することで、首都マナグアがこのような都市に変貌するとは思えないが、それでもニカラグアが運河を夢見るのはわかるような気がする。いずれにせよ、現時点では彼らは別の夢を探すべきであろう。
●実はわたしは1995年に首都マナグアに行ったことがある。この時は、ニカラグア国民議会がヴァンダービルドの経路を更新して、両岸に貨物港をつくり、その間に鉄道を通す計画を認可したのである。
●ところがこの「乾いた運河」の建設計画にもほとんど進展は見られず、グアテマラやホンジュラス(この2国は共同開発)、エル・サルバドル、コスタリカ、そしてコロンビアも同じような鉄道を計画したが、いずれも実現は難しそうだ。
●「乾いた運河」が魅力的なのは、パナマ運河を通過できないほど大きな貨物船がこの鉄道使ってくれれば、実際に運河を掘る必要もないし、船からコンテナを鉄道で運ぶことができれば、ロジスティクス関連のビジネスや、さらには最も必要とされる、製造業から生まれる雇用が期待できるからだ。
●ワン・ジン氏が進めているとされるニカラグア運河の計画は、来年完成するとされる拡張工事が終わってもパナマ運河を通行できないような、巨大な貨物船でも通過できるようにするものだといわれている。
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しかしこのような巨大な船が通れるかどうかは怪しいし、運河も建設して儲けが出るのかも怪しい。さらにパナマとニカラグアが競合することになると、両者ともに建設費を払えなくなる可能性もあるのだ。
●もちろんこのような価格競争は、世界の海運業にとっては朗報となる可能性がある。
それでもニカラグア運河は、パナマ運河と肩を並べるような存在にはならないだろう。しかも日がたつにつれて、運河建設の実現性は遠のくばかりなのだ。
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地政学では「通り道」の問題はかなり重要です。これが変化すると、国際政治のパワーバランスも変化する可能性も出てくるからですね。
地理、テクノロジー、地理観という古典地政学の「三位一体」の関係は、このニカラグア運河の例でも顕著に見てとれます。
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