2015-08-22
吉田健一展と 『バレエ・メカニック』
先日、西荻窪のササユリカフェで開催されている吉田健一さんの個展に行ってきました。『電脳コイル』 から 『Gのレコンギスタ』、『キングゲイナー』 など氏の手掛けてきた多くの作品の資料が展示されていたわけですが、特に 『エウレカセブン』 が大好きだった私としてはその圧巻の資料群を前に心を躍らせずには居られませんでした。
中でもある一冊のファイルに綴じられていた資料に私は驚きを隠せませんでした。第48話 『バレエ・メカニック』。アネモネとドミニクの恋路、その結末。あの素晴らしいエピソードを綴った本話の脚本・原稿がそこには収められていたのです。
「もし、この戦いが終わっても生きていいって言われたら。小さな鏡を一つ買って、微笑む練習をしてみよう――」
そんな彼女の言葉を筆頭に綴られた台詞と描写の数々はとても生き生きとしていて、それはもう読んでいるだけで一つ一つのシーンが鮮明に目の前へと蘇るようでした。また何より心打たれたのはそうした幾つもの文章の横に添えられる形で描かれていた小さめのイラストの数々。まるでイメージボードのようにそのワンシーンの奥行きを広げてくれるイラストには、出来る限り物語のイメージを齟齬なく伝えようとする吉田さんの熱そのものが込められていたようにも感じられました。
また参考資料として描かれていたアネモネの泣き顔が本当に凄く良くて。むしろ帰ってから本編を観返してみると参考として描かれていた筈の表情がほぼそのまま本編で使われていたりもするのだから面白いなぁと。
それこそ、あの時あの瞬間のアネモネは一体何を想い、何に憂い、どんな表情で涙を流すのだろうという問い掛けに一番近い答えを持っていたのはおそらく吉田さん自身だったのかも知れません。
アネモネはこう泣くんだ、こういう表情をするんだと出来る限りそのイメージを伝えようとする吉田さんの想いと、そうすることで伝播していく作品への理解。むしろこの挿話のコンテ・演出を担当された村田和也さんが数ある吉田さんのイメージイラストを本編にもそのまま起用したのはだからこそなのだろうとも思うのです。
作品に寄せる想いとそのイメージ。それも決して 『バレエ・メカニック』 にだけ当て嵌まるものではなく、緻密に、そして繊細に描かれた吉田さんの絵にはそんな “伝えるため” の素敵さがたくさん詰まっていたように感じます。
作品に対し想いを込めてくれる人がいる。その想いを伝えようと出来る限りの表現をしてくれる人がいる。そしてそれを理解し、受け止めてくれる人がいる。それこそ今でさえ名話として名高い 『バレエ・メカニック』 ですが、その制作の裏側では懸命に作品を良いものにしようと努力した方々がいるのだなぁと、少しだけその舞台裏を垣間見れたような気さえ今はしています。
当たり前のことかも知れませんけど。そんな当たり前で、とても大切なことを改めて教えて貰えた個展でもあったように思います。開催は来週の月曜日、8月24日まで。少しでも興味のある方は是非足を運んでみて欲しいと思います。
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