営業会社が自社開発エンジニアを増やす2つの下準備~PR TIMESの内製化シフトに学ぶ
2015/08/21公開
(写真左から)PR TIMESのエンジニア宇佐見英美子さん、山田和広氏、代表取締役の山口拓己氏
Webサービスをスケールさせる上で開発体制の強化は必要な条件の1つ。だが、業界全体に蔓延するエンジニア不足と、それによる採用難と対峙しなければならない。
特に「システム開発を外部に委託してきた営業会社」は、自社開発エンジニアを増やして体制を強化する際、さらに高い障壁を越えなければならないと言えるだろう。採用後にエンジニアが根付く文化がなければ、苦労して雇った人材の早期退職もあり得るからだ。
では、営業会社がエンジニア採用を成功させ、根付く文化を作るためにはどうすればいいのか。そのヒントとして、サービス開発の内製化を成し遂げた企業を紹介したい。マーケティングPRツール『PR TIMES』を運営するPR TIMESだ。
月間500万PVを記録している『PR TIMES』
『PR TIMES』は現在、月間500万PVを誇り、2015年8月には導入社数1万社を突破した。プレスリリース配信サービスとして急成長を遂げている同社だが、2年前までエンジニアゼロ名の組織だったという。
それが、2015年8月時点で全社員36名中、エンジニア・デザイナーが10名にまで拡大している。
なぜ、PR TIMESは作り手たちを集め、チームを拡充することができたのか。
苦境を救ったのは非正規雇用エンジニアの助言
そもそもエンジニア採用に踏み切った理由について、代表取締役の山口拓己氏はこう振り返る。
「ガジェットがPCからスマホにシフトするにつれて、より多くのメディアやサービスが立ち上がりました。プレスリリースの可能性が広がっているにも関わらず、当社の開発は協力会社への外注という体制。1年に1回のリニューアルしかできない状況ではマズいと考え、採用活動を始めました」(山口氏)
サービスをスケールさせるために、インハウスでの作り手をPR TIMESは求めた。だが、上記した一般論と同様に、入社したエンジニアの早期退職という事態に陥ってしまう。
「半年も経たずに退職を希望されました。我々にエンジニアの仕事を理解する意識がなく、『集中しているのだろう』と思ってコミュニケーションを取らなかったことも問題だったと思います」(山口氏)
営業中心の組織だったPR TIMESがエンジニアを採用する上で、こだわったポイントとは
採用を開始したのは2013年。この時点で取引先業は5000社を超えていた。サービスが順調に伸びている背景もあってエンジニアの採用はできるものの、組織に定着しなかった。
この由々しき問題を解決するためにPR TIMESが取った手法は、先に非正規雇用のエンジニアを頼り、彼らから助言を求めることだった。
また、新たに2つの取り組みを行ったと山口氏はいう。
「フリーランスや派遣社員の方に当社のオフィスで働いてもらい、組織的に取り入れるべき点をアドバイスしてもらいました。そして、正社員採用を助けてもらったこともあります。採用面接時、フリーランスの方にも入ってもらったのです」(山口氏)
彼らとコミュニケーションを取ることで、ツールやガジェット、椅子などへの積極的な投資、勉強会への参加を推奨するなど文化づくりの助言に耳を傾けた。
この取り組みは効果を発揮し、フリーランスから正社員になった人も生まれたという。こうして、PR TIMESはエンジニア採用を可能にする土壌を作り上げていった。
組織理解を深めた上で一緒に働く
PR TIMESはサービスの性質上、カスタマーサポート宛ての電話が鳴ることが多い。静かな環境でコードに集中したいと考えるエンジニアにとっては弊害になるという見方もあるが、PR TIMESのオフィスはエンジニアとセールス、カスタマーサポートの席は近いそうだ。
頻繁に電話が鳴ることで、集中が切れてしまうのではないか? この点について、受託開発会社から同社に転職したエンジニアである宇佐見英美子さんの意見はこうだ。
入社の前段階からカルチャーを知っていたことにより自然とフィットできたという
「電話が鳴ると、システムの不具合などリアルな声が隣で聞こえてくるので、逆にすぐ原因を調べることができます。だから、特に不満に感じたことはありません」
このサービスへの当事者意識の裏側は、入社前からの意識付けがあるという。山口氏は、「採用候補者には、肩書きに関係なく多くの社員に会話する機会を設けている」と語った。
社員数が増えた今でも人事、役員、代表という選考プロセスではなく、メンバーと候補者がコミュニケーションを取る機会を設けている。
このステップを踏むことで、候補者は会社の内情を知ることができる。エンジニアがセールスドリブンの考え方を持っているチームであることを理解した上で、入社することができるのだ。
エンジニアが集まり、新サービス開発も高速化
こうしてエンジニアリングチームの拡大に成功したPR TIMESは、7月2日にカスタマーソリューションツール『Tayori』をリリースした。
1行のコードをコピー&ペーストするだけで、無料から始められる『Tayori』
『Tayori』の開発を決定付けた理由は大きく2つある。1つは、『PR TIMES』への問い合わせについて、組織内でナレッジシェアができていなかったこと。2つ目に、1日20件を超えるプレスリリース関連の問い合わせを社内で対応していたことが挙げられる。
「サービスに対しての声を各担当者が受け取るわけですが、どうしても暗黙知になってしまっていた。ユーザーから届いている重要なメッセージが全体に行き渡っていないと感じていました」(山口氏)
次に、社内での問い合わせに関してはこうだ。
「プレスリリースに関しての問い合わせは、企業が発信した情報にユーザーが興味を持った証拠です。ですが、それは一部に過ぎないとも言えます。発表に対して、興味を持ったとしても問い合わせ先が分からないために、あきらめてしまっているケースもあると考えました」(山口氏)
そこで生まれたのが『Tayori』だ。従来の「問い合わせフォーム」とは異なり、表示されたアイコンをクリックするとチャット風のUIが開き、そこに必要情報を打ち込むだけで、管理画面上にメッセージが届く仕組みになっている。
もともとはPR TIMESの社内向けツールとしてスタートしたプロジェクトだったが、多くの企業にも取り入れてほしいという考えから、外部提供する前提での開発が始まった。
この『Tayori』の開発を担ったのは、山田和広氏だ。
『Tayori』開発を担当した山田氏
「開発メンバーは私とデザイナー、そして外部パートナーの5名です。3月ごろにアイデアが固まり、スマホ優先で開発を進めた結果、3カ月ほどでリリースすることができました」(山田氏)
『Tayori』開発でこだわった点についてはこう語る。
「スマホ版の『Tayori』は、チャットツールのようなUIを採用しています。スマホに特化している問い合わせフォームは多くありません。そこで、ユーザーが質問しやすいデザインや機能を考えました」(山田氏)
チャットツールのSlackが優れたデザインと遊び心のあるB2Bプロダクトとして人気を博しているが、『Tayori』も同様に、「ツールとして遊び心が加えた」と山田氏は言う。
企業のWebサイトに埋め込まれることを前提に開発されているため、質問内容を企業ごとに変更できるだけでなく、アイコンの色や模様を企業側でカスタマイズすることができるのだ。
実はこの『Tayori』は2年前に構想が動き出したものの、協力会社中心の開発に失敗していたという。一度はあきらめてしまったサービスですら、作り手の存在で改めて取り組むことができる。エンジニア採用はPR TIMESにとって大きな転機となったと言えるだろう。
まずは、組織がエンジニアを受け入れる体制になっているのか。この視点を持ちながら、組織を変化させる準備を行うことが大切なのかもしれない。
取材・文/川野優希(編集部) 撮影/小林 正
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